以上と以下の意味が逆転している問題

 ランキング10位以上!


 と突然言われたら、1~10位くらいかなーって想像しませんか?

 んで逆に10位以下と言われたら10~10+(1×X)位かなーって。

 でもこれって変で、数字って基本的に大きい方が上になるはずなんですよね。実際「このカップに100ml以上注いでください」と言われたら、100mlよりも数字的に多い量を注ぐでしょう。

 だから10位以上と言えば10と言う数字より大きい数字となりますので、むしろランキング的には下がっていくよう形になるんですよね。


 これはつまり、数字と文字の化学反応と言いますか、数字に対する絶対的ルールと文字が抱える概念が相反しているわけなんですよ。矛盾と言うことです。

 なにかもっと適した言葉を当てはめたらスッキリするんじゃないかなって。


 ここで出てくるのが『以内』と言う言葉。

 実は、こっちの方が多く使われているんじゃないかなと思ってたんですよね。「ランキング10位以内!」みたいな感じで。じゃあなんで先にそれを出さなかったのと言う理由を、『以内』と言う言葉の意味なんかも合わせて説明していきます。


【以内】

1 ある範囲の内側。「境界線—」⇔以外。

2 時間・距離・数量・順位などで、ある基準を含んでそれよりも小さい範囲。「一〇日—には帰る」「一万円—の買物」


 例にある通り「一万円以内の買い物」みたいに使えば、「10位以内」と言う言葉はしっくりきますね。

 ほんならそもそも順位を「以上/以下」で表すことがおかしいんやろか。とかそういう風にも思ったんです。以内でもういいんじゃないかって。

 でも、じゃあ、10位より数が多くなっていく場合にはなんて言えばいいのか。普通に考えたら、対義語を使いますよね。実際辞書にも「以内⇔以外」とありましたからそれが良いんかなって。


【以外】

1 ある範囲の外側。「自分の職務—のこと」⇔以内。

2 (他の名詞や動詞に付いて)それを除く他の物事。「関係者—入室禁止」「食べる—に楽しみがない」


 『以外』の方にも対義語で『以内』が記されている辺り、これはもう完璧に以内の対となるのは『以外』しかありえへんってことになりますよね。

 でも言います? 「10位以外でした」って。少なくとも僕は耳にしたことないんですよね。今さら言われても違和感があるって言うか、納得できないんですよね。

 だからやっぱり「以内/以外」で語ると個人的にはデカい違和感が払拭できない。


 そう言うわけでやっぱり「以上/以下」の方が良いような気がして、だから冒頭から『以上』と言う言葉から入らせてもらったんですよね。


 ここで言葉に寄り添ってみます。

 言葉的に「上位入賞者」とか「ランキングが下がった」と、言うように、「数字が下がるほど上で数字が上がるほど下」と言う数学とは逆の概念が強く働くステージがあり、それを話す側と聞く側の双方が理解したうえで成り立つものと認識します。「下がるほど上」と言うとこんがらがりそうなので、「下がるほどすごい」とか「下がるほど強い」とかにしましょうか。

 つまり最初からここは数字の価値が逆転するステージだ。と決定付け、周知徹底することで、違和感の入り込む余地をなくしてしまえば、数学的に間違っていようとも関係ないってわけです。


 でもそんなんで片付く問題ならこんなにモヤモヤしてないんですよ。こちとらそれで納得しようとしてたんですけど、そうはいかなかった。当然他にも同じ例はないかと探してしまう。すると引っ掛かって来たのが『台風の中心気圧』です。

 台風の中心気圧は、周りの気圧に比べて数字が下がれば下がるほど強いですよね。さっきのランキングと同じ原理です。

 しかしどうですか。中心気圧を指して「990hPaから980hPaに上がり、台風はさらに強くなりました」とは言わないですよね。ここは普通に「下がり」を用いるはず。数字が少なくなるほど台風としては強くなるのに、ここではランキングの概念が通用しません。ランキングなら990位から980位に上がると言えるでしょう。

 納得できないですよこんなの。

 しかしまあ自分でもわかってますよ。論点のすり替えです。そもそも台風が強いこととランキング的に良いことはイコールでは結べないし、台風は負の気質を持つのに対してランキングは陽の気質がありますからね(なんとなく)。


 じゃあなんでわざわざこんなこと言った? と言う疑問もあるんでしょうけれども、これがまさに言いたいこと。こじつければなんでもありになるんじゃね? と言う話。

 さっきのランキングの話ですが、あの数学的理論が覆ることになんの違和感もないのは、「そのようにして育ってきたから」じゃないですか? 逆説的に、先ほどの台風の話も「強ければ強いほど『上がる』と言う表現を使う」こととして、みながそのように言っていれば違和感なく受け入れた可能性もあります。

 もちろん、ランキングと気圧は使われる場面が違いますから、その限りではないです。例えばの話です。

 だから、ランキングの「数字が下がるほど上」も、なんとなく直感的にそう感じているしみんながそう言っているからそのようにしているだけで、言葉と言うのはそれくらいあやふやで適当なものなんじゃねーかなーと思ったわけです。


 だからって別に言葉を正そうとかそう言うんじゃなくて、成り立ちとかに思いを馳せたり、矛盾に頭を抱えたりするのも一興なんじゃないかなと。

 モヤモヤは解決しませんが、それもまた言葉の面白さかもしれません。



 ――余談(と言うか雑学)。

・台風と熱帯低気圧の違いは、中心気圧の高低ではなく、低気圧域内の最大風速で決められているそう。低気圧内の最大風速(10分間平均)がおよそ17 m/s(34ノット、風力8)以上のものは台風と呼び、以下のものは熱帯低気圧となります。

・高気圧と低気圧には数字的な線引きはなく、隣の気圧より高いか低いかで表すそう。つまり同じ1000hPaでも周りがそれより高ければ低気圧になるし、低ければ高気圧になる。



 ちな、今回の「ランキングに使われる『以下/以上』の言葉(数字)の意味が逆転している問題」の解を知っている人がいたらモヤモヤ解消のために教えてください。

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