アカネソラ~私が恋した7日間~
@shin76
アカネソラ~私が恋した7日間~
○アパート・大枝の部屋・中(朝)
ゴミが散らかっている部屋。
ベッドで眠っている大枝。
携帯電話のバイブレーション。
気持ち良さそうに眠っている大枝。
壁には大枝が書いた絵が飾ってある。
○大学・教室(朝)
多くの生徒で賑わっている教室。
電話を掛けているお洒落な格好をした倉田友貴(21)、その
隣に遠藤千尋(22)。
諦めた顔の倉田。
倉田「ダメだ。出やしない」
千尋「留年決定かー」
○アパート・大枝の部屋o外(朝)
メガネ、ボサボサの髪、裏返しの服を着た大枝が鞄を持ち出て
くる。
○道(朝)
走っている大枝。
○大学・廊下(朝)
壁に『大学カップルワングランプリのポスター』
教室に向かっている教授。
○同・教室(朝)
ドアを見ている倉田、千尋。
倉田「間に合いますかね?」
千尋「五分五分」
○同・廊下(朝)
走ってくる大枝。
吉本葵(21)、真那津由紀(21)、柊木瑛里華(21)と
ぶつかる
葵「利治!」
大枝、走りながら
大枝「すまんすまん」
大枝の走っている姿を後ろから見つめる3人
由紀「大枝くん、相変わらずだね」
葵「本当に昔から変わってないな」
瑛里華「あれ?そういえば葵って大枝と幼なじみだっけ?」
照れながら小さく頷く葵。
○同・廊下(朝)
歩いている教授。
○同・教室(朝)
祈りながらドアを見ている倉田と千尋。
○同・別の教室(朝)
ドアを開ける大枝。
大枝「遅くなりました!」
誰もいない教室。
大枝「あれ?」
○同・教室
チャイムの音。
出て行く教授。
ムッとしている大枝。
大枝を見て笑っている倉田と千尋。
千尋「やっちゃったね」
大枝「忘れてください」
千尋「私達のフォローがなければ終わってたよ」
大枝「感謝してます」
隣の席に座っているエミリーと小池が話しかける
エミリー(英語)「大枝君、大丈夫。海外の学生は遅刻するの当たり
前だから」
大枝「なあ、小池、こいつはなんて言ってるの?」
小池「海外の学生は遅刻するの当たり前って言ってる」
千尋「海外に拠点を移すか?」
小池「でも、英語話せる?」
大枝「......そこなんだよね」
エミリー「(英語)でも、海外の学生はもっとお洒落なファッション
を着てるよ」
大枝「はい、小池通訳」
小池「海外の学生はもっとお洒落なファッションをしているって」
倉田「確かに、ヨレヨレの服に寝癖、どうせ靴下に穴だって空いて
るんだろ? もっと見た目はこだわった方がいいよ」
靴下を確認して目を逸らす大枝。
千尋「いつになったら大枝に彼女が出来ることやら」
大枝「そんなの要らないよ。彼女が出来たらお金使うし、自分の時間
がなくなる。デメリットしかないんだけど」
倉田「まあお前の言っている事は正しい。でもな、彼女が出来ればお
前もきっと変わるはずだ」
千尋「試しに付き合ってみなよ」
大枝「誰と? 面倒しかない」
机で寝ようとする大枝。
大枝を起こす倉田。
倉田「想像してみろ。誕生日に彼女がいたらどうだ? 二人で過ごせ
る最高の時間になる。誕生日だけじゃない、クリスマス、お正月、
バレンタインデーなど。彼女がいる、いないで人生の角度が180
度変わるんだぞ」
大枝、起きながら
大枝「仮に彼女が出来て記念日を二人で過ごしたって、喧嘩や気まず
さ、一回一回の報告。それを考えるくらいなら最初からいない方が
マシだと僕は思う」
千尋「人の意見を聞く事も大事だよ」
大枝「いいんですよ。僕は僕なので」
眠りにつく大枝。
千尋の携帯が鳴る。
驚きながら携帯を見て立ち上がる千尋。
倉田「どうしたんですか?」
千尋「うちの大学に美女現る」
倉田、大枝の耳元で
倉田「美女だって」
チラッと倉田を見る大枝。
○同・食堂
大枝、倉田、千尋が歩いてくる。
男性の人だかりが出来ている。
大枝「美人の編入生ねえ」
倉田「興味があるくせに」
大枝「ねえよ」
千尋「私の友人が言うにはモデルさんみたいだって」
大枝「へえ〜」
千尋を見つける石原(22)
石原「遠藤」
千尋「あそこに?」
石原「ああ」
男性達を掻き分けていく千尋。
倉田「付いて行くよ」
大枝「別にいいよ」
倉田「いいから」
大枝の手を引っ張る倉田。
イヤホンをして勉強をしている西園寺茜(21)の姿。
茜を見て目を見開く千尋。
千尋「めっちゃ綺麗」
千尋の近くにいく大枝と倉田。
大枝「興味がないって言ってるだろ ……」
茜を見る大枝。
じっと茜を見つめる大枝。
倉田「(冗談っぽく)大枝、話かけてこいよ」
大枝「……」
千尋「大枝には荷が重いでしょ」
茜に近づこうとする相模原悠人(21)。
遠藤「あいつは……うちの大学ミスターイケメン三年連続グランプリ。
相模原」
茜の肩を叩く相模原。
相模原「君、編入生?」
茜の隣に座っている元町南が茜の肩を叩く。
南「ねね、茜なんか聞かれてるよ」
相模原を一瞥する茜。
茜のイヤホンを取る相模原。
相模原「人の話は目を耳と心で聞くものさ。良かったら俺とご飯でも
食べに行かない?」
『おー』という声。
千尋「さすが女慣れしている」
倉田「そしてあの顔で言われたら」
大枝「……いけすかない」
人の隙間から大枝の姿を見る茜。
思い詰めた表情で立ち上がる茜。
『おー』という声。
茜「……嬉しい」
ニヤリと笑う相模原。
相模原「じゃあ行こうか」
茜に手を差し伸べる相模原。
不思議そうに相模原に目を向ける茜。
茜「どこに?」
相模原「ランチだよ。嬉しいんだろ?」
茜「ここ、食堂ですけど」
戸惑う相模原。
相模原「いや、そういうことじゃなくて」
茜「ご飯を食べに行きたいのなら、どうぞご自由に」
苦笑いをする相模原。
周りを見る相模原。
相模原「……そうだ。まだレポートの途中だった」
走って去って行く相模原。
南「カッコイイのにな〜」
茜「そう?」
椅子に座りイヤホンを付ける茜。
ノートを開き勉強を始める茜。
男性1「相模原でダメなら俺達でも」
男性2「玉砕だな」
茜の周りから去って行く男性達。
大枝の肩を叩く千尋。
千尋「君じゃ手が負えないよ。ああいうタイプと付き合っても楽しく
ない」
倉田「彼氏いますかね?」
千尋「いやー性格があれだからね」
大枝「……男性、誰もが憧れる完璧な女性」
倉田「大枝?」
大枝「遠藤さん、倉田。僕」
千尋「どうした?」
大枝「僕、初めて恋をしたかもしれない」
驚く倉田と千尋。
○大学・食堂
葵、由紀、瑛里華が座っている。
瑛里華「ねえ、あんな子この学校にいたっけ?」
由紀「確かに〜、あまり見ない子だね」
瑛里華「噂では、すごい気が強いんだって。いろんな男子に話しかけ
られるけど、誰一人振り向かないんだって」
葵「すごいね。それはそれでなんかね・・・」
茜から離れた場所に座っている大枝、倉田、千尋。
千尋「大枝、あれは止めといた方がいい」
大枝「どうして?」
倉田「確かに付き合った方がいいとは言ったけど、レベルが違いすぎ
る」
大枝「やってみないとわからないだろ」
千尋「順序ってものがあるの。ただの村人がラスボスを倒せないよう
に」。まずは経験値を......」
倉田「遠藤さん!」
茜の周りに男性達が集ってくる。
茜を見ている倉田と千尋。
千尋「第二陣が来たか」
目線を戻す倉田と千尋。
大枝の姿がない。
倉田「あれ? 大枝は?」
茜の方を見ると茜に近づこうとする大枝。
急いで大枝をもとの場所に戻そうとする千尋。
大枝「早くしないと取られてしまいます」
千尋「だーかーら、冷静に」
大枝「離してください」
千尋「友人のアドバイスは聞いとけって」
大枝「そんなの知らないですよ!」
倉田「……美女の力はすごいな」
千尋「私は君の事を思って」
大枝「名前! 名前を聞くくらいならいいですよね?」
千尋「まあ、その位なら」
大枝を離す千尋。
茜に近づく大枝。
大枝に向かって手を合わせる倉田と千尋。
茜に近づいて行く大枝。
大枝、歩きながら服や髪型などを直している。
茜の正面に立つ大枝。
大枝に目を向ける茜。
緊張している大枝。
心配そうに見ている倉田と千尋。
千尋「私、もう見てられない」
葵、びっくりしながら振り向く。
葵「え? 利治?」
倉田の胸に顔を埋める千尋。
イヤホンを取る茜。
南「茜、また来たよ」
茜、イヤホンを取る。
茜「何か?」
直立不動になる大枝。
大枝「(声が裏返っている)べっ勉強中にすみません。私、大学三年
大枝利治と申します。本日から編入されたとの事で、何かわからな
い事がありましたらお気軽にお申し付けくださいませ。ませ」
茜「あっありがとうございます」
千尋「自己紹介というより」
倉田「案内人」
大枝「あの、おおおお名前なんていうんですか?」
一息吐き、ノートを閉じる茜。
千尋「マズい!」
大枝に近づく倉田と千尋。
立ち上がる茜。
茜を見る大枝。
じっと大枝の顔を見ている茜。
大枝(心の声)「これさっき見たやつ」
大枝の近くに行く倉田と千尋。
千尋「本当に申し訳ありません。この子に悪気はないんです。ですが、
今回ばかりは少しネジが外れてしまったというか。そもそもネジが
あるのかというか」
倉田「いい勉強をさせていただきありがとうございました」
頭を下げる倉田、千尋。
大枝の頭を下げる千尋。
フッと笑う茜。
茜「西園寺茜。大学三年生」
ゆっくり顔を上げる大枝、倉田、千尋。
茜「何驚いた顔をしているの? 同級生でしょ?」
大枝「えっといや、その、茜……さん」
茜「うん」
大枝「よっよろしくお願いします」
茜「こちらこそ。大学の事で分からない事があったら大枝君に相談す
るね」
大枝「あっはい! 相談。はい! そのえっと勉強頑張って下さい!」
立ち去っていく大枝。
一礼して大枝を追いかける倉田と千尋。
ニコッとして大枝を見る茜。
茜に近づく男性3。
南「こりゃ〜茜も大変だな」
男性3「あの、俺の名前は……」
イヤホンをする茜。
由紀「ねね、今のみた?」
瑛里華「うん、大枝にしては頑張ったな」
不思議そうな顔で見つめている葵。
葵「利治が? どうして?」
○道
浮かれている大枝。
大枝に近づく倉田と千尋。
倉田「大枝、やるじゃん」
千尋「案内人、お疲れさん」
大枝「バサっと言われるかと思った。ここ食堂なんだけど。って」
千尋「だね。まあ君にしてはよくやった!」
大枝、止まる。
倉田「ん? どうした?」
大枝「僕、頑張る」
倉田「何を?」
大枝「茜さんのコト」
千尋「確かに誰もが惚れるとは思うけど、付き合うとなると話が
ね」
倉田を見る千尋。
倉田「応援したい気持ちはあるんだけど」
大枝「いや、付き合うなら茜さん以外考えられない」
倉田・千尋「ええーーー!」
