男は脱出できるのか21
かごめごめ
START!!
☆★☆ボーナス・ステージ☆★☆
アイテム大量ゲットのチャンス!
キミはいくつゲットできるカナ?
☆★★☆☆★★☆★★☆☆★★☆
「…………なんだ、ここは」
きらびやかな装飾が施された看板には、でかでかとそんな文字が刻まれていた。
周囲を確認する。視界を遮るものがなにもない、広い空間だった。
見あげると、屋根の形状から、この部屋が大きなドームのような構造をしていることがわかる。赤、青、緑、黄――色とりどりの光によって、建物全体を過剰なほどにライトアップしている。
いったいどこにスピーカーがあるのか、俺の神経を逆撫でするような軽快な音楽が、大音量で流れている。
そして床一面には、これまたカラフルな正方形のマス目が、所狭しと広がっていた。そのマスのほとんどに、宝箱のような絵が描かれている。
正方形は時にまっすぐ、時に枝分かれしながら、“道”を形作っている。
道は俺の足元まで続いている。……いや、俺の足元から、始まっていた。
俺は正方形のマスの中心に立っていた。
マスには大きく、“START!!”という文字が書かれている。
「……すごろく場?」
俺の脳裏に浮かんだのは、ゲームの中で見たことがある、すごろくで遊ぶための施設だった。
《すごろく場へ ようこそ!》
突然、目の前に文字が浮かびあがった。
この程度のことで、いちいち驚く気にはならなかった。
《この部屋はボーナスステージだよ。脱出の手助けになるかもしれない便利なアイテムを、大量にゲットできちゃうかも!?》
「は? アイテムだと?」
《し・か・も! この部屋では、なんと出口を探す必要ナシ! キミが最後に止まったマスが出口になるからね!》
俺の問いかけには応えず、メッセージは流れ続ける。
だが……そうか。
出口を探す手間が省けるのは、いいことかもしれない。氷の部屋では出口が見つからずに死にかけたからな。
《だから安心して、すごろくを楽しんじゃおう!》
なにか裏があるのか。あるいは本当にボーナスステージなのか。わからないが、油断だけはしないでおこう。
《サイコロを振れる回数は十回! それでは、勇者ユウ――すごろくに挑戦しますか?》
「…………」
「はい」以外の選択肢なんて、ハナから用意していないんだろう?
俺がすごろくで一喜一憂する様を見て、楽しむ腹積もりなんだろう?
「なぁ、烏丸!」
宙に向かって、叫ぶ。
当然、返事は返ってこない。
……もういい。こうなったら、順応してやる。
「っしゃあぁぁぁ―――ッ!! アイテム、絶対ゲットしてやるぜぇッッ!! うおぉぉぉっ、燃えて……キタァ―――――ッ!!! うっわ、マジ楽しみだぁ♪」
《ゲームスタート!》
「どんなアイテムがあるんだろー?? そだっ、夢河マホの写真集とかないかな? 俺、実はファンなんだよな〜!」
《サイコロを振ってね!》
なにもないところから降ってきた馬鹿でかい六面サイコロをキャッチすると、俺は床に向かって放り投げた。
「なにが出るかな!? なにが出るかな!? てれててれててれてれん♪」
サイコロはコロコロと転がり、やがて止まった。
三だ。
《出た目の数だけ進んでね! あ、ズルはできない仕様になってるから気をつけてね!》
「い〜ち、にぃ〜……さん、っと! おおっ!? 宝箱のマスに止まったぞ!」
マスに描かれたマークが消え、代わりに実体化した宝箱が出現した。
俺は宝箱に手を伸ばす。
「来いっ!! エロ本こいっっ!!!」
フタを開けると、中には――
《勇者ユウは 『すごろく券』を 手に入れた!》
「うぉぉぉぉぉっ!! 神のアイテムキタコレ――――ッッ!!」
《すごろく券だよ。これがあれば、すごろくで遊ぶことができるよ。》
よーし一生ここですごろくをして暮らすぞー、ってなんでやねん、とノリツッコミまでやってやろうと思ったが、さすがに、もう限界だった。
「疲れた……なにやってんだ、俺は」
俺のこんな振る舞いさえ、ヤツは楽しんでいるに違いない。
そう思うと、とたんに馬鹿らしく思えてきた。
俺は『すごろく券』を破り捨てようとして、次の瞬間、手の中から消えてしまった。
《『すごろく券』をユウ専用のアイテムボックスに入れておいたよ! 取り出したいときは宙に手をかざして念じるだけ! 簡単だね!》
メッセージを無視していると、またサイコロが降ってきた。
俺は投げやりに放り投げる。
次のマスも宝箱だった。見渡してみると、中には動物のマークなどもあるが、ほとんどのマスに宝箱が描かれていた。すごろくとしてどうなんだと思わなくもないが、別にどうでもいいか。
