6.



『達成アイテムを永久にロストしました。亡国の宝珠 シナリオナンバー:VST1560【ちくしょう! なんて所だ、ここは!】を終了します』


 また、この台詞!

 V R仮想現実のヘッドセットごしに聞こえてくる音声に、さすがの僕も少しウンザリした。


「おいおい、またかよ! どうして最後の選択を<はい>にしないんだよ! そうしたら『魔神の記録書』が手に入ったのに!」

 導引師カウシマのプレイヤーが、ネット越しに文句を言った。


「いい加減、毎回殺される私の身にもなって欲しいもんね!」

 剛人ポプリスマは活躍できず、さらに不満げだ。ちなみにこいつの「本体」は男だったりする。


「瀕死だって、同じぐらい苦しいわ! だいたいあなたが<返り人>ってのが駄目なのよね。方向音痴のくせに」

 現実世界でも冷たいのが猫娘ジュビアだった。


 アラーム音と共に視界の右角にワイプが入り、ヘラヘラした顔の精霊師ジャーゲルトが映し出された。彼は日常生活でも額にシールの宝石を張るぐらい、やる気満々の男だ。

「いやー、あの決め文句、最高だね! 黒い心臓の名にかけて! うっひゃー、たまんねー!」

「そーなんだよな。わかる! 僕もついそっちに走っちゃうんだよね」

 僕は悪びれず言った。

「バカ!!」

 ワイプがひとつ、ふたつと増えて、視界を覆い尽くした。

「アナタたち、今度やったらキャラ交代だかんね!」

 イヴリースの表示エリアが、アニメーションする中指マークで埋め尽くされた。

「あのーあした仕事でして…土の精霊師の朝は、早いんですけどー」

 気弱なズワルトがもじもじと急かした。

「じゃあ、あと1プレイね。シナリオはと…」

 僕はずらりと並ぶ物語の目次を視線入力アイコントロールでめくっていった。

「決まってるだろ! レッツ・ゲット・ザ・宝珠!」

 ジャーゲルトが勝手に選択権を奪い、シナリオに没入ジャックインしてしまう。

「またぁ?」という全員の嘆き声を最後に、チームのプレイヤーが一気に世界に引き込まれた。


 今夜も長くなりそうだ。

 レブナントは初めてこの任務についたことを後悔した。





(亡国の宝珠 おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

亡国の宝珠 まきや @t_makiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