驚き、大枝から離れる倉田と千尋。
千尋「怖い、怖い。この子怖い」
倉田「俺らじゃ手が負えない」
大枝「リアクション大きすぎません?」
ゆっくり大枝に近づく倉田と千尋。
遠藤「確認だけど、あの西園寺さんと誰が付き合うって?」
大枝「僕ですけど?」
倉田「寝癖、ヨレヨレの服、靴下の穴、口が臭い。男として落第点の
お前が西園寺さんと?」
大枝「そうだけど」
顔を見合わせて苦笑いをする倉田と千尋。
大枝「……僕ってそんなにヤバいの?」
倉田・千尋「ヤバい!」
驚いた顔をする大枝。
大枝「知らなかった。まさかそんなにとは」
倉田「今回がダメでも。大枝が自分の事を少しでも理解してくれて、
俺、嬉しい」
千尋「どんな結果になろうと私達は君の味方だよ」
大枝「振られる前提で話すの止めてもらえませんか?」
倉田「まあ相談するって言ってくれたわけだし。可能性はゼロではな
い」
千尋「ほぼゼロだけど」
大枝「遠藤さん」
千尋「よし! なんとかする為に大枝の家で作戦会議だ!」
大枝「何で僕の家なんですか?」
千尋「気にすんなって」
倉田「遠藤さん。すいません」
千尋「どうした?」
麻奈美の声「友貴!」
倉田の方に手を振っている清水麻奈美(21)。
倉田「彼女に呼び出されて」
倉田に近づく麻奈美。
麻奈美「もう! 約束忘れていたわけじゃないよね?」
倉田「忘れてたわけじゃないよ」
倉田の腕を掴み歩いて行く麻奈美。
麻奈美「そうそう、大枝君、千尋さん。これ絶対に見に来て」
大枝、千尋に『カップルワングランプリ』のチラシを渡す麻奈
美。
大枝「カップルワン?」
麻奈美「ミスコンや、ミスターコンはあるでしょ? そのカップルバ
ージョン。今回第一回だからまだ出場者が少なくてチャンスなの。
当日まで参加オッケーみたいだから是非」
大枝「いや、是非って言われても」
麻奈美「愛は色んな形があるから大丈夫だよ」
大枝と千尋を見る麻奈美。
見合わせる大枝と千尋。
大枝、千尋「ないない」
大枝「もうないって」
麻奈美「もう?」
目を逸らす大枝。
倉田「ちょっと待て、えっ俺ら出るの?」
麻奈美「決定事項よ」
倉田「マジかよ」
麻奈美「ほら、気を取り直してデート」
浮かない表情で麻奈美に連れられていく倉田。
倉田を見ている大枝と千尋。
千尋「……倉田はほっとくか!」
大枝「ですね」
歩きだす大枝と千尋。
○アパート・大枝の部屋(夕)
部屋に絵が飾られている。
ベッドに座っている千尋。
缶ビールを持っくる大枝。
千尋「にしても相変わらず汚いね」
大枝「遠藤さん、それを言わないで下さい」
千尋「そのうち、掃除手伝ってあげるよ」
大枝「別にいいですよ」
大枝、倉田、金髪の千尋が写った写真が床にある。
写真を拾う千尋。
千尋「これ、入学の時の写真」
大枝「懐かしいですね」
千尋「大枝が話しかけてくれなければ、私達は友達じゃなかったかも
ね」
写真と同じ絵が飾られている。
写真と絵を見比べる千尋。
千尋「まさか絵が得意だなんて」
大枝「遠藤さん、目立ってから想い出にと思って」
千尋「こういうものはちゃんと飾っておくものだぞ」
大枝「すみません」
写真をテーブルの上に置き床を探る千尋。
千尋「まだ何か出て来そうだね」
大枝「勘弁して下さいよ。それより作戦会議ですよね?」
千尋「そうだった」
大枝「気になってたんですけど。相談するってもしかしたらただの社
交辞令って可能性もありますよね?」
千尋「この短期間で成長したね。そう、まだ油断が出来ない状況にあ
る」
大枝「どうしたらいいんですか?」
千尋「明日、会ったら連絡先を聞く。そうすれば今日の言葉が本当だ
ったのか分かる」
大枝「教えてもらえなかったら?」
千尋「相模原と同じ道を歩む事になるだろうね」
大枝「そんなの嫌だ!」
頭を抑える大枝。
千尋「落ちついて! ここからは一言一言が大事になってくる」
大枝「遠藤さん、どうすれば」
千尋「勉強を教える……大枝だと教わる方になるか」
大枝「すいません」
千尋「正当法で連絡先を聞くってのは成功率が低そうだし」
大枝「ですね」
千尋「……ないね」
缶ビールを飲み始める千尋。
千尋の体を揺さぶる大枝。
大枝「ちょっと諦めないで下さいよ」
千尋「ビール、こぼれる」
大枝「遠藤さん!」
千尋「私だって応援したいよ。けど美女を落とす方法なんて分かるわ
けないでしょ。そもそも女だし」
大枝「その為の作戦会議ですよね?」
千尋「こう、距離を何気なく近づける手はないもんかねー」
大枝「簡単に思いつくものではありませんね」
千尋「だね」
写真を見る大枝。
大枝「あっ」
千尋「どうした?」
大枝「作戦、思いついた」
千尋「大丈夫?」
大枝「多分。この作戦なら」
自信のある表情をする大枝。
○大学・食堂
イヤホンをして勉強をしている茜。
少し離れた位置で茜を見ている男性達。
食堂に来る大枝、倉田、千尋。
寝癖はなくしっかりとした服装の大枝。
○(回想)アパート・大枝の部屋・中(夕)
写真を手に持つ大枝。
大枝を見る千尋。
大枝「まずこの大学の生徒全員と写真を撮ろうとしていると話を持ち
かける」
千尋「写真ね」
大枝「そして写真のデータを送りたいから連絡先を教えてという」
千尋「なんかイヤらしい作戦」
大枝「完璧だ」
○大学・食堂
緊張している大枝。
大枝の隣に倉田と千尋。
倉田「大枝、顔色悪いぞ」
大枝「大丈夫」
千尋「止めるなら今のうちだよ」
大枝「大丈夫」
倉田「靴下の穴は?」
大枝「空いている」
歩き出す大枝、倉田、千尋。
茜の前で立ち止まる大枝。
顔を上げる茜。
茜「(口の動きだけ)ハル」
ハッとする茜。
イヤホンを取る茜。
茜「大枝君、こんにちは」
大枝「きょっ今日も勉強してるんですね」
茜「うん。にしてもビックリ。服装が変わるだけで違う人みたい」
大枝「ありがとうございます」
茜「今日はどうしたの?」
大枝「新しく企画を始めまして」
茜「企画?」
大枝「大学の全校生徒と写真を取りたいと思っていて、その第一号
になっていただきたいんです」
茜「私が?」
困った表情の茜。
千尋「ですよね。分かってました。はい退散」
倉田「あの、気にしないでください」
大枝「いきなり、それはないですよね」
千尋「ほら、行くよ」
歩き出す大枝、倉田、千尋。
立ち上がる茜。
茜「あの!」
振り向く大枝、倉田、千尋。
茜「いいですよ。写真」
大枝「本当ですか?」
茜「はい」
ハイタッチをする倉田と千尋。
大枝「じゃああの、そのデータを送りたいので連絡先を」
浮かない表情をする茜。
茜「あの……それは」
不思議そうな顔をする大枝。
○同・教室
携帯電話を持っている大枝。
携帯電話に大枝と茜が写っている。
ふてくされている千尋。
考えている倉田。
千尋「スマホ、持ってないか」
倉田「断り方としては完璧だよね」
千尋「今時そんな人いる?」
大枝「でも、何で撮らせてくれたんだろう」
千尋「学生生活最後の想い出を作ってあげたかったとか?」
倉田「建前とか?」
千尋「留年に落ち込まないでとか」
大枝「どうしてネガティブになるの?」
千尋「それしか思いつかなくて」
茜が教室に入ってくる。
倉田「あっ茜さん」
茜を見る大枝。
倉田「何でこの大学に編入してきたんだろう」
千尋「確かに。偏差値だって高いわけじゃないのに」
大枝「大学院に行きたいとか」
倉田「この大学の大学院にか?」
大枝「そうだよね」
倉田「見た目は完璧だけど、中身は謎だらけ」
茜をじっと見ている大枝。
○同・正門(夕)
雨が降っている。
立っている大枝。
大枝に近づく倉田と千尋。
千尋「雨」
倉田「俺は持ってるけど二人は?」
折りたたみ傘を取り出す倉田。
大枝・千尋「ない」
倉田「さすがに二人は入らないな」
傘を差している麻奈美。
麻奈美「友貴!」
倉田に近づく麻奈美。
倉田「マジかよ!」
麻奈美「どうしたの?」
倉田「二人共、傘がないっていうから」
麻奈美「なら友貴の傘貸してあげなよ」
倉田「そしたら俺が」
麻奈美「今日は相合い傘出来るね」
倉田の傘を千尋に渡す麻奈美。
嬉しそうな顔をして倉田を傘の中に入れる麻奈美。
麻奈美「行こ」
倉田「いやちょっと」
麻奈美「行くよ〜」
歩いて行く倉田。
倉田「後で合流するから」
千尋「分かった!」
大枝「彼女ってあんなに大変なんですか?」
遠藤「あれは特別だ」
イヤホンをしながら茜が空を見上げている。
茜を見る大枝。
大枝「茜さんだ。傘持ってないのかな?」
大枝に傘を渡す千尋。
千尋「行って来い」
大枝「でも、遠藤さんが」
千尋「私の事はいいから」
頷き茜に近づく大枝。
大枝「茜さん」
大枝を見る茜。
茜「大枝君」
大枝「傘、持ってないんですか? あの良かったら、その途中まで一
緒に……」
茜「ありがとう。でも」
鞄から折りたたみ傘を出す茜。
茜「実は持ってたりして」
大枝「そうですよね」
助けを求めるような顔をして千尋を見る大枝。
頑張れという動きをしている千尋。
大枝「なら、その途中まで一緒に帰りませんか? ほらまだちゃんと
話したことないですし」
茜「……ちゃんとか」
淋しそうに笑う茜。
茜「今日はごめん。今度時間作るから」
傘を差して歩いて行く茜。
茜をじっと見ている大枝。
大枝に近づく千尋。
千尋「さすが完璧な女」
口を開けて固まっている大枝。
千尋「どうしたの大枝?」
体を揺さぶる千尋。
千尋「大枝!」
○カラオケ・全景(夜)
千尋の歌っている声。
○同・室内(夜)
歌っている千尋。
呆然としている大枝。
歌い終わる千尋。
千尋「いえーい! 盛り上がっているかーい!」
大枝「……」
千尋「お通夜か! 元気だせって」
大枝「……振られた」
千尋「はあ?」
大枝「絶対に振られた」
ソファーに泣き崩れる大枝。
千尋「なわけないでしょ。ただ用事があるって言われただけで大袈裟
すぎ」
大枝「その用事は僕よりも重要なんだよ!」
大枝にチョップをする千尋。
千尋「何様のつもり?」
大枝「痛ッ!」
千尋「まだ付き合ってもないのに彼氏面すんなよ!」
ドアを開け急いで入ってくる倉田。
倉田「大枝! 大丈夫か?」
大枝「倉田、俺……」
倉田「仕方ない、仕方なかったんだ」
大枝を抱きしめる倉田。
大枝「僕、恋出来て良かった」
倉田「ああ、お前は良くやったよ」
千尋「いや、始まってないから。勝手に終わらさないで」
倉田「だって大枝が振られたって」
目を細めながら大枝を見る千尋。
千尋「実はね」
○同・外(夜)
倉田の笑い声。
○同・室内(夜)
ふてくされている大枝。
笑っている倉田。
呆れている千尋。
倉田「小学生か!」
大枝「だって」
千尋「まっ今日がダメでも今度がある。カラオケでも誘ってみたら?