無視するわけにもいかず、俺は目の前に出現した宝箱に手を伸ばした。
《勇者ユウは 『いのちの水』を 手に入れた!》
「……お?」
透明な液体の入った、500mlのペットボトルだった。ラベルに『いのちの水』と書かれている。
「これは確か、モモが持っていた……」
《体力を回復するよ。状態異常も治るよ。》
メッセージウィンドウ(のつもりなのだろうか?)には、アイテムの説明らしき文が表示されている。
なるほど……それで俺は、寝てるあいだに動けるようになっていたのか。
このアイテムってやつも、あながちデタラメってわけでもなさそうだ。
三投目。
止まったマスはまた宝箱だった。
《勇者ユウは 100,000ゴールドを 手に入れた!》
今度は宝箱が実体化することはなく、代わりに、
《勇者ユウの現在の所持金:100,000ゴールド》
というメッセージが表示された。
なにがゴールドだよ。架空の金が、なんの役に立つっていうんだ。ふざけやがって。
四投目。
カラスのマークが描かれたマスに止まった。嫌な予感がする。
《おめでとう! 勇者ユウは レアアイテム『カラスのつばさ』を 手に入れた!》
「……レアアイテムだぁ?」
それは漆黒の羽だった。道ばたにでも落ちていそうな、ただのカラスの羽に見える。
《レアアイテム、カラスのつばさだよ。放り投げるとなにかが起こるかも?》
どうやら説明する気はないようだ。
俺は今すぐゴミとして放り投げてやろうと思ったが、その前にアイテムボックスへと収納されてしまった。
五投目。
また、宝箱だ。
《勇者ユウは 10,000,000円を 手に入れた!》
「……ん?」
円?
さっきはゴールドだったのに、今度は円?
表示のミスか?
いや、この部屋がヤツの用意した舞台だとするなら、ヤツがそんなつまらないミスをするとは考えにくい。
つまり……なにか、意味がある。
メッセージウィンドウには先ほどの10万ゴールドとは別に、所持金:10,000,000円と表示された。
……1000万円。大金だ。
よく、デスゲームものの漫画なんかでは、最後まで生き残った人間に莫大な額の賞金が与えられることがある。それが口止め料も兼ねていたりするのだ。
まさか……これもその類か?
デスゲームものではたいてい、賞金は本当に支払われる。
俺も、無事にこの世界から脱出できたら…………1000万円が、本当に?
――と。
思わず、俺はそんな考察をしてしまった。
六投目。
止まったマスは宝箱だった。
《なんと! 宝箱はモンスターだった! モンスターは襲いかかってきた!》
そんなメッセージが表示されるが、実際にモンスターが現れたりはしていない。
《勇者ユウは逃げ出した! うまく逃げきれた! 勇者ユウは10,000,000円を落としてしまった! 勇者ユウは10,000,000円を失った!》
「……あの野郎、舐め腐りやがって」
少しでも期待した自分を殴りたい。
七投目。
そこには、今までに見た宝箱よりもいっそう豪華な宝箱が描かれていた。フタが開いて、宝石やら金貨やらがあふれ出している。
「今度はなにが入ってるんだ?」
開けてみる。
《勇者ユウは 『ちかいの指輪』を 手に入れた!》
《勇者ユウは 『はかいの指輪』を 手に入れた!》
《勇者ユウは 『まほうの鍵』を 手に入れた!》
《勇者ユウは 『あやしい粉』×5を 手に入れた!》
《勇者ユウは 『ネコじゃらし』を 手に入れた!》
《勇者ユウは 『きおくの木箱』を 手に入れた!》
「この『まほうの鍵』は使えそうだな」
《どんな扉も開けられる魔法の鍵だよ。扉がなくても開けられるよ。一度使うと抜けなくなるよ。》
これもモモが持っていたアイテムだ。
それこそあの氷の部屋のように、いるだけで生死に関わる部屋や、制限時間があるような部屋に出たときは、この鍵を持っているというだけで心の持ちようが変わってくるだろう。
ほかのアイテムの説明も、一応読んではみたが……
使えるのかどうか判断に困るものもあれば、『カラスのつばさ』同様、そもそも説明する気のないものもあった。
これらのアイテムが役に立つときは来るのだろうか? 謎だ。
八投目を投げる前に、前方に目を向ける。
旗が見えた。
“GOAL!!”という文字が書かれた旗が、真っ赤なマスの上に立っている。
俺はふと、最初に見たメッセージを思い出した。
《し・か・も! この部屋では、なんと出口を探す必要ナシ! キミが最後に止まったマスが出口になるからね!》
最後に止まったマスがこの部屋の出口になる。そう明言していた。
……ならばなぜ、わざわざ“GOAL!!”などと書かれたマスを用意した?
