服を学べば

 タイトル詐欺になっちゃうけど、別にちゃんと学んだわけじゃあないぜ。



 僕は服が好きなんだけれども、その服のデザインやブランドコンセプト以外にも、その服ができるまでの時代背景と言うものに興味を惹かれることがしばしばある。


 例えば丈夫でカッコイイ靴で有名なドクターマーチン。軍医のクラウス・マーチンが足のケガが完治するまでの間、硬い靴底では痛いので痛み軽減のために靴にタイヤを付けて歩行したところから、「靴の底にはタイヤのようなクッション性のあるものが合うのでは?」と気付き、クッション性のあるソールを取り入れた靴を開発した。これがイギリスの軍・労働者用から東京を歩く若者の足元を飾るようになるまでのプロセスも興味深い。


 イギリスというのはファッションの中に伝統を重んじる。オーセンティックというやつだ。だから、靴と言えば革靴だし、ソールも当然皮革で作られたものを履く。イギリスの紳士はみんなこぞってオールレザーの靴を履いていたわけだ。

 対して、労働者(炭鉱夫など危険で過酷な環境下で作業をする人々を総じて労働者と記載させてもらってます)と言うものは利便性や機能性を重視する。カッコよさは二の次三の次。だから、ラバーソールを好んで履いた。ラバーソール=労働者の象徴とも言えた。実際、ドクターマーチンのターゲットは労働者だったわけで。


 しかし、その労働者用の作業靴を履く人が、労働者以外にも現れるようになった。それがロックミュージシャンだ。


 当時のUKロックというものは、圧政に対する反発、反骨精神を顕わにするものが多く、アンチ政府的なスタイルがウケた。労働者とはすなわち圧政に苦しむ市井しせいその者であり、イコールでロックだった。だから、ロックミュージシャンは挙って作業靴を履いた。「俺たちは政府に対抗しているぜ」とばかりに。

 そしてそれを見た若者が「かっけー!」となり、真似をして履くようになる。このムーブメントにより、ドクターマーチンの靴は労働者のみならず、大衆の靴となっていったわけだ。


 当然マーチン側がそこで努力を怠り、今まで通りの作業靴を出していたらきっとそのまま廃れていただろうが、ちゃんとお洒落路線を意識してニーズに応えて行ったので、今もなお根強い人気を誇っている。




 このようにして服(今回は靴の話になった)の歴史を紐解くと、その当時の時代背景などが朧ながらも推察できて、大変楽しい。そのまま小説に活かせると思う。特に異世界ものを書くときなんかは重宝する情報だと思う。

 メインの骨子に組み込まなくても、ディテールにちらっとこういう情報が出てくるだけで「あ。作り込まれてんなこの世界」と思わせることもできるだろう。「わかってるな」と一目置かれるかもしれない。『誰に』かは知らないけれども。




 そう言えば、ラバーソールと言えばジョージコックスも有名だが、どっちが先にラバーソールを……というのはあまり判然としない。古い情報だけれど、調べた情報が正しければ、開発はドクターマーチンが先で、販売し出したのはジョージコックスが先だったような。やっぱり判然としないので、気になった方はご自分の目でお確かめ頂きたい。


 あ、ちなみに僕は、ぱっと見ジョージコックスみたいなドクターマーチンの靴を持っているが、これは別に狙ったわけではない。蛇足。靴だけに。

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