大枝にオススメな曲を入れてやる」
リモコンで曲をセットする千尋。
モニターに『シャドーガーディアンズ』の名前。
曲名に『レモン太陽と夕暮れの雫』
千尋「今日の事はすっぱり忘れて明日、挽回だ〜」
倉田「っていうか、このバンド誰だよ!」
千尋「黙って聞いて」
歌い出す千尋。
浮かない表情の大枝。
○大学・全景
○同・食堂
イヤホンをして勉強をしている茜。
茜を遠くで見ながら座っている大枝。
大枝の前にパンと牛乳がある。
大枝の隣に倉田と千尋。
背中を押す千尋。
びくともしない大枝。
倉田「写真、渡すだけだろ」
大枝「分かってるよ」
千尋「行ってきなさい」
牛乳を一気飲みする大枝。
ゆっくり茜に近づき茜の前で立ち止まる大枝。
浮かない表情の大枝。
大枝を見る茜。
じっと大枝の顔を見てニコッと笑う茜。
茜「大枝君」
大枝「あの、その、これ」
茜に写真を渡そうとする大枝。
茜「あっ昨日の。ありがとう」
大枝「じゃあ、僕は、これで」
立ち去ろうとする大枝。
もどかしそうに見ている倉田と千尋。
立ち上がる茜。
茜「あの!」
振り返る大枝。
茜「今日、空いてる?」
大枝「えっ?」
茜「ほら、昨日断っちゃったから」
大枝「えっあっはい!」
茜「良かった。じゃあ17時に校門の前で」
大枝「もちろんです!」
全力疾走で走って行く大枝。
ハイタッチをする倉田と千尋。
壁から不思議そうに見ている石原。
そこに葵、由紀、瑛里華が来る。
葵「利治」
大枝「お、おう」
瑛里華「この前はよくもぶつかってくれたな」
大枝「あ、あの時はすまん。」
由紀「いや、それは別に良いんだけどさ」
葵「最近、あの女の子と仲がいいね」
大枝「編入生の茜さんの事?」
由紀「編入生?!」
大枝「うん」
葵「.......茜さんって」
大枝「え?」
瑛里華「いろんな男子から話しかけられているのに」
由紀「どうして大枝君しか話さないの?」
由紀、瑛里華「大枝君、どうして?!」
大枝、戸惑いながら
大枝「いや、自分にもそれは......」
葵「......好きなの?」
大枝「え?」
葵「好きなの? あの子が?」
大枝「そ、それは......」
葵「それくらいわかるよ。何年一緒にいると思っているのよ」
大枝「た、例え好きだったとしても、まだちょっと」
由紀「私達、ずっと大枝の事見ているので」
瑛里華「色んな意味で」
その場を立ち去る葵、由紀、瑛里華。
○同・廊下
大枝の隣に倉田と千尋。
遠藤「そっか、大枝君は吉本さんと幼なじみなんだ〜」
大枝「保育園からずっと同じだったってだけで家は離れてるんでうけ
ど」
倉田「吉本とは付き合わないの?」
大枝「いや、あいつは彼氏いるんですよ」
千尋「な、なるほど......」
大枝「とりあえず、写真渡せて嬉しかった」
倉田「嬉しいのは分かるけど」
大枝「嫌われてなかったんだよ。分かるかなー君たちに」
千尋「あーめんどくさい」
倉田「待ち合わせ。遅れるなよ」
大枝「当たり前だろ。良い報告期待してて」
倉田「自分本位になるなよ。ちゃんと相手を見て」
大枝「分かってるよ」
倉田「本当かよ」
千尋に近づく石原。
石原「遠藤」
千尋「うん、どうした?」
石原「ちょっといいか?」
千尋「うん」
○同・屋上
千尋と石原がいる屋上。
千尋「いつも情報ありがとね」
石原「ああ」
千尋「にしても呼び出しなんて珍しいね」
石原「聞きたい事があって」
千尋「聞きたい事?」
石原「大枝利治。あいつは何者なんだ?」
千尋「何者って、ただの冴えない大学生だけど」
石原「西園寺は大枝としか話そうとしない。なんでだと思う?」
千尋「さあ? ダメ男が好きとか?」
石原「それだけの理由でこの時期に編入してくるもんかね。何も知ら
ないならいいわ」
去って行く石原。
千尋「言われてみれば。確かに」
石原「それと、一人で歩く時は注意しろと伝えておいてくれ」
千尋「一人?」
○同・校門(夕)
イヤホンをして立っている茜。
遠くで茜を見ている倉田と千尋。
千尋「あいつ、何やってるんだよ!」
倉田「遅れるなって言ったのに」
○同・男子トイレ(夕)
ぎゅるぎゅるという音。
腹を抑えながら洋式便座に座っている大枝。
大枝「まさか、こんな時に」
○同・全景(夕)
大枝の声「クソー!!」
○同・正門(夕)
イヤホンをして立っている茜。
げっそりした顔で腹を抑えながら歩いて来る大枝。
大枝「おま、おまたせしました」
茜「大丈夫?」
大枝「なんとか」
茜「無理しなくてもよかったのに」
大枝「いえ、無理でも来ます」
笑う茜。
茜「面白い。なら今日はカフェがいいかもね。あんまり歩かせるのも
悪いし」
大枝「すいません」
茜「行こう」
歩き出す大枝と茜。
○道からカフェ・前(夕)
歩いている大枝と茜。
茜を見る大枝。
大枝(心の声)「信じられない。僕が茜さんの隣を歩いている。なん
だこの感情は、幻覚を見ているのか? 僕は今日、腹痛で死ぬの
か?」
大枝を見る茜。
茜「どうしたの?」
目を逸らす大枝。
大枝「いえ、何でも」
テラスのある店の前に着く茜。
茜「このカフェでいいかな?」
大枝「はい。どこでも!」
茜「どこでも? ふふ。入ろっか」
カフェに入る大枝と茜。
そこに葵と由紀、瑛里華が歩いてくる。
由紀「あれ? 大枝?」
瑛里華「あの、編入生と一緒に?まさか。」
じっと大枝を見ている葵。
○カフェ・店内(夕)
店に入る大枝と茜。
近づいて来る店員。
店員「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
茜「はい」
店員「空いている席にどうぞ」
茜「大枝君はどこがいい?」
辺りを見渡す大枝。
大枝「えーと」
大枝(心の声)「こういうシチュエーション、どこに座ればいいんだ。
テラス。いや、室内? トイレに近い方が今は良い気もするし」
茜「はい。時間切れ。大枝君、汗が凄いからテラス側の席にしよ」
大枝「はっはい」
大枝(心の声)「完璧だ。まさにパーフェクトウーマン」
窓からこちらを見る葵、由紀、瑛里華。
由紀「嘘でしょ?」
瑛里華「どうして大枝と?」
葵「......」
茜に付いて行く大枝。
席に座る大枝と茜。
メニュー表を開いて大枝に渡す茜。
茜「大枝君は何にする?」
大枝「茜さんは?」
茜「私はもう決まってるから」
大枝(心の声)「ダメだ。隙がない」
大枝「全て美味しそうで悩みますね」
茜「ここのオススメは搾りたてのオレンジジュース」
メニュー表を見る大枝。
大枝(心の声)「どこに書いてあるんだ?」
茜「メニューに載ってないよ。裏メニューだから」
大枝「なら、それにします」
茜「うん。(店員を呼ぶ)すみません」
大枝(心の声)「茜さん。何者なんだ!」
店員が歩いて来る。
茜「搾りたてオレンジジュースとアールグレイ」
店員「かしこまりました」
去って行く店員。
大枝「アールグレイ好きなんですか?」
茜「うん。大枝君は紅茶好き?」
大枝「大好きです!」
大枝(心の声)「全然飲まないけど」
茜「良かった。ミルクティーにはダージリン、香りを楽しむならアー
ルグレイ。アールグレイってベルガモットの香りが付いてて、落ち
着くの」
大枝「ベルガモットか。それは気付かなかった」
茜「話が合うって嬉しいね」
大枝「そうですね! あはははは」
店員が飲物を持って来る。
店員「お待たせしました。搾りたてオレンジジュースとアールグレイ
です」
茜、カップにアールグレイを注ぐ。
大枝(心の声)「紅茶を注いでいる姿も美しい。理想の女性だ」
にやけた顔つきの大枝。
茜「大枝君、大枝君」
ハッとする大枝。
茜「私の顔に何か付いてる?」
大枝「いえ、付いてないです」
笑う茜。
茜「大枝君って面白いよね」
大枝「ありがとうございます。いやー茜さんみたいな人がうちの大学
に編入してくるとか僕からしてみれば不思議でたまりませんけど」
悲しそうな顔をする茜。
茜を見て動揺する大枝。
大枝「すいません。変な事言って」
茜「ううん。気にしないで」
由紀「あの2人付き合っているのかな?」
瑛里華「まさか」
じっと大枝を見ている葵。
一気にオレンジジュースを飲む大枝。
茜「そんなに一気に飲んだら」
大枝「あの! 茜さん」
茜「はい」
大枝「僕、かっこ良くなりたいんです」
茜「えっ。いきなりどうしたの?」
瑛里華「聞こえない! 何言ってるの?」
由紀「私達も中に入らない?」
瑛里華「確かに」
中に入る由紀、瑛里華。
由紀「葵も早く」
葵「うっうん」
ゆっくり歩き出す葵。
大枝(心の声)「好きな人の前で何を言っているんだろう」
大枝「清潔感がなくて時間にルーズで、そんな事だから誰にも相手に
されなくて。それでもいいって割り切ってしまって」
大枝(心の声)「何ダサイ事言ってるんだよ」
大枝「でも、茜さんに出会ってこんな美人がいるんだなって思って」
茜「……美人だなんて」
大枝「だから僕もカッコ良くなりたいんです!」
茜「カッコ良くか」
大枝「何でもいいんです」
席に座る3人
由紀「あいつはいつからカッコよくなりたいと思っていたんだ?」
瑛里華「明らかに恋しているな」
大枝を見て考えている表情をする茜。
茜「まあ強いて言えば服装がダサくて」
ダメージを食らったリアクションをする大枝。
葵「確かに」
茜「髪型が変だから切った方が良いし」
なんとか耐えている表情の大枝。
瑛里華「合っている」
茜「今時、そのメガネがないかな」
倒れる大枝。
由紀「その通り」
茜「大枝君!」
大枝「おっしゃる通りです。ありがとうございました」
瀕死の大枝。
大枝(心の声)「僕、何をやってるんだろう」
葵「どうして?」
○道(夜)
歩いている大枝と茜。
その後ろを歩いている葵、由紀、瑛里華。
茜「今日は本当にありがとう」
大枝「こちらこそありがとうございました」
大枝の前に立つ茜。
立ち止まる大枝。
茜「ねえ、そろそろ敬語止めない?」
大枝「……でも」
茜「同い年なんだし。ねっ!」
大枝「かしこまりました」
茜「それ、敬語なんだけど」
苦笑いをする大枝。
大枝「だよね。ごめん。今日はありがとな」
目を見開き大枝を見る茜。
茜を不思議そうに見ている大枝。
涙を流す茜。
戸惑う大枝。
由紀「泣いている?」
瑛里華「あの大枝が泣かせたの?」
大枝「あの、僕、何かしましたか?」
茜「ううん。久しぶりだったから」
大枝「久しぶり?」
手帳を取り出して書き出す茜。
不思議そうに見ている大枝。
茜「出来た! ゴメンね。もう大丈夫だから」
大枝「良かった」
茜「私、今日のコト絶対に忘れないから」
大枝「うん」
茜「写真ありがとう。また明日」
大枝「うん」
去って行く茜をじっと見ている大枝。
大枝に近づいて来る葵、由紀、瑛里華。
由紀「大枝君」
大枝「あ、え?ど、どうして?」
瑛里華「たまたま歩いていたら2人がカフェに入るのを見たから」
大枝「へ〜。え!? じゃあ、あの時からずっと見てたの?」
葵「まあ」
大枝「ストーカーかよ」
由紀「ストーカーでも、なんでもいいけど。女を泣かせるなんて最低」
大枝「いやいやいやいや! 誤解だよ」
瑛里華「誤解?」
大枝「急に泣き出したんだ」
由紀「急に?」
大枝「うん、なんか思い出しちゃったっていいながら」
瑛里華「思い出したねえ」
大枝「とにかく邪魔はしないで、やっと好きな人が出来たんだから」
葵「え!? やっぱり」
浮かない表情をする葵。
葵を見る由紀。
由紀「女を泣かせるなんて本当に最低!」
大枝「だから泣かせてないって。僕、変わらなきゃいけないんだ。だ
から協力してほしい」
瑛里華「どうする?」
ニコッと笑う葵。
葵「任せなさい! 私以上に利治の事知っている人いないんだから」
由紀「葵」
大枝「本当? ありがとう葵!」
嬉しそうな葵。
じっと葵を見ている由紀、瑛里華。
○アパート・大枝の部屋(夜)
ベッドに仰向けになっている大枝。
○(回想)道(夜)
泣いている茜。
茜「私、今日のコト絶対に忘れないから」
○アパート・大枝の部屋(夜)
横を向く大枝。
大枝「あんな事言われたら普通は嬉しいはずなんだけど」
胸を抑える大枝。
大枝「どうして苦しいって感じるんだろう」
浮かない表情の大枝。
○大学・教室(朝)
浮かない顔で座っている大枝。
大枝に近づく千尋。
千尋「で、昨日どうだったんだよ?」
大枝「あー」
千尋「なんなの? その生返事は」
大枝「帰り際、胸が苦しくなったんです」
ニヤニヤする千尋。
千尋「そうか。君が。へぇー」
大枝「遠藤さん、この引っかかりはなんですか?」
千尋「ボーイズビーアンビシャス!」
大枝「どういう意味ですか?」
千尋「一人前になったって事」
大枝「はあ」
千尋「倉田は?」
大枝「彼女とデートみたいです」
千尋「よろしくやってるねえ」
大枝「あの、今日相談乗ってもらえませんか? このままじゃ気持ち
悪くて」
渋い顔をする千尋。
千尋「申し訳ない。今日は別件が」
大枝「……そうですか」
千尋「明日、明日聞くから」
チャイムの音。
浮かない表情の大枝。
大枝を睨みつけて見ている相模原と男性達。
○同・食堂
ボーっと座っている大枝。
茜がいつも座っている席を見ている。
大枝「今日は茜さんもお休みか」
ため息をつく大枝。
大枝「僕、どうしてしまったんだろう」
大枝に近づく相模原と男性達。
相模原「大枝君だよね?」
相模原を見る大枝。
大枝「はい」