これがすごろくだから? 別に深い意味はない?
それとも――
「あのマスは……もしかすると、“本当のゴール”なんじゃないのか?」
もしもあのマスに、ピッタリ止まることができれば――
そんなふうに俺が考察することも、ヤツはきっと読んでいるのだろう。
だから、あの“GOAL!!”の旗にはなんの意味もないのかもしれない。
だがヤツは言っていた。脱出は必ずできると。それだけは嘘ではないと。
ならば――可能性はきっと、ゼロではない。
俺は、自分の直感を信じることにした。
俺はあの旗を目指す。
そして……このわけのわからない世界から、脱出してやる――!
サイコロを振る。
六が出た。
止まったマスは――
《ようこそ。ここは武器屋です。》
「武器屋?」
俺が聞き返すと、ウィンドウにズラッと文字が並んだ。
・ふつうの拳銃 98,800ゴールド
・ふつうのチェーンソー 158,000ゴールド
・ふつうのロケットランチャー 300,000ゴールド
・でんせつの剣 1,000,000ゴールド
・まぼろしの盾 1,000,000ゴールド
・なぞのスイッチ 100ゴールド
ウィンドウの右上に、所持金が表示される。
「拳銃しか買えないな」
俺は『ふつうの拳銃』と、余ったゴールドで『なぞのスイッチ』を二個購入した。
《ふつうの拳銃だよ。ホンモノだよ。》
《押すとなにかが起こるよ。なにが起こるかは、押してからのお楽しみ☆》
拳銃はずっしりと重みがあり、実物を触ったことがあるわけではないが、本物だと言われても違和感はなかった。
スイッチは先端が赤い、親指サイズのものだ。武器屋に売っていることを考えても、ロクなものじゃないだろう。
九投目。
また六だ。
止まったマスには、お馴染みの宝箱が描かれていた。
《勇者ユウは 『ふっかつの葉』を 手に入れた!》
「今度はなんだ?」
《使用すると、死んだ人間が生き返ることがあるよ。ただし、代償を払う必要があるよ。》
そのメッセージを読んだ瞬間、呼吸が止まった。
呼吸のしかたを思い出すと、今度は心臓が狂ったように早鐘を打ち始める。
「いや……待て、待て。少し落ち着けよ、俺」
コウシロウも、アユも、現実世界で死んだんだ。
いくらここが摩訶不思議な世界だといっても、過去に起きてしまった出来事まで改変できるとは思えない。
惑わされるな。
踊らされるな。
これじゃ、烏丸の思うツボだ。
俺は、ギュッと葉を握りしめる。アイテムボックスに収納されたのだろう、葉は音もなく消え去った。
「…………次で、ラストだ」
“GOAL!!”まで、あと六マス。
チャンスは一度きり。
俺は、サイコロを振った。
サイコロはコロコロと転がり始め……やがて、
…………止まった。
出た目は、
六。
「六だ……!」
きた……!
俺は足を踏み出そうとした。だが。
「結局、こうなるのかよ……」
一度は動きを止めたはずのサイコロは、なにか目には見えない力によって、コロンと一面ぶんだけ、転がった。
「畜生……まだ、俺はこの世界から出れないのか」
今度こそ本当に止まったサイコロの目は、五だった。
なにが「ズルはできない仕様」だ。ズルしてるのはどっちだよ。
俺は諦観にも似た感情を覚え、先に進んだ。
俺が最後に止まったマス。
そのマスには、大きな文字でこう書かれていた。
“振り出しに戻る”
……振り出し、か。
どういう意味だろう。
普通に考えれば最初のマスに戻されるってことだろうが……最後に止まったマスが出口だと言っていたからな。
なら、最初の部屋からやり直しって意味か? だとしたら最悪だ。
それとも……
なにか、別の意味合いがあったりするのか……?
妙に冷静な頭で、そんなことを考えていたときだった。
突然、浮遊感を覚えた。
《扉が開くよ! 衝撃に注意してね!》
足元に穴が空いている。
俺は落とし穴に落とされるお笑い芸人のごとく、深い闇へと落ちていった。
落ちる寸前、最後に見えた文字。
それは、
――――RESTART!!!
男は脱出できるのか21 かごめごめ @gome
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