花と星の紡ぎ唄

@miduki_kikyou

第1話「奇病」

この世界には、《人間》、《妖》、《神》…そんな者が住まい、共に生活している。

それと同時に《奇病》というのも蔓延している。


「ゲホッ…行ってきます。」

私は、ほんの少し咳をして家を出た。


私の名前は『花城 咲羅(ハナシロ サラ)』

今日から高校生になる。

私が合格した学校は、《奇病》に罹った患者──学生を受け入れているらしい。

勿論、《普通》の学生も受け入れている訳で。

「…大丈夫、かなぁ?」

不安に駆られながらも、学校に向かう。

学校に近づくにつれ足が重くなっていく。

しかし、行かなければ。

重い足を必死に動かしながら学校の方向へ行った。


「………ふぅー…」

無事受付を済ませ、自分の席に座る。

私の席は1年A組の一番後ろの窓側だ。

「……何とか無事に着いたー…」

安堵の溜息をつく。

入学式の開始まで時間はある。

教室の至る所で集まってグループが出来始めている。

「…私も絡みに行こうかな。」

呟いて、近くのグループに話しかけようと立ち上がったその時。


ガラッ


後ろの扉が開いた。

「…?」

其方に目線を移す。

教室に入ってきたのは、右目を包帯で隠した男の子だった。

彼は無言で教室に入り、私の席の隣に座った。

何となく気になって、彼の元に向かう。

「おはよう。」

「………おはよ」

私が挨拶をすると、暫くして返事をした。

何処か、昔の私に似ている気がする。


──もしかして。


心の中で突っかかることを口に出そうとした。

…だが。

「はーい、皆さーん。全員の確認が取れましたので今から体育館に向かいますよー。廊下に並んでくださーい。」

前の扉が開き、引率の先生が指示を出した。

其々のグループから返事の声がする。

「あっ、はーい。…一緒に行こ?」

「…。」

私は無言を承諾と見て、立ち上がり足早に進んでいく彼の後を追いかけた。


* * *


「ふぅー…終わったー…」

「……。」

入学式が終わり、最初のLTも終え、ちらほらと部活動を見学しに行く子達を後にし、私は鞄を持って足早に進んでいく彼を追いかける。

「……ねぇ、なんで俺にこだわるの?」

急に立ち止まり、振り返って私に向かって問う。

「なんか、昔の私に似ているような気がしてね、放っておけないんだ。」

答えると、

「それはお前の偏見だ。俺は俺。お前に似てるわけないだろ。」

正論を言われ、思わず黙り込む。

「…これから俺に関わらないでくれ。」

そう言って私に背を向け、彼は廊下を進んでいく。

「……それでも、私は…」

一緒にいたい。


そう続けようとした時。

心臓が大きく鼓動したように聞こえた。

「…!」

左腕に激痛が走る。

両目を瞑って蹲り、右手で押さえる。

「っ…あぁ…!」

やがて、左手首に、紫君子蘭──アガパンサスの花が咲いた。

其処から徐々に胴体に向かって咲いていく。

その度に激痛が走る。

「……そんなことしても無駄…だ……」

彼は振り向き、私を見る。

「お前、大丈夫か!?……ッチ、仕方ねぇな。えっと…保健室は…」

彼は私を背負い、保健室の方向へ向かって行く。


…やっぱ、起こしちゃったかぁ。


薄れゆく思考の中、そんなことを思って私の意識は消えていった。


◇ ◆ ◇


何なんだ、此奴は。


俺は、急に左腕に花を咲かせた彼女を保健室に連れていく。

「…失礼します。急に倒れた奴を…」

俺は、保健室の教師に事情を説明する。

「彼女、《奇病》持ちみたいね。こういう子は、発作が何時起きるか分からないから薬を常備しているはずよ。…鞄、探らせてもらうね。」

教師は彼女の鞄を漁り、小さな巾着袋を取り出す。

中から出てきたのは、薬。

「これみたいね。…っと」

コップに水を移し、彼女に薬を飲ませた。

忽ち左腕の花は枯れる。

「しばらく安静してればこの子は大丈夫。…で、君はどうするの?」

「……俺が連れてきたんだ。起きるまで待つ」

「あらあら…ふふっ」

教師は不敵な笑みを浮かべ、奥の部屋に消えていった。


◆ ◇ ◆


「………ん…?」

ふと、目が覚める。

最初に見たのは、天井。

私はベッドの上に寝かされていた。

「……やっと起きたか…ったく、面倒事に巻き込みやがって…」

ベッドの傍に彼は居た。

「ごめんね…。私、昔っから色んな事に手を出しちゃう癖があるから…」

「アンタ、《奇病》持ちなんだって?…何て言う病名だ?」

彼は私の《奇病》の事を知っていた。

先程、その病の発作で倒れたんだ、無理はないか。

ほんの少し苦笑いを浮かべ、彼に言った。

「私が患っているのは、《先天性身体部位思考花咲症候群》…俗に言う、《花咲病》」

「ふぅん…。……俺も奇病持ちだ。」

彼は右目を隠していた包帯を解く。

其処には、右目を中心に、晴明桔梗印──星印の痣が無数にあった。

「俺の病は《後天性月星操作病》。適当に《星操病》って呼んでる。」



続.

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