招待状に書いてある「平服でお越しください」という一文がめちゃめちゃ嫌いだ

 よく、結婚式の招待状などに書いてある一文。


「平服でお越しください」


 僕はこの一文がめちゃめちゃ嫌いである。

 なぜなら明らかに嘲りを含んだ『試し』であるからだ。

 ここでいう平服とは平服にあらず。めっちゃかしこまった格好で、男ならスーツが当たり前であることを僕は知っている。なぜ知っているか。それがだからだ。さて……


 おわかりいただけただろうか?


 これはつまり「平服でお越しくださいと言いはしたものの、実際はそんな格好で来てもらっては困る。的に考えればスーツが妥当だから。わかるよね? いい大人なんだからさ。それくらいさあ?」と言っているようなものである。

 招待状を出すのは、親戚か或いは懇意にしている相手だろう。それなのに招待相手に常識問題をふっかけるなど、あまりにも不躾ではないか?

 100歩譲って友達に対してなら「クイズ! 平服でお越しください~! パチパチパチパチ~。はい! ということでね。まあ、友達の詩一くんならこんな常識問題わかるとは思うんですけれども」などと言うフランクなトークが来たのだと捉えることもできよう。だが、上司に対してはどうだ。恩師は? すごく世話になった親戚は?

 わかるか? どんな状況であれ、相手を『試す』という行為そのものが非礼であることが。

 それだけ礼を欠いたことをしておきながら、もしもガチの平服で言ったら、やれ常識だ。やれマナーだ。やれ礼儀だ。やれ作法だ。などとのたまうのだろう。

 僕からしたら「てめえが変な常識問題で試してきたからイラついてやったんだそれくらわかれボケ」である。

 ただまあ僕も常識あるいい大人なので、そんなことはやらないんだけれども。

 それに悪いのはこの世に蔓延っている『常識』や『マナー』なのであって、新郎新婦ではない。新郎新婦のためだったら、上から目線で嘲ってくる『常識』という概念にもひれ伏すことができる。(日本に輸入されてたかだか100年ちょっとの結婚式などという文化に常識や格式なんて言葉が使われること自体に違和感を持つけれど、それも言わないでおこう)



 これだけ「平服でお越しください」について思うところがあるのは、初めて結婚式に招待されたときにからである。

 もちろん、スーツで行くという固定観念はあった。自分の家族が誰かの結婚式に出席するときはかしこまった格好だったし、ドラマの結婚式ではみんなスーツを着ていた。だからスーツで行くものだと思っていた。しかし。しかし、だ。

 僕はその前段階の『招待状の文面に目を通す』というのは初めましてだったわけだ。

 当然面食らう。

 悩んだ。

 その結果、一つの考えに辿り着く。それは、普通の招待状にはなにも書いてない。或いは「礼服でお越しください」と書いてあるのではないか。だからみんな迷いなくスーツを着ていくのではないか。つまり親もドラマの人たちもそういう招待状を頂いたのではないか。という考えだ。

 だとすればこの招待状は、招待状としてかなりアナーキーだ。だって本当はスーツで参加するのが当たり前なのに、わざわざ「そうするな」と言っているのだから。

 小学中学とともに歩んできた間柄だからか? いやそれにしても。うーん。彼は陽キャだったが保守的でもあった。みんなの価値観をぶっ壊してやろうなんていうアナーキストではなかったはずだ。ポリティコンノミスマはディオゲネスだけで充分だ。

 最終的に職場の人に聞いた。

 そしたら「こういうときの平服はスーツとかだよ」と言われた。

 危なかった。

 友達の顔に泥を塗らずに済んでよかった。


 そんなことがあったので、僕は招待状に書かれている「平服でお越しください」を見るたびイライラさせられる。




 ちなみにアパレル企業の面接の「私服でお越しください」はガチで私服で行かないといけない。全部が全部そうではないだろうが、僕が目を通した面接の要綱には「私服で来てください。私服のセンスも審査対象に含まれます。スーツで来た人は落とします」と書かれていたのだから間違いないだろう。

 ……いや……もしかしてこれもまたひっかけなのか? そう思わずにはいられない。だって、結婚式に招待してくれるくらい仲のいい友達ですら、常識クイズを送り付けて騙そうとしてくるわけだから。(友達は悪くない。友達にそんな招待状を送らせている常識が悪い)




 goo辞書によると

【平服】

 =ふだん着ている衣服。また、その服装。ふだんぎ。⇔礼服。

 [補説]冠婚葬祭の招待状などで「平服でご出席ください」とある場合は、ふつう略礼装またはそれに近い服装を指し、カジュアルウエアは含まない。


 ご丁寧に補説で「冠婚葬祭のときは違うよ」と書いてあるものの、本来の意味ではないと言外に言っている。それにもしも1,000歩譲って平服が「冠婚葬祭のときに着る服」という定義ならば、その対義語にある礼服とはなんなのか。


 礼服の定義は?

 同じくgoo辞書によると

【礼服】

 =冠婚葬祭その他、儀式のときに着る衣服。⇔平服。


 要約するとこうだ。


 YES⇔NO

 YES=NO


 常識とは、マナーとは、格式とは、伝統とは……こういうことなのである。10,000歩譲ることなのである。

 そして、それらを飲み込み順応し、いつしかその煩わしさにも慣れることが大人になるということなのである。

 まあつまり僕はまだまだキッズということ。どうやらまだまだ小説を書いていていいようだ。


 でも大人の仮面をかぶっているので、結婚式にはスーツで行く。

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