相模原「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
不敵に笑う相模原。
○同・校門
相模原、男性達に付いて行く大枝。
紙袋(携帯の)を持ち歩いている茜。
大枝を見る茜。
茜「大枝君?」
○同・校舎裏
相模原、大枝を壁に叩き付けられる。
顔に痣が出来ている大枝。
大枝を見て笑っている男性達。
相模原「最近、調子乗ってませんか?」
大枝「乗ってません」
男性4「とぼけるのかよ。西園寺と話をしてるくせに」
大枝「話をしているだけ……」
相模原「それが調子に乗ってるって言うんだよ!」
大枝を投げ飛ばす相模原。
大枝「僕はただ、普通に」
大枝を立ち上がらせる男性達。
相模原「普通ってさ、多数決で多い方の事を言うと思うんだけど」
大枝「どういう事ですか?」
相模原「西園寺と仲良くしているお前は普通じゃない。特別だってこ
とだよ」
大枝の腹を殴る相模原。
悶絶する大枝。
相模原「だから、俺らも特別扱いしてやる。感謝するんだな」
笑う男性達。
大枝「……こんなの」
相模原「はあ?」
大枝「こんなの。ただの八つ当たりじゃないか!」
相模原「そうだけど」
男性5「今気付いたのかよ」
大枝の携帯電話を持つ男性6。
男性6「相模原さん」
大枝「それ!」
相模原に大枝の携帯電話を投げる男性6。
わざと落とす相模原。
相模原「おい、携帯は投げるもんじゃないぞ」
男性6「そうでした」
笑う相模原と男性達。
大枝「返して」
携帯電話を拾う相模原。
相模原「返すよ。西園寺のアドレスを手に入れたら」
携帯電話を操作する相模原。
大枝「返せって」
相模原「返すよ。ちゃんと」
大枝「知らないんだ。僕も」
相模原「何を」
大枝「茜さんの番号」
相模原「往生際が悪いぞ」
大枝の腹を殴る男性。
悶絶する大枝。
大枝「知らないんだ。本当に」
相模原「出てこない」
男性3「名前変えて登録してるとか?」
相模原「あり得る。普通じゃないもんなこいつ」
笑う相模原と男性達。
悔しそうな顔の大枝。
茜の声「ちょっと何やってるの?」
茜が大枝に近づいて来る。
気まずそうにする相模原。
相模原「西園寺」
大枝を離す男性達。
茜「大丈夫?」
大枝「はい」
相模原を睨みつける茜。
相模原「俺の誘いに乗っておけば大枝だってこうはならなかったのに」
大枝「……」
男性4「意地になって西園寺の番号を知らないって言うから」
悔しそうな顔をする大枝。
申し訳なさそうな表情の茜。
茜「持ってなかったの。携帯」
相模原「今時そんな嘘に」
紙袋を見せる茜。
茜「今買ってきた。大枝君は嘘なんて言ってない」
大枝「茜さん」
舌打ちをして去って行く相模原。
男性5「相模原さん!」
相模原に付いて行く男性達。
その場に倒れる大枝。
大枝に近づく茜。
茜「大枝君」
大枝「……カッコ悪いね僕」
茜「そんなことない」
大枝「カッコ悪いじゃないか! 大切な人を守れない。助けてもら
う? それがどんなに悔しいか。どんなに情けないか。茜さんには
分かるわけない」
茜「嬉しかった」
茜を見る大枝。
茜「嬉しいって思えた。そう感じただけじゃダメかな?」
大枝「……」
ゆっくり立ち上がる大枝。
茜「大枝君?」
下を向きながらゆっくり歩いて行く大枝。
大枝(心の声)「完璧だ。完璧すぎて僕には釣り合わない」
大枝の前に立つ茜。
茜「大枝君?」
大枝「無理なんだ! 僕なんかじゃ」
茜を見る大枝。
大枝「釣り合わないんだよ」
笑う茜。
大枝「何が可笑しいの?」
茜「まだ出会って間もないのに釣り合わないとかわからないじゃない。
それに……」
大枝のメガネを外す茜。
茜「かっこ良くなってくれるんでしょ? 今はとか考えたらこの先何
があっても進めなくなっちゃうよ」
悔しそうな顔をする大枝。
紙を渡す茜。
茜「私の携帯番号。連絡してね。出来たら今日の夕方までに」
手を振り去って行く茜。
茜を見ている大枝。
大枝(心の声)「ダサイ。何もかも」
○アパート・大枝の部屋・中
大枝の顔に絆創膏を貼っている倉田。
痛そうにしている大枝。
冷蔵庫を開ける千尋。
冷蔵庫の中に缶ビールが何本かある。
缶ビールを取り出す千尋。
テーブルにある茜からもらった紙を見る千尋。
千尋「一人に注意。このことか」
大枝「どうしたんですか?」
千尋「いーや、何でも」
倉田「ゴメンな。まさかこんなコトになるなんて」
大枝「倉田のせいじゃないよ」
千尋「今日の夕方までにか。連絡するよね?」
浮かない表情の大枝。
千尋「えっ! まさかしないの? あり得ない」
大枝「遠藤さんや、倉田の言った通り僕には遠い人だったんだなって
自覚しましたから」
倉田「……大枝」
千尋「今更だね」
倉田「遠藤さん!」
千尋「今更諦めるとか、あり得ないでしょ! お前だけなんだぞチャ
ンスがあるのは」
大枝「チャンス? ですか」
気まずそうな顔をする千尋。
千尋に近づく倉田。
倉田「何か知ってますね?」
千尋「いや」
倉田「知ってる事。洗いざらい話してもらえますよね? 遠藤さん」
とぼけた顔をするが、諦める千尋。
冷蔵庫の中は空になっている。
テーブルに缶ビール。
千尋「私が知っているのはそれだけ。他は何も」
大枝「……僕だけ、話してくれる」
千尋「恋愛をするラストチャンスかもしれない。後は大枝がどうした
いかだね」
大枝「僕がどうしたいのか」
紙をじっと見る大枝。
○道(夕)
歩いている倉田と千尋。
倉田「連絡しますかね?」
千尋「しないだろうね。私が知っている大枝なら」
倉田「ですよね」
千尋「仕方ない。ラストチャンスだ」
千尋、携帯電話を持ち電話をかけようとする。
○アパート・大枝の部屋・中(夕)
紙と携帯電話を交互に見ている大枝。
寝転がる大枝。
大枝「ダメだ。振られる想像しか出来ない」
天上を見る大枝。
大枝「結局、変わりたくても変われないんだな」
電話の着信音。
携帯に目を向ける大枝。
○線路(夕)
電車が走っている。
○駅・前(夕)
走って階段を下りて来る大枝。
大枝の前に帽子を深く被っている茜の姿。
茜、大枝を見て笑顔で近づく。
茜「ゴメン、私の方から連絡して」
首を横に振る大枝。
茜「千尋さんのお陰だね。携帯ショップの前で出会わなければ、連絡
出来なかったから」
○(フラッシュバック)・携帯ショップの前
携帯番号を交換している千尋と茜。
ニヤついた表情の千尋。
○駅・前(夕)
ムッとする大枝。
大枝「一言もそんなこと」
大枝の腕を掴む茜。
茜「行こ!」
大枝を連れて走っていく茜。
○ライブハウス・全景(夕)
○同・中(夕)
15人ほどのお客さんがいる小さなライブハウス。
走って中に入って来る大枝と茜。
茜「良かった。間に合って」
大枝「ライブ会場?」
ステージを楽しそうに見ている茜。
マサ、ソースケ、ピーターが出てくる。
盛り上がる会場内。
マサ「皆さん、今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうござい
ます。今日は上田の命日です。シャドーガーディアンズのラストス
テージを楽しんでください」
茜を見る大枝。
涙を流している茜。
大枝「茜さん、あの、命日って……」
音楽が鳴り、大枝の声がかき消される。
○同・外(夜)
盛り上がっている声。
マサの声「今日は本当にありがとうございました!」
○道(夜)
歩いている大枝と茜。
茜「凄かったね」
大枝「茜さん、バンドとか見に行くんですね」
茜「意外だった?」
大枝「少し」
茜「って言ってもあのバンドが大好きなだけで、他は見に行った事な
いけど」
大枝に笑いかける茜。
茜「ねえ、まだ時間。ある?」
大枝「えっ?」
驚いた顔をする大枝。
○風景の良い場所(夜)
街が一望出来る場所。
周りには複数のカップルの姿。
風景を見ている大枝と茜。
大枝「凄く綺麗」
茜「私、ここに来ると落ち着くの。すごく好きな場所」
切ない表情をしている茜。
大枝「茜さん」
茜「大枝君はどうして私に声を掛けてくれたの?」
大枝「えっと、あのー」
茜「別に隠さなくてもいいよ。私は嬉しかったの。大枝君が声を掛け
に来てくれて」
大枝「ほっ本当ですか?」
茜「こんな所で嘘付く必要がある?」
大枝「そう、ですよね」
茜「自分に負けてはダメ、もっと強い心を持たないと。実は私も心が
弱かったの」
大枝「茜さんが?」
茜「うん。でもシャドーガーディアンズに出会って色んな事を教えて
もらった。変わりたいって思ったの。だから大枝君、心が大切だよ。
強い心」
大枝(心の声)「強い心」
背伸びする茜。
茜「今日は一日楽しかった。付き合ってくれてありがとう。行こっか」
歩き出す茜。
立ち止まっている大枝。
大枝(心の声)「強い心」
振り返る茜。
茜「大枝君?」
大枝「......茜さん」
茜「うん?」
大枝「実は......」
茜、少し微笑んで大枝の顔を見る。
茜「言いたい事があったら言っていいよ」
少し緊張している大枝。
大枝「えっと、その」
茜「誰にだって、伝えたい想いはあると思う。でも、その想いを
伝える事って本当に難しい」
大枝「え?」
茜「本当に勇気がいると思う」
大枝「あの......」
茜「人間誰しも一回は経験することだから」
大枝、茜を見る。
茜「ちゃんと心で受け止めるから」
大枝、大きく息を吸う大枝。
大枝「じ、実は、ずっと前から、好きでした」
茜「うん、知ってた」
大枝「え?」
茜「ありがとね、ちゃんと言ってくれて」
大枝「あ、うん」
茜、微笑みながら大枝の手を繋ぐ。
茜「じゃあ、行こっか」
大枝「え?」
茜「今日は二人の記念日だね。」
アパート・大枝の部屋・中(夜)
毛布を抱えて喜んでいる大枝。
テーブルに携帯電話がある。
倉田の声「おい、大枝」
大枝「ゴメンな。本当にごめん」
倉田の声「いや、謝られても、とりあえずその経緯を明日聞かせろ」
大枝「あーしーたー?」
にやけている大枝。
倉田の声「何だよ」
大枝「明日は茜さんとデートなので」
倉田の声「はいはい。終わったらでいいから」
大枝「終わるかな? 終わらないと思うけど」
倉田の声「うざい! じゃあまた明日な」
電話が切れる。
大枝「僕に彼女か」
悶える大枝。
○橋(朝)
T『交際一日目』
携帯電話を見る大枝。
『9時50分』の表示。
大枝「10分前」
走っていく大枝。
茜が立っている。
大枝を見つけて手を振る茜。
茜「大枝君!」
焦る大枝。
大枝「もしかして時間間違えた?」
茜「ううん。私がちょっと早く来ちゃっただけ」
大枝「良かった」
茜「行こっか」
歩き出す大枝と茜。
○美容院・中(朝)
カットする椅子に座っている大枝。
雑誌を見ながらソファーに座っている茜。
大枝の声「今日の予定は?」
鏡越しに茜に手を振る大枝。
手を振る茜。
○服屋o中(朝)
服を見ている茜と大枝。
茜の声「美容室に行って、服を買って、ついでにメガネも変えちゃお
う」
○コンタクト屋o中
大枝のメガネを外す茜。
コンタクトを入れる動作をする大枝。
○ビーチ(夕)
歩いてくる大枝と茜。
大量の買い物袋。
茜「今日は楽しかった。ありがとう」
大枝「こちらこそありがとう。茜さん」
不満げな顔をする茜。
茜「それ、もう止めない?」
大枝「えっと」
茜「茜さんっての」
大枝「でも、なんて呼んでいいか分からないし」
茜「……ソラ」
大枝「ソラ?」
茜「二人だけの時はソラって呼んで欲しい」
大枝「分かった」
茜「私は大枝君のコト、ハルって呼ぶね。利治のハル」
大枝「名前覚えてくれてたんだ」
茜「当たり前でしょ? 彼女なんだから」
嬉しそうな顔をする大枝。
○居酒屋o中(夜)
5〜6名の学生が集まっている。
大枝、倉田、遠藤が生ビールを持っている。
全員「カンパ〜い」
後藤「いや〜、美味しい」
野本「やっぱりこのサークルいいわ〜」
熊沢「このサークル、大学認定されててマジ最高でーす!」
鈴井「言えてる〜」
大原「でも、このサークル金吹っ飛ぶよね」
野本「否めない」
鈴井「そういえば大枝君ってあの子と付き合っているの?」
大枝、飲み物を吹き出す。
後藤「汚!」
熊沢「え? あの大枝に彼女が出来た?」
大枝「あの大枝って失礼だろ!」
大原「まじで出来たの?」
自慢げに頷く大枝。
千尋「大枝君は頑張ったんだよ」
後藤「ちなみに彼女って誰?」
倉田「学校生活、見ていればわかるよ」
野本「え〜教えてよ」
× × ×
酔って、にやけた顔をしている大枝。
大枝「彼女、なんだから」
大枝を睨んでいる千尋。
千尋を宥めている倉田。
千尋「私が連絡先を教えてなければこうならなかったくせに、何を自
分の手柄のように」
倉田「いいじゃないですか。祝福してあげましょうよ」
千尋「しかも、見た目まで変えちゃってああ、羨ましい」
大枝「ふふふ」
イラッとする千尋。
千尋「で? 何でソラなの?」
大枝「二人だけの時はソラって言うんです」
千尋「だから何で?」
大枝「二人だけの時はソラって呼ぶんです」
千尋「壊れてる。完全に壊れている」
倉田「見守ってやりましょうよ」
諦めた表情の千尋。
千尋「だね」
ニヤニヤしている大枝。
○アパート・大枝の部屋・全景(朝)
T『交際二日目』
○同・中(朝)
部屋のゴミを片付けている大枝と茜。
玄関で唖然としている倉田と千尋。
千尋「......本当にいる」
千尋を見て近づいて来る茜。
