文章作法のビビり方

 みんなー! ビビってるかーい? 僕はビビってるよー!



 この前フォロワーさんと『文章作法さほう』のお話をさせて頂いた。僕とフォロワーさんの意見は概ね一致。


「こうすべき、と強制するまではいかないけど、できるなら守った方が良い」


 とこんな感じ。


 たまにTwitter上でも見かけるこの『文章作法さほう』の議論。

 中には「おもしろければ別に良くない?」という意見もあるし、「そういうのでマウント取らないでほしい」という意見もある。


 こういう意見があるにもかかわらず、なぜそのフォロワーさんと僕は同意見だったのかってのを考えたらすぐに行きついたのが、公募に出しているからだった。


 公募ってのは「受賞するぜ!」という気持ちで応募するものだ。

 だから当然主催者側が出すルールに則る。

 ページの体裁は『42文字×34行』なのか『40文字×34行』なのか。

 縦書きになっているか。

 最初の一ページ目にタイトル、ペンネーム、あらすじを書いているか。

 あらすじは800文字以内に収まっているか。

 本文は80~130ページ以内に収まっているか。などなど。


 こういうルールを守れていないせいで、せっかくの良作が一次選考落ちになったら嫌だから、僕なんか何度も何度も確認する。


 その価値観で文章作法さほうを守るべきか否かを議論に上げれば、当然守るべきに決まっている。

 段落先頭を字下げする。

 三点リーダーはかならず二つで一つにする。

 会話文には括弧を付ける。などなど。


 守ろうとすれば守れるルールをわざわざ守らないがために落とされたら大変だ。


 ぶっちゃけ、段落先頭を一回や二回下げ忘れたりとか、三点リーダーがたまに一つで終わったりしたところで、ミスの範囲内と判断されたならば落とされたりはしないだろう。誤字脱字が一個でもあったら落とすなんてこともない。

 けれども我々公募勢ってのは、最後の最後送る寸前まで推敲を重ね、校正を行い、誤字脱字が一つもない完璧なものを仕上げて応募する。

 すべては受賞のため——ひいては、読んでくださる下読みの方に少しでも読みやすいと思ってもらうため。


 そう、我々はというのを常に意識している。


 だから私は


作法さほう? しらねーな。おもしろけりゃいいんだ」


 という人の文章は読まない。というか、読めない。なぜなら、読んで頂くために書いてないからだ。

 そもそもの意識が違う。

 意識の低い文章は、読まれる前提が薄いので、当然読みにくい。読みにくいってわかってるものをわざわざ読むほど暇じゃあない。書く方がのなら読む方だって


 そりゃ適当に書いたものが受賞ってパターンもある。

 すっごい時間をかけて世界観も構成もキャラも練り尽くした作品が落ちて、自暴自棄になって適当に書いた作品が受賞するのなら、意識の高い低いは作品の良し悪しには関係しないんじゃないか? という気持ちもわかる。

 でもそれは、今まで意識を高く持って小説に向き合ってきた人間だからこその『適当』であることを忘れないでほしい。


 守破離しゅはりという言葉がある。

 千利休の


「規矩作法 守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」


 という訓から引用した言葉で、簡単に言うと


「まずは師匠の教えをりなさい。十分修行を積んで型を身に着けたうえで、既存の型をり、師匠のもとをれて自分の流派を作るなら作りなさい。ただし、その本質は忘れないように」


 ということだ。


 つまり、努力した人の『適当』は『守破離』になっているということ。初めから適当に書いている人間が受賞するはずがないと言うこと。


 閑話休題。


 我々公募勢はので、めちゃくちゃルール作法さほうに気を遣う。受賞するために、落とされないために、たった一つの誤字さえもないかと、何度も何度も見直す。いわゆるだ。


 おもしろい作品はビビっていては書けない。

 だが、作品の品質に関してはビビっていないと保てない。


 おもしろいことと良品であることは別だ。

 つまらないのならばいくら良品でも読まれないが、おもしろいなら良品である方が読まれるに決まっている。


 と、くだくだしく語ってきたけれど、まあこれは、僕の公募に出すときの心構えなので、別に守りたくないなら守らなくていい。というか、趣味で書いているんだからうだうだ言わないでくれって言うのなら、そう言う人にまではとやかく言わない。


 ただ、少しでも多くの人に物語を届けたいという純然たる思いがあるのならば、守った方がいいだろう。



 ビビろう。

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