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匿名絶望

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 「流れ星に三回お願いすると必ず叶うってあるよな」

 唐突に、僕の双子の弟、竜がそう言った。

 「……なんでいきなりその話なのさ、竜」

 そう返すと、竜は

「いや、だって、今日……えーっと……そう、ホトケノ座流星群だぜ? そうでなくとも、俺にだってそういう話もしたくなる時だってあるさ。誠だってあるだろ?」

 「ないよ。それに流星群はホトケノ座じゃなくてほうおう座。ホトケノザは春の七草だよ、セリ、ナズナ……ってやつ」

 「やべ素で間違えた……でよう、もし全部叶えてるんなら神様も大変だよな。ところでさ、いい時間だし、これから玄武くろたけ山行かない? お前も流星群、見たいんだろ」

 「……否定はしないよ」

 「おっし、じゃあ決まりだな」

こうして、僕たちは玄武山に流星群を見に行くことになった。玄武山、というのはこの町の中学校の裏山のことだ。学校の土地で、遭難しないくらいには整備されており、一般にも開放されている。僕たち双子は高校生となった今でもたまに虫取りなどしている。


日が落ちてすぐの午後六時、僕たち双子は玄武山の山頂に到着した。

「おーっし、よく晴れてんな」

「そうだね。流星群を見るには絶好だよ」

「でもちょっと早すぎた感あるな」

その通りだ。まだ午後六時だし、日が落ちたばかりなので空はまだ青色をしている。でも、月もないので流星群を見るには絶好だ。気になるのは、西の空が曇り始めていることくらいか。

「さておき、ホライゾン座流星群はどっちの方角に見えるんだっけ……」

「北側だね。あとほうおう座だよ。……さすがに冗談だよね?」

「冗談、冗談。さすがに」

口ではそんなことを言っているが、彼の眼は明らかに泳いでいたのだった。


空が本格的に黒に染まり始めたころ、雲がかかり始めた。

「曇りだね」

「……そうだな」

「流星群見れるのかな」

「……無理なんじゃねえ?」

流星群を見られなかったことは非常に残念だ。僕だって、この時をものすごく楽しみにしていた。提案してきた竜はもっと楽しみにしていただろう。

「いやぁ、残念だったな! また来年の楽しみにとっておこう」

口ではポジティブな言葉を並べている竜だが、やはりというか、その体は悲しそうにうなだれていた。そんな竜に、僕は、こんな言葉を投げかけてみた。

「なあ、竜。流れ星に三回願い事をすると叶う、って話、さっきしたよな」

「……おう、それが?」

「……竜、お前、もし流れ星が見えたらどんな願い事をするつもりだったんだ?」

その質問に、竜はやけに素直に答えてくれた。

「姉か妹か弟が欲しい」

「……そっか」

そう聞いて、僕は笑いを抑えきれず、大声で笑ってしまった。

「おっ、おい、どうした? そんなにおかしかったかよ、今の願い事」

「いや、そうじゃないんだよ。僕たち口調とか服のセンスとか全然似てないけどやっぱり双子だなぁ、って思っただけ。僕も同じような願い事をしたことあるからさ」

「なんだよ、お前には俺というすばらしく優秀で服のセンスがよくてイケメンな弟がいるじゃんか」

「うんうん、バカで服のセンスが……その、絶妙で……僕に似てイケメンな弟がな。でももう一人ぐらい欲しいなぁ、って。でもできれば女の子がいいよな」

「おまえマジでひでえな……血がつながってるとか思いたくねぇ……でも姉か妹が欲しいっていうのはめっちゃわかる! なんていうか、そんなに年の離れてない女の子が一緒の家にいるってだけでいいよな! やっぱ兄弟だよ俺ら!」

「うわ変態だ」

「兄がひどい奴すぎてもう泣きそう……」

その後に、竜はこう続けた。

「でももういいや。俺にはお前という優秀で服のセンスがよくてイケメンな兄がいる。それだけで俺は十分だよ」

「……そっか。ありがとな」

「お礼言われるようなことなんてしてないんだけど。まあ、どういたしまして?」

なんというか、こういうときだけ、僕の弟はイケメンだ。もし僕が女だったらブラコンを拗らせていたと思う。マジで。そんな会話をしていると、親からメッセージが届いた。『ご飯だよ』と書かれたそれを見て、僕たちは家路についたのであった。


「日記 玄武山高等学校二年 星野誠」と書かれたノートを開く。これは僕の日記量で、僕の日課は弟が寝静まったころを見計らってこっそり日記を書くこと。一日の記録をつけないと、その日が終わった気になれない人は僕の他にもいるだろう。ノートを開くと、僕は次のようなことをそれに記した。


〇月×日 冥曜日

今日は弟と玄武山にほうおう座流星群を見に行った。しかし、曇ってしまい、流星群を見ることはかなわなかった。弟と「流れ星に何をお願いするか」という子供らしい話をした。僕は言わなかったが、弟は「姉か妹か弟が欲しい」という願い事をする、と言った。

僕はその願い事を聞いて、やっぱり僕たちは双子の兄弟だ、とうれしい気持ちになった。


――その願いは、一年前の今日、僕が流れ星に願ったものと、あまりに似通っていたのだから。

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