第5回 飛びて江を渡る

 漢文大系本、第3巻、78ページ。

 西暦280年。


 晋大挙伐呉。杜預出江陵。王濬下巴蜀。呉人於江磧要害処、並以鉄鎖横江截之。又作鉄錐長丈余、暗置江中、逆拒舟艦。濬作大筏、令善水者、以筏先行、遇錐輒著筏而去。又作大炬、灌以麻油、遇鎖焼之、須臾融液断絶。於是船無所礙、遂先克上流諸郡。預遣人、率奇兵夜渡。呉将懼曰、「北来諸軍、乃飛渡江也。」


 晋、大挙して呉を伐つ。かうりように出づ。わうしゆんしよくに下る。呉人、かうせきの要害のところいて、並ぶるにてつを以てし、かうに横ぎりて之をつ。又たてつすゐけ丈余なるを作り、ひそかに江中に置き、しうかんむかふせぐ。しゆんたいばつを作り、水に善くする者をして、いかだを以て先行し、すゐに遇ふごとにすなはいかだけて去らしむ。又たたいきよを作り、そそぐに麻油を以てし、鎖に遇ふごとに之を焼けば、しゆにして融液断絶す。ここに於いて、船、さまたぐる所無く、遂に先んじて上流の諸郡につ。預、人をつかはして、奇兵をひきゐて夜渡らしむ。呉将、おそれて曰はく、「北来の諸軍、すなはち飛びて江を渡るなり」と。


 晋は、大軍を出して呉を攻めた。こうりように出た。おうしゆんしよくに下った。呉では、長江の河原の要害の地点に、鉄の鎖を並べ長江を横ぎるようにして水路を絶った。また、長さ一丈あまりの鉄のきりを作り、密かに長江の川底に置き、軍艦を迎えうって防ぐことにした。おうしゆんは大きないかだを作り、泳ぎの上手い者に命じて、いかだで先行させ、きりに行き当たるたびにいかだに刺して除去させた。また、大きな松明を作り、麻の油を注いで(火力を強め)、鎖に行き当たるたびに焼いていったが、そうすると鎖はたちまちに融けて滴り落ち、絶ち切れるのだった。こうなると、船には妨げるものもなく、そのまま、まず上流の諸郡に勝つことができた。杜預は、人に命じて、奇兵を率いて夜に江を渡らせた。呉の将軍たちは恐れおののいて、「北方から奇襲してきた敵軍は、空を飛んで長江を渡ったとでもいうのか」と言った。

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