茜「千尋さん、先日はありがとうございました」
千尋「嘘じゃなかったんだ」
茜「嘘?」
倉田「いえ、こちらの話です」
千尋に近づく大枝。
大枝「遠藤さん、倉田、来なくてもいいって言ったのに」
倉田「手伝いに来てやったのにその言い方はないだろ」
千尋「ちゃんと変なものは捨てたんだよね?」
部屋に上がる倉田と千尋。
大枝「ちょっと遠藤さん!」
茜「変なものって」
大枝「(とぼけながら)何だろう」
部屋に歩き出す大枝。
四人で片付けている映像がスローモーションで流れる。
笑顔の茜を見ている大枝。
大枝(心の声)「彼女が出来るってこんなにも幸せなんだ」
大枝を見てニコっと笑う茜。
照れくさそうにする大枝。
○同・外・ゴミ置き場
大量のゴミが置かれている。
○同・中
片付いている部屋。
疲れた顔の大枝、倉田、千尋。
千尋「大分綺麗になったね」
大枝「俺の部屋ってこんなに広かったんだ」
ジュースと紙コップを持って来る茜。
茜「皆さんお疲れ様でした」
テーブルに置く茜。
茜「大枝君も」
大枝「あっありがとう」
ニヤける倉田と千尋。
倉田「茜さん、大枝をよろしくお願いします。何にも出来ないけど、
心だけは優しいから」
大枝「何だよ。心だけはって」
千尋「他に何かある?」
大枝「……」
フッと笑う茜。
茜「知ってます。あっ皆さんご飯は?」
千尋「まだですけど」
茜「ピザ、頼んでおいたんですけど一緒にどうですか?」
千尋「ラッキー! お言葉に甘えて……」
倉田「俺らはここで帰るから、二人で食べて下さい」
千尋「いや、折角なんだからさ」
倉田「後は楽しんで」
千尋を無理矢理連れて行く倉田。
千尋「え〜! 一枚位いいじゃん」
倉田「ダメです」
部屋から出て行く倉田と千尋。
ドアの閉まる音。
大枝(心の声)「ありがとう倉田」
○同・外
○同・中
テーブルにピザが三枚ある。
座っている大枝と茜。
茜「二人じゃ食べきれないね」
大枝「そんな事ないよ。お腹空いてたし」
茜「ハルは優しいね」
大枝「いや、そっソラこそ気が利いて凄いよ」
茜「フフ、ありがとう。でも食べ過ぎないでね」
大枝「どうして?」
茜「夕ご飯、私、作りたいから」
驚く大枝。
大枝「ほっ本当に!」
茜「オムライスでもいいかな?」
大枝「もちろんだよ」
茜「じゃあ、台所も片付けないとね」
IHコンロの上に空いた缶ビールが散乱している。
苦笑いする大枝。
大枝「確かに」
茜「本当にハルって感じ」
大枝「ありがとう」
ピザを食べる大枝。
大枝「……気になった事聞いてもいい?」
茜「何?」
大枝「どうしてうちの大学に来たの?」
茜「……ハルに会いに来たの」
大枝「またまた冗談がうまいんだから」
茜「本当だよ! この大学に来なかったらハルに話しかけてもらえな
かったんだから」
大枝「……そうだね」
茜「ありがとう。ハル」
大枝「こちらこそソラ」
ニコッと笑う大枝と茜。
○同・外(朝)
T『交際3日目』
○同・台所(朝)
並べられた二つの皿。
○同・中(朝)
眠っている大枝。
電話の着信音。
携帯電話を持つ大枝。
大枝「もしもし」
茜の声「おはよう。ハル」
飛び起きる大枝。
大枝「ソラ!」
茜の笑い声。
茜の声「いつまで寝てるの? 遅刻しちゃうよ」
大枝「すいません」
茜の声「それでは今日の服装をお伝えします」
大枝「服装?」
茜の声「大学でもカッコいいハルでいてほしいから」
大枝「おっお願いします」
電話をしながらファッションをチャックする映像が流れる。
○大学・全景
○同・教室
大枝が座っている隣に倉田と千尋の姿。
ざわついている教室内。
女子大生1「大枝君、なんか変わったよね」
女子大生2「なんかかっこ良くなった」
女子大生3「噂ではあの編入生と付き合ったって」
近づいてくる葵、由紀、瑛里華
葵「利治が付き合った?」
浮かない表情をする葵。
女子大生に近づく由紀。
瑛里華「それ、本当なの?」
女子大生1「うん、サークルの飲み会の時に言ってたらしい。でも、
あんなにカッコよくなるなら、付き合っておけばよかった」
由紀「あの野郎」
怒っている由紀。
千尋「噂になっているね」
大枝「からかわないでください」
倉田「なっ180度違うだろ?」
大枝「全然違う」
近づいてくる葵、由紀、瑛里華。
由紀「大枝! お前、付き合ったんだって?」
葵「由紀」
由紀「葵は黙ってて」
大枝「声がでかいよ。まあ、そうだけど」
悲しい表情をする葵。
大枝「まあ、詳しいことは今度話すよ」
千尋の携帯が鳴る。
『石原』の表示。
千尋「ちょっと私、用事が」
倉田「授業、始まりますよ」
千尋「大丈夫。ひっそり戻って来るから」
走って教室を出て行く千尋。
大枝「じゃ、僕らそろそろ授業だから」
歩き出す大枝と倉田。
由紀「ちょっと待ちなさいよ」
由紀を掴み首を横に振る葵。
○同・校門
歩いている大枝、倉田、千尋。
携帯電話を見ている大枝。
千尋「茜ちゃん、カラオケ来れそう?」
大枝「大丈夫だって」
千尋「良かった」
倉田「何が良かったの?」
千尋「いや。そう! 当たり前でしょ。私だけ彼氏がいないんだ淋し
いでしょ!」
倉田「胡散臭い。あのとき大枝と付き合っておけばこんなことには」
遠藤「ないない。出会って告白してくるバカと付き合えるか」
大枝「ちょ! 恥ずかしいよ」
倉田「一目惚れが昔からだった」
大枝「昔を掘り返すなよ」
千尋「君はいつから勝ち組になったんだ? 元はと言えば私が!」
大枝の口を握る千尋。
大枝「やへてくだはい」
大枝に近づく女子大学生1、女子大学生2、女子大学生3。
女子大学生1「あの大枝君」
大枝「はい?」
女子大学生2「あの、良かったら私たちと写真撮ってもらえません
か?」
大枝「えっ?」
女子大学生3「嫌ならいいんだけど」
千尋「あの穴開き靴下の大枝がモテモテに」
倉田「分からないものですね」
大枝「はい。いいですよ」
喜んでいる女子大学生1、2、3。
千尋に携帯電話を渡す女子大学生1。
千尋「何で私が?」
大枝の隣に行く女子大学生1、2、3。
ふてくされている千尋。
千尋「じゃあ撮るよ」
写真を撮ろうとする千尋。
茜の声「ちょっと何してるの!」
大枝の前に茜の姿。
大枝「茜さん」
大枝に近づく茜。
茜「ハルに近づかないで!」
女子大学生2「何よ」
女子大学生3「別に写真くらいいいじゃない」
女子大学生1「……行こ」
歩き出す女子大学生1、2、3。
驚く大枝、倉田、千尋。
○カラオケ・中
歌っている千尋。
大枝の隣にいる茜。
茜を見ている倉田。
歌い終わる千尋。
拍手する茜。
茜「千尋さん、上手ですね」
千尋「そうかな?」
曲が流れる。
茜「私だ」
マイクを渡す千尋。
立ち上がる茜。
大枝に近づく倉田と千尋。
歌う茜。
倉田「上手い」
千尋「完璧でしょ」
大枝「やっぱりすごい」
倉田「なあ大枝、さっきの」
千尋「私も気になったんだけど、君たちそんなに仲良くなったの?」
大枝「そんなにって?」
倉田「ハルに近づかないでって」
大枝「別に」
飲物を飲もうとする大枝。
倉田「で? もうやったの?」
飲物を吐き出す大枝。
大枝「はあ! 何言ってるんだよ!」
茜「ハル、大丈夫?」
大枝「うん」
茜「変な事聞かれたんでしょ?」
大枝「別に」
倉田「ああ」
○同・外(夜)
○同・中(夜)
盛り上がっている千尋。
受話器を持っている倉田。
大枝の隣に茜。
倉田「はい。もう出ます」
受話器を戻す倉田。
千尋「もう終わり?」
倉田「はい」
千尋「じゃあ最後にこの曲を」
曲を入れる千尋。
画面に『ハルの茜空』の文字。
倉田「だから誰なんですか!」
千尋「良い曲だから黙って聞いて!」
手を繋ごうとゆっくり茜の手に近づけ、手を繋ぐ大枝。
嬉しそうに茜の顔を見る大枝。
画面を見て涙を流している茜。
素の顔に戻る大枝。
○同・外(夜)
カラオケの前にいる大枝、茜、倉田、千尋。
心配そうに茜を見ている大枝。
茜「今日は誘っていただきありがとうございました」
千尋「いいって。にしても歌うますぎ」
茜「ちゃんと聞いてなかったじゃないですか」
千尋「それは倉田のせいで」
倉田「遠藤さん。人のせいにしないで下さい」
千尋「大枝がね」
大枝「……」
千尋「何見とれてるんだよ」
大枝の目を隠す千尋。
大枝「ちょっと止めて下さい」
千尋「自分ばかり幸せになりやがって」
茜「私のハルにちょっかい出さないで下さい」
倉田「遠藤さん、行きますよ」
千尋「あ、はい。大枝、またね」
大枝「はい。また明日」
去って行く倉田と千尋。
茜「私たちも行こ」
大枝「聞いてもいい?」
茜「どーぞ」
大枝「ハルって呼び方、二人だけの時じゃなかったっけ?」
茜「ゴメン。ハルのこと大好きだから。勝手に。変えた方がいい?」
大枝「ううん。そのままでいいよ」
茜「ありがとう」
大枝「あと……」
○(フラッシュ)同・中(夜)
画面を見て涙を流している茜。
○同・外(夜)
首を横に振る大枝。
不思議そうに大枝を見ている茜。
ポケットから鍵を取り出す大枝。
大枝「合鍵作ったから。いつでも家に来て」
茜「ハル」
大枝を抱きしめる茜。
茜「大好き」
茜を抱きしめる大枝。
○各場所
T『交際4日目』
デートをしている大枝と茜。
立ち止まり手帳に書いている茜。
トイレから出てくる大枝。
イヤホンを付けている茜。
○大学・校門(朝)
T『交際5日目』
『第一回、カップルワングランプリ』の看板。
○同・廊下(朝)
歩いている大枝と茜。
せわしない大学生達。
茜「今日騒がしいね」
大枝「今日?」
『カップルワングランプリ』のポスターを見る大枝。
大枝「今日はあの日か?」
茜「あの日?」
不思議そうな顔をする茜。
○同・校舎外(朝)
ステージがある場所。
『第一回、カップルワングランプリ』も看板。
生徒達が集っている。
歩いて来る大枝と茜。
大枝「これ」
茜「面白そう。ハル、私たちも出れたりするのかな?」
大枝「出たいの?」
茜「ハルとなら」
大枝「聞いてみよっか」
嬉しそうにしている茜。
○同・受付(朝)
座っているスタッフ1、2。
スタッフに近づく大枝と茜。
大枝「あの」
スタッフ1「はい」
大枝「前に当日まで予約が大丈夫って聞いたんですけど」
スタッフ1「先輩、まだ大丈夫ですか?」
スタッフ2「無理無理、ただでさえバタバタしてるのに、追加なん
て......」
茜を見るスタッフ2。
スタッフ2「大丈夫に決まっているじゃないか! いや〜ってか、え
っ? もしかして嘘。あの編入生のマジでってかお前は誰。うちの
大学に......」
スタッフ1「大丈夫みたいです」
茜「お願いします」
スタッフ1「ではこちらに記入をお願いします」
大枝にボールペンと紙を渡すスタッフ1。
紙に『付き合って何日? 二人の馴れ初め、アピールポイント』
など書かれている。
紙を見て止まっている大枝。
大枝(心の声)「どうやって書けばいいんだ!」
ボールペンを持ち書き始める茜。
茜「これでいい?」
スタッフ1「はい。もうすぐ始まるのでステージ裏にいてください」
茜「ハル、行こ」
大枝「......うん」
手を繋ぎ歩き出す大枝と茜。
○同・ステージ・裏(朝)
まめ太(32)、ピカント小池(32)がクリップボードを見
て話をしている。
緊張しているカップルの男性と太めの女性。
嫌々そうにしている倉田と嬉しそうな麻奈美。
歩いてくる大枝と茜。
カップル女性「ねえ、私可愛い?」
カップル男性「ああ、日本一、いや世界一可愛いよ」
カップル女性「嬉しい」
抱きしめあうカップル。
苦笑いをする大枝と倉田。
大枝、倉田「あれはない」
見合わせる大枝と倉田。
倉田「大枝! お前らも出るの?」
大枝「さっきそうなった」
倉田「お前はまだ楽しそうでいいな」
茜の周りを一周する麻奈美。
倉田「おい、止めろ」
麻奈美「大枝君の彼女って言うからどんな女かと思えば、なかなかの
上物だわね」
倉田「どの顔が言ってるんだよ」
倉田に顔を近づける麻奈美。
麻奈美「この顔ですけど」
倉田「分かった。分かったから」
大枝に顔を向ける麻奈美。
麻奈美「大枝君」
大枝「はいぃぃぃ」
麻奈美「今は敵同士。容赦しないから」
大枝の前に立つ茜。
茜「麻奈美さんですか?」
麻奈美「何か?」
茜「ハルと私は絶対に負けません。お手柔らかに」
見合っている茜と麻奈美。
倉田「あれ、火花がバチバチ言ってるぞ」
頷く大枝。
大枝「間違いない」
スタッフ1が来る。
スタッフ1「では始めます。よろしくお願いします」
ピカントとまめ太がステージに上がっていく。
緊張している大枝。
○同・ステージ(朝)
大勢の観客。
ステージに右からカップル男性、女性、倉田、麻奈美、茜、大
枝の順番で立っている。
両サイドにまめ太とピカント。
観客席に千尋と石原、そして由紀、瑛里華。
由紀「葵は?」
柊木「今日は休みみたい」
由紀「ふ〜ん」
大枝、茜がステージ横から出てくる。
由紀「あれ? あそこにいるのって大枝?」
瑛里華「本当だ。なんでいるの?」
遠く離れた所に葵の姿。
葵「どうして?」
千尋「大枝達が出ている?」
石原「面白い奴らだ」
ピカント「はい。この出演者の方々で優勝を勝ち取ってもらいましょ
う」
大枝「緊張してきた」
茜「大丈夫。ハルなら」
大枝「うん」
まめ太「ちょっと待った!」
ピカント「まめ太どうしたの?」
まめ太「このメンバーじゃあ役不足だと思いませんか?」
