15

「…きれいじゃん。」


 バージンロードを歩いてきた麗の手を取って笑うと。


「あたりまえでしょ?誰だと思ってんの?」


 麗は、照れくさそうに、そう言った。


 五月。

 俺と麗は、誰が予想したであろう展開になってしまった。

 ただ一人、神さんは。


「思惑通り。」


 なんて言ってたけど…。




 …あの後…

 麗の見合いに乗り込んだ翌日。

 俺は、麗の双子の弟、誓に呼び出された。



「…麗のこと、本気なんですか?」


 公園のベンチ。

 誓は、座って指を組んでそう言った。


「…ああ。」


「僕、あなたのこと…すごくかっこいい人だと思います。でも、最近ずっと麗を泣かしてたのは、あなたでしょう?」


「……」


 俺は、誓を直視する。


「麗は、すごく強がりでひねくれたとこがあるけど…人一倍繊細なんです。」


「さすが、双子だな。」


「……」


 俺は自販機でジュースを二本買うと、一つを誓に渡した。


「…どうも。」


 カシッ。


「俺さ。」


 俺は、話し始める。


「俺も双子なんだ。」


「…それは…夕べ、聞きました。」


「あ、そっか。そうだったな。」


 夕べ、麗の見合いをぶち壊した後。

 俺は…当然だが自己紹介を余儀なくされた。


 そこで。

 双子である事と…

 …二階堂の事も、話した。



「その、姉貴とは…」


「……」


「ずーっと、二人きりだったんだ。」


「え…?」


「親とは生き別れみたいになってて…15の時、こっちに連れて来られてさ。初めて家族に会った。」


 空を、見上げる。


「だから、気付いたら、あいつしかいないって思ってた。」


「……」


「他の誰も愛せなかった。どんな女と付き合っても、この歳になって麗と出会うまで…自分の分身しか愛せなかった。」


「…僕は…」


「麗も、おまえのことが一番大事だって言ってた。」


「え?」


「俺たち、お互いそういう想いがあったから…こうして、気持ちが繋がったんだと思う。」


「……」


「彼女がいるんだってな。」


「…はい。」


「好きなんだろ?」


「……」


 誓は、ものすごく思い詰めたような顔になって。


「…麗の次に…」


 小さく、つぶやいた。


「…スッキリしたか?」


「…はい…」


 誰にも言えない想いは。

 自分を苦しめる。

 俺も、麗も…味わった。



「大事な…姉を…」


「……」


「よろしくお願いします…」


 誓が、頭をさげた。


「…もちろん、誰よりも大切にするよ。」


 俺は、誓の髪の毛をクシャクシャにする。

 きっと、泣きたい気分だろう。

 でも、これで…




「こっち向いてくださーい。」


 大きな声にハッとする。


「はーい、花嫁さんもう少し顔あげてー。」


 教会の前、記念撮影はにぎやかな笑顔の中で行われている。


「はい、いきますよー。」


 隣の麗は、幸せそうな笑顔。

 思わず、俺も小さく笑う。



「麗。」


 ふいに、後ろから聖子が顔をのぞかせた。


「?」


「これ、返すわよ。」


 聖子の手には、フラミンゴのキーホルダー。


「あ…」


「何が友達にもらった、よ。しらじらしいったら。」


 聖子の嫌みに言い返すこともできなくて、俺たちは顔を見合わせる。


「俺も返すぜ。」


 続いて、神さんがペンギンのキーホルダーを…


「な…何も今返さなくっても…」


 麗が唇を尖らせたけど。


「そんな、大事なもん、いつまでも人に預けてんじゃないわよ。」


 聖子に、ピシャリ。


 二人して首をすくめてると。


「新婚旅行で、ちゃんとしたもの買って来てよね。」


 聖子が、麗の額を人差し指で突いて言った。


 …笑顔の麗を見て、安心した。

 まだまだ俺達はお互い未知の部分が多い。

 だがそれは、知る楽しみがあるとも言える。


 今までは、こんな面倒ごめんだと思ってたけど…


「七生さんと義兄さんのお土産、キーホルダーでいいんですって。」


 そう言って俺を見上げる麗の前髪に触れて…唇を奪う。


「!!!!」


「うっわ。陸ちゃんまで神さんに感化されてる…」


「て言うかさ、陸、飲み過ぎ…」


「ま、結婚式ってみんなおかしくなっちゃうからね。光史君だってあの時…」


「まこ、それ以上言ったら、おまえの時…」


「あっ…ごめん。何でもないです。」


 大事な仲間に囲まれて。

 可愛い女を妻として迎えられて。


「タコ。いつまでやってんだ。家でやれ。」


「神が言うかなあ。」


 憧れの人と、思いがけず家族になる。


 麗と結婚が決まってからの俺は、邪念が消えた。と、みんなに言われた。

 そして…前にも増してカッコいい、とも。

 ははっ。

 なんか、乗せられてる感じしかしねーけど。



「もうっ!!陸さんバカっっ!!」


「はああ?おまえ、愛する夫にバカはねーだろ、おい。」


「あの~…そろそろお写真の方…」


「ああ、そうだった。どうする?神さんと知花ん時みたく、キスして写るか?」


 俺の言葉に、目を細めた麗が後ろを振り返る。

 そこでは首をすくめるしかない知花と、『やれ』とニヤニヤしながら口パクしてる神さん。


「はい、皆さん視線こちらにー!!」


 やけっぱちにも思える、カメラマンの声。

 その瞬間、唇を向けた俺の顔に、麗の手の平がピッタリと張り付いた。


「あはははは!!」


 カシャッ


 満面の笑みの麗と、顔に手を張り付けられた俺と、爆笑顔のみんな。

 NGにはなったけど、それはそれで、いい一枚。



「写真ぐらい、ちゃんとした顔で残して♡」


 麗がニッコリと、笑ってない笑顔で俺に言う。

 その言葉に俺の義理の兄姉は目を細めたが。

 何とも麗らしくて笑ってしまう。


「はーい、今度こそー!!」


 カシャッ



 幸せになれるなら、少しの面倒は……



 大歓迎。だな。


 うん。



 11th 完

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いつか出逢ったあなた 11th ヒカリ @gogohikari

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