成分とアレルギー反応
お菓子の話。
ある企業がケーキを作った。そのケーキには抹茶が入っていたんだけど、風味がまったく感じられなかった。試食した審査員が不思議に思って、「抹茶はなんのために入れたのか」と尋ねると、企業は「色を付けるためです」と答えたそうな。それを聞いた審査員は
当時は「ほえー、そうなんだー」くらいに思っていた。それに「別に色付けになにを使ってもいいじゃあねえの? 自由だろうそんなもん」とかも思っていた。
でもそれから十年くらい経って思う。
——もしもお茶アレルギーの人がそのケーキを見たら、と。
ただの色付けのためなら、入れないでくれよと思うだろう。
味変わらないんだもの。香りも変わらないんだもの。
でも抹茶成分が入っているがゆえに食べられない。食べてみたいのに。余計なことしてくれたよなって思うはずだ。
これは、うちの嫁がニッケルアレルギーになったから気付けたことなんだけど、アレルギー持ちの人って、「これは食べられるやつかな?」と言うのを第一に考えて食べ物を選ぶ。本当は「これが食べたい!」と言う感覚で選びたいところを消去法で選ばなくてはいけないのだ。こいつはもうすげーストレスなんですよ。
そんな人が『意味もなく(本当は色付けと言う目的はあるけど)抹茶を入れたケーキ』を見たら、審査員のごとく
なにもこれは抹茶を入れるなと言うわけではない。意味もなく入れるなと言うことだ。
抹茶の風味を楽しんでもらうために入れたのなら、それは仕方のないことだ。だってそういうコンセプトだし。それならアレルギー持ちの人も寛容に受け入れて他のケーキを探すだろう。
それは抹茶に限ったことではない。苺でもなんでも言えることだ。
そしてそれは食べ物に限ったことでもないのではないか、とも思えた。
そう、小説も同じことが言えるのでは? と思ったのだ。
ただのキャラ付けのためだけに『元バレー部スーパーエース』とか、『趣味がダンス』とか入れてないだろうか?
世界観出しのためだけに純金で建てられたお屋敷とかを出していないだろうか?
エンタメ要素のためだけにエロシーンを入れてないだろうか?
小説にもアレルギーと言うか地雷というものが存在する。
怖いのが苦手とか、バッドエンドが嫌いとか。そういうわかりやすいもの以外にも、スポーツ全般が嫌いだとか、描写が多いのが苦手だとか、エロい内容は見ないようにしているとか。
別に、キャラが『元バレー部スーパーエース』だったり『趣味がダンス』だったりしてもいいのだ。
敵キャラが逃げるときに公園から子供たちが遊んでいたボールが間違って飛んできてそれに合わせてスパイクを打って敵キャラを仕留めるとか、重要な情報を握ってそうな堅物おやじがダンス好きでダンス対決をして勝って情報を得るとかすれば。
突然純金の建物が出て来てもいいのだ。
序盤でなんとなく描写されていた純金のお屋敷が実はヒロインの別邸だったとかすれば。
エロシーンが入ってもいいのだ。
子作りをすることが実は主人公の生命を脅かすトリガーになっていたとかすれば。
それぞれの要素が、役割を果たしてくれさえすれば、なにを入れたって良い。
意味もなく要素として取り入れるだけなのがいけない。それは伏線を張りっぱなしにして回収せずに完結するようなものだ。構成としても難がある。
——なんとなく。
そんな理由で余分なものを入れたらもったいない。
その余分なもののせいでアレルギー症状を引き起こしてブラバする人やタグで察して読みに来ない人だっているのだろうから。どうせ入れるなら、深い意味のあるものにしなければならない。ある程度の人にブラバされたとしても、読み切った人に満足してもらえるようなものにしなければ。
ケーキの話に戻すなら、お茶アレルギーの人は食べられないけど、抹茶好きの人がリピーターになってくれるようなケーキを目指すべきなんだ。どうせ入れるなら。
ライトノベルは子供を楽しませるものであるべきで、子供騙しであってはならないと言うのが私論だ。
……まあでも、そもそも子供騙しの作品は、実際には子供も騙せないだろう。
抹茶を知らない幼子であれ、普段と違う色付けをされたケーキに、いつもとは違う味を期待していることに違いはないのだから。
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