イラっとする麻奈美。
まめ太の胸倉を掴む麻奈美。
麻奈美「もう一回言ってみろ」
怖がっているまめ太。
倉田「麻奈美、そういう流れ」
麻奈美「えっ? そういうコト。なら前もって言っておきないよ」
手を離す麻奈美。
笑う観客。
ピカント「気を取り直して、どういうこと?」
まめ太「レジェントカップルに登場していただきたいと思います。ど
ーぞ」
相模原と池添エリナ(20)が出てくる。
ピカント「三年連続ミスターコン優勝、相模原君と二年連続ミスコン
優勝池添エリナさんです」
客の歓声。
大枝の隣に立つ相模原。
相模原「この前はすまなかったね」
大枝「......」
相模原「今度は正々堂々、ぶっつぶすから」
茜を見るエリナ。
エリナ「あの女、調子乗ってる。私だけがこの学校で輝けばいいの」
相模原「そういうことだから」
ピカント「さあ栄光を手にするのはどのカップルか。カップルワング
ランプリの火ぶたが切られました!」
各カップルがアピールをしている風景。
ダンスを踊っている相模原とエリナ。
倉田をステージの真ん中に立たせて、ドロップキックする麻奈
美。
マイクの前に立つ茜。
茜「好きだよ」
嬉しそうに倒れる男性陣。
大枝の方を向く茜。
茜「(口パクで)ハル」
ニコッと笑う茜。
大枝(心の声)「僕はなんて幸せ者なんだ」
× × ×
優勝トロフィーを持っている麻奈美。
悔しそうにしている相模原とエリナ。
楽しそうに笑っている大枝と茜。
○アパート・大枝の部屋(朝)
T『交際6日目』
電話の着信音。
目を覚ます大枝。
茜の声「おはよう」
大枝「おはよう」
茜の声「では、今日のファッションなんだけど……」
起き上がる大枝。
服を選んでいる大枝。
着替え終わっている大枝。
茜の声「完璧! ちゃんと遅れずに行くんだよ」
大枝「分かってるよ」
電話を切る大枝。
携帯で茜と写っている写真を見ている大枝。
似ている服装を着ている写真の数々。
大枝「これって」
○大学・教室
倉田、腰を抑えて座っている。
教室に入って来る大枝。
倉田「おはよ」
大枝「ああ」
倉田の隣に座る大枝。
倉田「昨日の俺を同情してくれているのか?」
大枝「おめでとう」
倉田「ありがと。で、幸せまっただ中の大枝君、どうしたんだい?」
大枝「気になる事があって」
倉田「気になる事?」
大枝「なんか、ソラのコーディネートが同じ感じがするんだ」
倉田「それは着回しって言うんだよ。ただでさえ服が少ないんだから
似るのは仕方ないだろ」
大枝「そうかな?」
倉田「そんなもんだよ」
麻奈美の声「友貴!」
ビクッとする倉田。
麻奈美がドアの前に立っている。
倉田「ヤバ、見つかった」
麻奈美「優勝したときの約束忘れてないよね?」
倉田に近づく麻奈美。
倉田「ゴメン。また後で相談に乗るから」
走って教室を出て行く倉田。
麻奈美「待ちなさい!」
倉田を追いかけていく麻奈美。
大枝「大変だな倉田も」
大枝の隣にいる千尋。
千尋「二人でラブラブ旅行が優勝の条件らしい」
千尋を見て驚く大枝。
大枝「いつの間に」
千尋「でも、それ以前から二人で旅行をサプライズプレゼントをする
予定だったというのに。困ったもんだよ」
大枝「遠藤さん」
千尋「何?」
大枝「彼氏出来たことあるんですか?」
千尋「……黙れ」
○同・校門(夕)
歩いている大枝と茜。
茜「じゃあ私バイトがあるから」
大枝「うん」
茜「終わったら電話するね」
大枝「待ってる」
手を振り去って行く茜。
辺りを見ながら大枝に近づいて来る倉田。
大枝「倉田」
倉田「ふうやっと撒けたか」
大枝「サプライズプレゼントなら堂々としてればいいのに」
倉田「大枝なら分かってくれると思うけど、喜ぶ顔がみたいじゃない
か」
大枝「……すごく分かる。今なら」
倉田「彼女談義の為にちょっと付き合え、飯奢るから」
大枝「行く」
嬉しそうな大枝。
○居酒屋・全景(夜)
盛り上がっている声。
○同・中(夜)
賑わっている店内。
生ビールを持っている大枝と倉田。
大枝、倉田「乾杯!」
生ビールを飲む大枝と倉田。
大原「大枝君が付き合っている人って、西園寺かよ!」
後藤「え? 今頃?!」
倉田「付き合って何日経つんだっけ?」
大枝「六日目」
倉田「まさか本当に付き合うとはな」
大枝「僕も信じられないよ」
鈴井「信じられないって?」
倉田「まあ、頑張ったっていうことだ」
熊沢「付き合うって楽しい?」
大枝「まあ」
倉田「楽しいって事は良い事だ」
大枝「そうなんだけど」
倉田「腑に落ちない事でもあるのか?」
大枝「デートの時とか、手帳に何かを書いてたり、自分が少しでも離
れると音楽を聞いてたり、不思議なんだ」
倉田「それが大枝の彼女。そう理解したほうが楽だぞ」
後藤「まあ、初めてだからいろいろあるよね」
大枝「なら、この前のカラオケで遠藤さんの入れた曲を見ながら泣い
ていたのは?」
倉田「俺に聞くなよ!」
大枝「そうだよね。ごめん」
大原「泣くほど嬉しいってこと」
大枝「かな?」
倉田「不安なのは分かる。でもよーく考えてみろ。大枝に支障が出て
るのか?」
大枝「出てない」
倉田「浮気をしているように見えるか?」
大枝「見えない」
倉田「だったら信じてやる事だ。付き合うってのはそういうコトなん
だよ」
大枝「信じるか。考えすぎてたんだ」
倉田「初めての彼女なんだから仕方ないけどな」
麻奈美の声「友貴、私は何番目の彼女なの?」
倉田、振り返ると麻奈美の姿。
倉田「どうしてここに?」
麻奈美「大枝君と会う時間はあって、私にはないの?」
焦っている倉田。
倉田「ゆっくり三人で話そうじゃないか」
麻奈美を座らせる倉田。
麻奈美「三人じゃなくて、私は……」
走って店を出て行く倉田。
麻奈美「ちょっと! 友貴!」
店を出て行く麻奈美。
大枝「倉田!」
大枝の隣に座っている千尋。
千尋「恋ってのは良い事ばかりじゃないね」
千尋を見る大枝。
大枝「遠藤さん、何でここにいるんですか?」
千尋「気にするな。青年よ」
大枝「あと、僕の分のお会計お願いします」
大枝を見る千尋。
千尋「えっ?」
○道(夜)
歩いている大枝。
携帯の着信音。
大枝「もしもし」
茜の声「今、バイト終わった」
大枝「お疲れ様」
茜の声「ねえ、今から家に行ってもいい?」
大枝「家に?」
茜の声「ダメかな?」
大枝「いいよ」
茜の声「やった。じゃあ鍵締めて待ってて。合鍵使いたいから」
大枝「分かった」
電話を切る大枝。
大枝「信じてあげるんだ」
決意した表情の大枝。
○アパート・大枝の家・中(夜)
そわそわしている大枝。
鍵が開く音。
正座で座る大枝。
部屋に入って来る茜。
大枝「やあ」
茜「何? そんな他人行儀で」
大枝「緊張しちゃって」
茜「ハルらしくない。もう何回も来てるんだから」
大枝「そうだね。でも大丈夫?こんな遅い時間に」
茜「親が出張でいないから淋しくて」
大枝の隣に座り、大枝の肩に頭を乗せる茜。
緊張する大枝。
茜「ご飯、食べた?」
大枝「軽く。倉田が誘ってくれて」
茜「仲……いいんだね」
大枝「倉田と遠藤さん位しか友達いないから」
茜「そんなコト言わないで。私がいるでしょ」
大枝「そうだね。ソラがいれば十分だね」
茜「彼女のままでいいの?」
大枝「どういうこと?」
茜「私はハルのお嫁さんになりたいんだけど」
大枝「おっお嫁さん!」
茜「まだ先の話かもしれないけど」
大枝「付き合ってる以上は考えないとね」
茜「ありがとう。ハル」
大枝「うん」
茜「……ねえ」
大枝「何?」
茜「今晩、泊まっていってもいい?」
大枝「えっ?」
茜「ダメ、かな?」
大枝「ベッド一つしかないよ」
茜「一緒に寝ればいいじゃない」
大枝「えっあっ、ええ? 一緒に?」
茜「そうだよ」
大枝「こんな僕と?」
茜「何言ってるの? 私の彼氏でしょ?」
大枝「そうだね。そうだよね」
ニコッと笑う茜。
○同・外(夜)
○同・中(夜)
薄暗い部屋。
DVDを見ている大枝と茜。
男性の声「君の瞳、君の心は僕がいる事で何倍、何千倍も輝くんだ」
女性の声「うん。ずっと側にいる。私の居場所は祐二の胸の中だけ」
テレビ画面に映っている男女が抱き合う。
大枝「ロマンチックだね」
茜「この作品大好きなの」
テレビ画面にクレジットが流れる。
大枝「終わった」
茜をチラッと見る大枝。
茜「今、何か考えてるでしょ?」
大枝「バレた?」
茜「ハルは分かりやすすぎ」
大枝「ゴメン」
茜「で、何を考えてたの?」
大枝「ソラが可愛いって思って」
茜「それで?」
大枝「抱きしめたいって思った」
茜「うん」
大枝「こんな気持ち、初めてだよ」
茜「ハル、私すっごく幸せだよ」
じっと見つめあい抱き合う大枝と茜。
大枝、茜にキスをする。
茜「ハル、大好き」
大枝「うん、僕も」
○同(深夜)
眠っている大枝。
テーブルに携帯に繋がれたイヤホンと開かれている手帳がある。
シャワーの音。
起きる大枝。
イヤホンから微かに曲が流れている。
イヤホンに目を向ける大枝。
イヤホンを耳に付ける大枝。
驚いた表情をする大枝。
大枝「これ、遠藤さんが歌っていた曲」
手帳に目を向ける大枝。
手帳に『2016年12月20日 大枝利治 ○○大学』
大枝の写真が貼られている。
シャワーの音が止まる。
イヤホンをしている大枝。
部屋に近づく茜。
部屋のドアを開ける茜。
ベッドで横になっている大枝。
目が開いている大枝。
イヤホンを付けて手帳を書いている茜。
○大学・中庭(朝)
T『交際7日目』
浮かない表情の大枝。
驚いた顔をしている倉田。
悔しそうな顔をしている千尋。
倉田「マジで?」
頷く大枝。
千尋「おめっおめでとう」
倉田「西園寺さんとか。出世したな」
大枝「……でも」
倉田「でも?」
大枝「見てしまったんだ」
倉田「何を?」
大枝「手帳の中身」
千尋「そういうのは見ないのが恋人の鉄則でしょ」
倉田「……で、何が書いてあったんだ?」
大枝「僕の名前と大学名」
千尋「彼氏の名前くらい書くでしょ」
大枝「そのページ、去年の12月20日だったんだ」
倉田「去年ならまだ出会ってないよね?」
千尋「間違いじゃないの?」
大枝「それにイヤホン」
千尋「イヤホン?」
大枝「遠藤さんがカラオケで最後に歌ってた曲が流れてた」
千尋「考え過ぎだって。ただ好きなバンドってだけでしょ」
大枝「そうかな?」
倉田「もっと自信を持ってもいいんじゃないか? 男になったわけだ
し」
千尋「そうだよ。君の気持ちは凄く分かる! 私が保証する」
大枝「遠藤さん」
千尋「何?」
大枝「彼氏……」
千尋「うるさい!」
○道
スマホを見ながら歩いている大枝。
携帯の画面に茜のコーディネートした写真。
大枝「なんか引っかかるんだよな」
大枝と反対方向から歩いて来る女子高校生1、2。
大枝を見て驚く女子高校生1。
女子高校生1「ハルさん!」
女子高校生を見る大枝。
女子高校生1「いえ、人違いでした。だってハルさんは......すみま
せん」
歩いて行く女子高校生1、2。
大枝「ちょっと待って!」
女子高校生1の前に立つ大枝。
立ち止まる女子高校生1、2。
大枝「話、聞かせてくれない?」
○ライブハウス・前
ライブハウスの前に立っている大枝。
大枝「ここって」
○(回想)道
女子高校生1、2の前に立っている大枝。
女子高校生1「この近くのライブハウスで少し人気のあったバンドの
ボーカルにそっくりだったんです。それで」
○ライブハウス・前
ライブハウスの前に立っている大枝。
買い物袋を持ってライブハウスに近づいて来るジャッキー前田
(47)。
ジャッキー「うちに何か用?」
ジャッキーを見る大枝。
大枝「すいません」
去って行こうとする大枝。
ジャッキー「君もハルに憧れてたんだね。でももう過去の人だ。追う
のは止めなさい」
ライブハウスに入って行くジャッキー。
(茜との過ごした映像がフラッシュバックしてくる)
ハッとする大枝。
大枝「もしかして」
電話をする大枝。
倉田の声「どうした?」
大枝「今から会えない?」
○公園
座っている大枝。
走ってくる倉田。
倉田「どうしたんだよ?」
大枝「俺、分かったんだ。このファッションの意味」
倉田「趣味じゃなくて?」
大枝「バンドマン」
倉田「バンドマン?」
大枝「好きなバンドマンがいたんだ。この前、そのライブも二人で見
に行ったし」
倉田「そいつを見たのか?」
大枝「いや、見てない。多分」
倉田「バンド名は?」
大枝「カラオケの時、遠藤さんが最後に歌っていた曲」
倉田「遠藤さんに聞けば分かるか」
携帯の着信音。
携帯を見る大枝。
大枝「ソラからだ。バイト終わったから今からどっか行かないって」
倉田「大枝、この事はまだ伏せておけよ。相手を疑っても良い事なん
てないんだからな」
大枝「分かった」
走って行く大枝。
倉田「信じてやれるのは彼氏だけなんだぞ」
○倉田のバイト先(居酒屋)・店内(夕)
バイトをしている倉田。
携帯のバイブレーション。
隠れて携帯を見る倉田。
『遠藤さん 元シャドーガーディアンズ、マサ本日ライブ。1
8時半』
時計を見る倉田。
『五時半』の表示。
倉田「間に合わないか」
倉田に近づく店長。
店長「倉田君」
倉田「店長」
店長「今日暇だから、もし良かったら上がってもいいよ」
倉田「いいんですか?」
店長「倉田君の事だから友達か彼女の事でそわそわしてるんだろ?
なら行った方がいい」
倉田「店長、ありがとうございます」
バックヤードに入って行く倉田。
○同・休憩室(夕)
休憩しているバイト仲間。
休憩室に入って来る倉田。
バイト仲間「倉田、お疲れ」
倉田「お疲れ様です」
急いで着替えている倉田。
バイト仲間「倉田、今日空いてる? 合コンのメンツ足りてなくて」
倉田「お疲れ様でした」
休憩室を出て行く倉田。
バイト仲間「おっおう」
○交差点(夕)
走っている倉田。
○ライブハウス・前(夕)
息を切らしている倉田。
倉田「ここだ」
中に入る倉田。
○同・受付(夕)
壁にたくさんのポスターが貼られている。
一カ所空いた場所がある。
受付にジャッキーが座っている。
受付に来る倉田。
ジャッキー「一人?」
倉田「はい」
辺りを見渡している倉田。
不思議そうに倉田を見ているジャッキー。
ジャッキー「誰を見に来たんだ?」
倉田「元シャドーガーディアンズの」
ジャッキー「マサか」
受付の台をドンとする倉田。
倉田「そのポスターありますか?」
ジャッキー「……シャドーガーディアンズのってっことだよな?」
倉田「はい」
後ろからポスターを取り出すジャッキー。
『シャドーガーディアンズ』と書かれたポスターの真ん中に
大枝と同じ顔の上田春樹(故25)が写っている。
倉田「これって」
ジャッキー「ハルのファンなのか? そういえば今日、ハルに似た男
も来てたな」
倉田「大枝はこの事を知って」
ジャッキー「良いバンドだったよ。人を惹き付けるパワフルな演奏を
していたからな。ずっとそこに貼ってあったんだけど、マサが終わ
ったバンドは飾ってもらう資格がねえって」
音楽が鳴る。
ジャッキー「話なら後でしてやるから、ハルの残したサウンドを聴い
てからにしてくれ」
お金を払い中に入る倉田。
○同・中(夕)
盛り上がっている会場内。
千尋を見つけて近づく倉田。
ステージにはマサ、ベース、ドラムの姿。
マサ「今日はサンウォーカーズペイントを見に来てくれてありがとう」
盛り上がる会場。
マサ「それでは、一曲目聞いて下さい。live as one wishes(思い通りに
生きる)」
音楽が始まる。
○同・外(夜)
客が出て行く。
○同・中(夜)
誰もいない会場内。
ビールを一気に飲むジャッキー。
ジャッキーの近くに倉田と千尋。
ジャッキー「ハルの死は誰も悪くない。悪いのはドライバーだ。あん
な可愛い彼女を一人残しやがって。本当にバカな奴だぜ」
倉田「可愛い彼女ですか?」
ジャッキー「ああ。誰もが羨む可愛さだ。その彼女に向けた新曲が出
来たからって大喜びしながらこのライブ会場に向かっている途中だ
った。そのままその曲は披露されずに終わった。まあ形に残ってい
たから俺がカラオケに配信したんだがな。選別代わりとして」
倉田「その彼女ってこの人ですか?」
携帯で茜の写真を見せる倉田。
ジャッキー「そうそう。ソラちゃん。この子だよ」
倉田「ソラ」
千尋「同じ呼び方だ」
○映画館・中(夜)
大枝の隣で楽しそうに映画を見ている茜。
○ライブハウス・中(夜)
酔っぱらっているジャッキー。
憤慨した表情の倉田と千尋。
ジャッキー「本当、バカな奴だぜ」
ライブ会場を飛び出す倉田と千尋。
○交差点(夜)
携帯電話を取り出す倉田。
○映画館・中(夜)
大枝の携帯電話が光る。
茜を見る大枝。
大枝(心の声)「ソラを信じてあげなきゃ」
○交差点(夜)
苛立っている倉田。
倉田の隣で携帯電話を触っている千尋。
倉田「クソ! 出ない!」
千尋「これね!」
倉田に携帯電話を見せる千尋。
『2015年1月22日、バイクに乗っていたバンドマンが信
号無視をした大型トラックと衝突。意識不明の重体。翌々日の
24日死亡が確定された』の文字。
倉田「え? これ」
千尋「間違いない」
倉田「この日って」
千尋「大枝と茜が付き合った日」
携帯電話で電話をかけようとする千尋。
○映画館・中(夜)
映画を見ている大枝と茜。
大枝(心の声)「信じるんだ。ソラを」
○道(夜)
焦っている倉田。
隣に千尋。
千尋「出てよ! 大枝!」
○映画館・中(夜)
顔を見合わせてニコッと笑う大枝と茜。
○アパート・大枝の部屋・外(夜)
息を切らしている倉田と千尋。
部屋の電気が点いていない。
倉田「まだ出かけているんだ」
千尋「こんな時に限って」
○映画館・外(夜)
手を繋いで映画館から出てくる大枝と茜。
携帯電話を取り出す大枝。
何十件もの着信。
大枝「倉田からだ」
携帯の電池が切れる。
茜「どうしたの?」
大枝「倉田から着信があったけど、大したことじゃないと思う」
茜「そっか。」
大枝「行こう。」
○大学・校門(朝)
校門に立っている倉田と千尋。
歩いてくる大枝。
倉田「よお、大枝」
大枝「倉田、ゴメン電話に出れなくて。電池が切れちゃって」
千尋「昨日は家に帰ってないみたいだけど」
大枝「それが、初めてラブホに行ったんだ。倉田行った事ある?
すごいよね。あんなにハイテクなんだね。遠藤さんは行った事ない
と思うけど」
楽しそうな大枝。
悲しそうな顔をする千尋。
千尋「ねえ、大枝。」
大枝「え?なんかあったの?」
千尋「西園寺茜と別れて」
動揺する大枝。
大枝「え?何言ってるんだよ」
千尋「君とは付き合ってない」
大枝「二人ともどうかしたの? 昨日と言っている事が……」
倉田「違って当たり前だろ!」
大枝「倉田、どうしたんだよ」
倉田「お前は利用されてたんだよ」
大枝「利用って何だよ」
千尋「君の違和感が当たってたんだよ」
大枝「違和感? そんなものない」
倉田「西園寺は大枝と付き合いたいわけじゃない」
大枝「……止めてくれよ」
倉田「シャドーガーディアンズのハルと付き合っていたいんだ」
大枝「止めろって言ってるだろ!」
千尋「私達が焚き付けたこと、本当に申し訳ないと思ってる。でも真
実なんだよ。茜ちゃんにとって大枝は上田春樹の代わりでしか……」
大枝「信じるって、信じるって決めたんだ」
倉田「大枝」
大枝「証拠もないのに、ホラばっかり言うんじゃねえよ!」
悲しそうな顔をする倉田と千尋。
一枚の写真を取り出す千尋。
上田と茜が楽しそうに笑っている写真。
千尋「私の知り合いが君のコト気になって調べていたら、これが」
狼狽える大枝。
大枝「......そこまでして、別れさせたいんですか?」
千尋「大枝」
大枝「僕から幸せを奪って何が楽しいんですか!」
倉田「俺はお前の事を思って」
大枝「例え、代わりだとして何が悪いんだよ。今の幸せだと思える気
持ちが嘘だって言うの? 違う。これは本当だ。じゃなかったら何
が幸せなんだよ!」
○風景の良い場所(朝)
座ってイヤホンを付けている茜。
○大学・校門(朝)
申し訳なさそうな顔をしている倉田と千尋。
悲しそうな顔の大枝。
千尋「……茜ちゃんと話をさせてくれない?」
大枝「嫌です」
倉田「ハルの茜空。あれは西園寺の為に書いたって、お前でも分かる
よな?」
大枝「分かりません」
千尋「どうしても?」
大枝「ソラは僕が守る」
千尋「そう」
携帯電話を取り出す遠藤。
千尋「私が呼び出す」
千尋に飛びかかろうとする大枝。
大枝を抑える倉田。
大枝「止めろよ!」
千尋「……」
大枝「止めろって言ってるだろ! 遠藤!」
もがく大枝。
○同・大教室
ふてくされている大枝。
大枝と距離を取って座っている倉田と千尋。
教室に入ってくる茜。
茜「急にどうしたの?」
倉田「ちょっと茜さんにお聞きしたい事がありまして」
茜「聞きたい?」
大枝「こいつらの話なんて聞くことない」
茜「何かあったの?」
倉田「茜さんはどうして大枝と付き合っているんですか?」
茜「好きだからだけど」
千尋「茜ちゃん、本当に好きなの?」
倉田「こっちは大体分かってるんだ」
茜「何が......言いたいの?」
倉田「本当の事を教えて欲しい」
千尋「私達から言った方がいい?」
茜、ため息をつく
茜「やっぱりわかっちゃった」
いつもと違うケータイを取り出す。
大枝「そのケータイ?」
上田との2ショットが画面に広がっている
茜「私、シャドーガーディアンズの上田春樹と3年間付き合ってた。
事故の日。ハルの茜空を披露するからライブ会場で待ってて。そう
言ったまま、どこかに行っちゃった」
千尋「茜ちゃん」
茜「ハルがいなくなった後、マサからデモテープをもらって」
千尋「だからイヤホンを」
茜「でも、ハルはこういってくれたの、俺が死んだとしても、必ずソ
ラの側に現れてやる。なんたって俺はソラのガーディアンだからっ
て」
倉田「(怒りを殺しながら)12月20日は?」
茜「偶然、同じ顔をしたハルを見つけた日。私にとったら戻って来て
くれたんだって思って、この大学に」
千尋「利用したの?」
茜「違う。私の中では」
悔しそうな顔をする大枝。
倉田「西園寺、お前はそれでいいかもしれない」
茜に近づく倉田。
倉田「でもな、本気で恋をしようとした大枝の気持ちを弄んだ。俺は
お前を絶対に許さない」
茜「別に許してもらおうと思ってないから。私にはハルしかいないの」
倉田「最低な女だな」
殴ろうとする倉田。
走って茜の前に立つ大枝。
大枝「倉田」
倉田「どけよ」
大枝「これ以上はいい」
驚いた顔をする茜。
倉田「騙されていたんだぞ!」
大枝「ソラ、今までありがとう」
大枝、教室を飛び出す
千尋「大枝!」
倉田「お前、本当に最低だな」
茜、倉田の方を見る
茜「でもね、倉田さん、あなたも悪いんですよ」
千尋「え?」
目を逸らす倉田。
倉田「は? 何言ってるの?」
茜「偶然って怖いですね。私はハルの後釜があればそれでよかったの
に、おまけまで付いてくて」
倉田「お前、何言ってるだ?」
茜「調べている内に薄々気付いていますよね?」
千尋「倉田」
倉田「なんのことだか」
茜「倉田さん、あの事件知ってましたよね?」
千尋「どういうこと?」
倉田「......俺は知らない」
千尋「はぐらかすなよ! これは大枝の為でもあるんだ」
倉田「この事を最初から知っていたのか?」
茜「だってあなたのせいで愛する人を失ったから」
千尋「え?」
倉田「俺さ、居酒屋でバイトしてるだろ、あの日、店にトラックの
運転手が来て」
茜「そしてお酒を進めた」
倉田「俺はちゃんと確認をした。だから俺のせいじゃない」
茜「でも、それが原因でハルはいなくなった」
千尋「倉田」
茜「あなたがお酒を進めなければ」
千尋、辺りを見渡す。
千尋「そう言えば大枝はどこ行った?」
倉田「大枝はこの話を?」
茜「話せるわけがないじゃない」
千尋「私、大枝を探してくる!」
倉田「俺達も探しに行こう」
走りだす倉田と千尋。
茜「......もう終わりだね」
淋しそうに歩き出す茜。
○道
走っている倉田と千尋。
倉田「大枝!」
千尋「大枝!」
鉢合わせする倉田と千尋。
千尋「だめ、見つからない」
倉田「どこ行ったんだ?」
千尋「心当たりないの?」
葵が歩いている。
倉田「どこにいるんだよ。大枝のやつ!」
隠れる葵。
千尋「そう言えば大枝って絵を描くのが好きだったよね?」
倉田「今日はこの後どんな天気?」
千尋、ケータイを開く。
千尋「快晴」
千尋、急に走る出す。
倉田「遠藤さん!」
葵「利治に何かあったんだ」
歩き出す葵。
○海岸沿い(夕)
千尋、海岸を走る。
千尋(心の声)「あいつ、本当にバカ、考える事が単純すぎる」
大枝、海岸で夕焼けの絵を描いている。
千尋、大枝を発見する。
千尋「大枝!」
大枝、絵を隠す。
千尋、息を切らしながら大枝に近づく。
千尋「やっぱりここか」
大枝「さすが、遠藤さん」
千尋「考え方が単純すぎるぞ」
大枝「なんでここにいるってわかった?」
千尋、大枝の横に座る
千尋「何年間、私と一緒にいると思っているの?」
大枝「えーと、3年間かな?」
千尋「大枝はさ、やっぱり絵を描いている方が似合うよ」
大枝「いきなりどうしたの?」
千尋「大枝に色々アドバイスして来たけどさ、だんだん私が
知っている大枝じゃなくなっているような気がしてきて」
大枝「そりゃあ、茜と一緒にいて、不潔ではなくなったね」
千尋「その代わり、ここ最近は絵を描いていない。私が大枝と友達に
なれたのも絵がきっかけだったからね」
大枝「告白の時に絵をプレゼントしたの覚えてたんですね」
千尋「出会ってすぐに似顔絵渡された時はさすがにきもいって思った
けど」
大枝「自分でもやりすぎたと反省してます」
千尋、大枝の方を見ながら。
千尋「なんて、言うのかな。最近の大枝を見ていたら大枝の事が心配
になって来ていると言うか、ほっとけなくなってきてる」
大枝「遠藤さんらしくない」
千尋「なんて、言えばわからないけど。バカみたいに変わろうとする
んだもん」
大枝「バカは余計です」
千尋「だから、その、仮ではあるけど、多少、なりとも、心配してや
ってるってことだ!」
大枝「ありがとうございます。嬉しいです」
千尋「鈍感か!」
大枝「え? どういう事ですか?」
千尋「う〜ん。だからさ」
大枝「うん?」
千尋、立ち上がる。
千尋「私は少し前の大枝の方が好きだったぞ!」
大枝「僕も好きですよ。遠藤さんの事」
千尋「だから、違うんだよ! あんたと私の好きが」
大枝「え?」
千尋「なんでわかってくれないの? 好きなんだよ。大枝の事がまだ
はっきりはしてないけど」
大枝「でも、前振られたよ」
千尋「だって、前は出会って2日目でしょ。今の大枝なら、まあまと
もになったと思うの」
千尋、無理やり大枝の顔に顔を近づける。
千尋「私は絶対に、大枝を悲しませない」
千尋、大枝とキスをする。
大枝を見ている葵。
○アパート・大枝の部屋o外(夜)
○同・中(夜)
千尋、大枝に話しをしている倉田。
大枝「まさか、倉田がね」
倉田「大枝。本当にすまん!」
千尋「倉田は悪くない」
考え事をしている大枝。
千尋「大枝?」
大枝「あのさ、ちょっと頼みがあるんだけど」
倉田「どうした?」
大枝、倉田の耳元でつぶやく大枝。
倉田「本気か?」
大枝「うん。終わらせてあげたいんだ」
倉田「わかった。協力するよ」
○大学・教務室
教務室から大きな封筒を持って出てくる茜。
○同・校門
歩いてくる茜。
校門の前に倉田の姿。
倉田「よお」
目を合わさないように去って行こうとする茜。
倉田「お前のハルが待ってるぞ」
足を止める茜。
茜「からかうのは止めてくれない。人殺し」
倉田「ライブハウスに来い。愛する上田くんに再開できるかもよ」
歩いて行く倉田。
倉田を見る茜。
南が茜に近づいて来る。
南「茜!」
茜「南、どうしたの?」
南「いや、最近ずっと大枝君と一緒にいるのに今日は一人でいるか
からどうしたのかなって」
茜「あ、ちょっと色々あってね」
茜、歩き出す。
南「話、聞こえちゃったんだけど、もし大事な人が思い出の場所で待
っていてくれているなら、私はその場所に行くよ」
茜、立ち止まる
南「どうして待っているのか、茜ならわかるでしょ?」
茜、歩き出す。
○ライブハウス・中
演奏が終わる。
ステージに大枝、マサ、ソースケ、ピーター。
衣装に着替えている大枝。
ステージを見ている千尋、石原、ジャッキー。
水を飲む大枝。
大枝に近づくマサ。
マサ「大丈夫?」
大枝「はい。ありがとうございます」
千尋「かれこれ1日練習してるわけだからね」
石原「あいつ見た目より根性あるじゃん」
ドアを開けて入って来る倉田。
千尋「倉田! どうだった?」
倉田「さあな」
千尋「連れて来なさいよ! 使えないな」
大枝「大丈夫。来るよ。会いに」
マイクを持つ大枝。
大枝「マサさん、もう一回お願い出来ますか?」
フッと笑うマサ。
マサ「喉がつぶれても知らないからな」
演奏を始めるマサ。
○風景の良い場所
眺めている茜。
茜「私、何しているんだろう」
○ライブハウス・外(夜)
辺りを見渡している千尋。
○同・中(夜)
息を切らしている大枝。
ステージにマサ、ソースケ、ピーター。
大枝を見ている倉田、石原、ジャッキー。
大枝「もう一回いけますか?」
マサ「大枝君。もう無理だ」
大枝「まだ出来ます!」
マサ「違う。ソラは来ないよ」
大枝「来ます。絶対に」
マサ「残念だけど、俺らの方が付き合いが長いんだ」
大枝「そんなの知らない。信じてあげるって僕は決めたから」
マサ「大枝君、どんなに努力してもダメな時はある」
大枝「でも、信じるからには努力し続けないとダメなんです」
倉田「大枝」
階段を下りて来る音。
ドアを開けて千尋が入ってくる。
千尋「来た!」
目を見開く大枝。
○同・外(夜)
ライブハウスの前で立っている茜。
立ち去ろうとする茜。
茜の手を掴む千尋。
千尋「お客様。貴方が向かう方向はそちらではありません」
茜「えっ?」
茜を連れてライブハウスに入って行く千尋。
○同・中(夜)
ドアを開け中に入ってくる茜と千尋。
ステージの上に大枝、マサ、ソースケ、ピーター。
倉田、石原、ジャッキーが客席にいる。
ステージを見ている茜。
茜「大枝……君?」
大きく息を吸う大枝。
大枝「久しぶり! シャドーガーディアンズのハルだぜ」
涙を流しそうになる茜。
千尋「ほら、最前列で」
茜の背中を押す千尋。
最前列に行く茜。
大枝「ソラ、大分待たせてしまったぜ。やっとこの曲を聴かせる事が
出来るぜ。デモのように上手く歌えるか分からねえけど、精一杯歌
うから聞いてくれよな」
頷く茜。
大枝「ハルの茜空」
演奏が始まる。
枯れた声で歌っている大枝。
涙を流す茜。
茜「……ハル。やっぱり会いたいよ」
演奏が終わる。
大枝「ソラ、俺はずっとお前の側にいるから」
茜「ありがとう。ハル」
泣き崩れる茜。
淋しそうにステージからいなくなる大枝。
○海岸(夜)
大枝の姿。
大枝「終わったんだ。全て」
帰ろうとする大枝。
茜の声「大枝君」
振り返る大枝。
息を切らしている茜の姿。
大枝「どうしてここに?」
茜「ここにいると思って」
大枝「ゴメン」
茜「何が?」
大枝「茜さんのハルを真似して」
茜「それって謝る事? 私的にはやっと太陽が見えたって感じなんだ
けど」
大枝「それは良かった」
歩き出す大枝。
茜「大枝君、ちゃんと聞いて欲しいの」
立ち止まる大枝。
大枝「……僕は代わりでしかないから」
茜「ごめんなさい。本当に」
大枝「ううん。僕の方こそ恋をさせてくれてありがとう」
茜「感謝は顔を合わせて言うって習わなかった?」
大枝「……もう見れないよ」
茜「どうして?」
大枝「また、恋をしてしまうから」
涙を流している大枝。
茜「そっか。そうだよね」
悲しそうな顔をする茜。
茜「私、大学辞めるから」
大枝「そっそうなんだ」
大枝、茜に手紙を渡す。
大枝「これ、後で読んで」
茜「あ、ありがと」
大枝「じゃあ」
茜「あ、大枝くん。私と付き合って幸せだった?」
大枝「うん。本当にソラと過ごした日々は夢のようだったよ」
茜「私も、最後の最後にハルに合わせてくれてありがとう。じゃあ、
行くね。」
茜、立ち止まる。
茜「あ、これ」
鍵を大枝に渡す茜。
茜「一回しか使わなくてごめんね」
大枝「あ、こんなの渡してたね」
茜「じゃあね」
主題歌投入。
○大学・教室(朝)
お洒落な格好をしている大枝。
席に座っている倉田、千尋。
倉田の近くに行く大枝。
大枝「おはよう」
千尋「なんだやけにすっきりした顔をしてるじゃん」
大枝「そう?」
倉田「一皮むけた感じだね」
大枝「うん。でもこれからだから」
そこにエミリーと小池がくる。
エミリー(英語)「これがまさしくアメリカンファッション」
大枝「はい、小池通訳」
千尋「おいおい、アメリカンファッションは私も聞こえたよ」
小池「ふふ、これがまさしくアメリカンファッションって言ってる」
千尋「小池、エミリーに私と大枝どっちがお洒落か聞いてくれる?」
小池、エミリーに聞く。
エミリー(英語)「千尋はもっとお洒落になることができる」
千尋「はい、小池通訳」
小池「えーとね、大枝君の方がお洒落だって」
千尋「エミリー」
麻奈美の声「とーもーたーか!」
倉田にゆっくり近づく麻奈美。
苦笑いする倉田。
倉田「やっべ!」
逃げようとする倉田。
倉田を抑える大枝と千尋。
倉田「ちょっと何をするんだよ」
大枝「彼女は大事にした方がいいよ」
倉田「はあ!」
千尋「私も同じ意見」
倉田「クソ! 裏切ったな」
倉田の前に来る麻奈美。
麻奈美「もう逃がさないから」
怯えている倉田。
楽しそうに笑っている大枝。
葵、由紀、瑛里華が来る
由紀「あれ? 茜さんは?」
瑛里華「確かに今日会ってないかも」
大枝「あ、大学辞めたよ」
由紀「え?どうして?」
大枝「大人の事情」
瑛里華「大人の事情って」
葵「あ、そう言えば、」
葵、大枝に手帳を渡す。
大枝「これは茜の手帳......どうしてお前が?」
葵「捨ててあって」
何故か私のバッグに入ってて。
教室の外でニヤリと笑っている石原。
葵「見ちゃった。でも、中、見てみて」
大枝、手帳を開く。
大枝との思い出がびっしりと書かれている。
大枝「......これ」
横から見る千尋。
千尋「茜にも大枝が本当に好きな時間があったんだよ」
大枝「茜さん」
千尋「あ〜、今、一瞬茜の事が恋しくなったでしょ!」
大枝「え?」
千尋「大枝は私のものだからね!」
大枝「え? こわ!!」
葵の手を上げさす由紀。
由紀「はい! 立候補がここにもいます」
葵「ちょっと由紀ちゃん!」
千尋「ほほう。さあどっちを選ぶ。おーおーえだ!」
大枝、走る。
千尋「待て!」
大枝を追いかける千尋。
○バスの中
茜、大枝からもらった手紙を取り出す。
中には一枚の絵が入っている。
その絵を見ながら、茜は泣き出す。
茜「人の気持ちもを考えないんだから。本当にバカ。こんなの渡され
たら思い出しちゃうじゃん」
○大枝の部屋
大枝と倉田がいる。
倉田「はあ! あいつと付き合ったの?」
大枝「まあ、なりゆきで」
倉田「お前、モテキが来たんじゃない?」
大枝「いや〜」
倉田、壁に飾ってある絵を見る。
倉田「なあ、あの絵はなんなの?」
大枝「あ、これね、茜さんにも同じの渡したんだけど」
大枝、絵を取る。
大枝「アカネとソラでアカネソラ。やっぱり僕には絵の方が気持ちが
伝わる気がして」
○海辺(夕)
T『10年後』
綺麗な茜空。
大枝利治(31)と女性の姿。
大枝「俺と結婚してくれ」
女性「え? 本気で言ってくれてる?」
大枝「うん。今度は自分が幸せにする。」
女性、空を見る
女性「あの時見たいな空だね。」
女性、大枝を見る
女性「ありがとう」
女性の口元が『ハル』と動く。
〈了〉
アカネソラ~私が恋した7日間~ @shin76
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