終わり

 最後の日は、朝から須藤さんも私もハイテンションだった。

 仕事が終わったら、以前のバイトの子や仲良くしてる本店の事務所の人等も呼んで打ち上げパーティもやる予定だった。

 いろいろあったが、今日で何もかも終わる

 ようやく解放されると思うと、嬉しくて仕方がなかった。

 そして、お店の閉店準備をしていた時、ふと見るとそこに社長が立っていた

 社長は私と須藤さんの前に来ると、

「今まで本当に申し訳なかった。」

 そう言って深々と頭を下げた


 あの時、私達が社長に何か言葉を返したのか、何も言わずに頭を下げる社長をただ見ていたのか、今では思い出せないが、社長自ら頭を下げにくるなんて思ってもみなかった事なのでとてもびっくりしていた。


 でもそれを差し引いても、今までの事は許せなかったので、社長が帰った後、私は須藤さんに言った。

 こうなったら全部訴えましょうよ。

 訴えたら絶対勝てますよ

 でも須藤さんから返って来た答えは意外なものだった。

「私もそう思ってた。許せない事はいっぱいあったけど、社長が頭を下げるのを見たら、もういいやって思えたよ。もういいの。

 だってさ、店には従業員が多勢いるんだよ。

 みんなひとりひとり生活がかかってるし、うちの店は定年がないから年配の人も多いでしょ?会社を訴えて店が潰れたら、その人達の生活はどうなるか考えたら、とてもじゃないけど出来ないよ。そこまで責任持てないもの」

 そんなは事考えた事がなかった。

 訴えるのはみんなの為になる事だと思っていた。

 でも確かに、何十年もこの店で働いてる人の中には、こんなもんだと、全てを受け入れて働いている人もいて、そういう人からしたら、勝手に訴えた人の為に店が潰れて働く場所が無くなったら、恨みの矛先は訴えた人に向けられるのかもしれない。

 正義って何だろう。。

 私はふと、本店で若い精肉のチーフから暴力や暴言を受けながら働いていたおじいちゃんの事を思い出した。私は怒鳴られてるのしか見た事がなかったが、胸ぐらを掴まれたり蹴られたり、かなり暴力もふるわれていたらしい。

 一度肋骨を折った事もあるらしく、須藤さんが、こんなの酷いよ。相手を訴えたら?って言った時、自分はもう年だけど、相手は将来のある若者だから、将来の事を思ったら訴えられない。と言っていたらしい。

 最終的には仕事を辞める事になったが、その時も、このままだと自分が相手を殺してしま

 う。そうなる前に辞める事にした。と、どこまでも相手の事を気遣っていた。

 やられた方が逃げるしかない世の中っておかしい。因果応報は無いのだろうか。

 正義っていったい何なんだ。

 正義が勝つのは結局物語の中だけなのか。。

 だけど。。。

 現実はそんなに単純じゃない。

 それぞれが、いろんな思いを抱えながら、それでもゆっくりと確実に、最後の時間が過ぎて言った。

 みんなで乾杯して、ひとしきり楽しい時間を過ごし、さぁ、そろそろ帰ろうと言って、店中の電気を消し、みんなで揃って外に出た。

 じゃ、お疲れ様でした。いつもの様に、明日も普通に仕事へ来るかの様に挨拶を交わして、私が先に歩き出した。

「神崎さんの後ろ姿が、なんだか軽やかなんだよねー。良かったねー」

 そんな声が後ろから聞こえて来た。

 私は後ろを振り向きたいのを我慢して、そのまま歩き続けた。

 もう、振り返ってはいけない。。。

 明日からはもう、それぞれ別々の人生を進んでいくのだから。。。

 ちょっぴり寂しい気持ちと、嬉しさと、複雑な気持ちを胸に、私はようやくこの店から解放されたのだった。

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それでも店長ですか 神崎 ゆう @ur-sweet-voice-7724325miracle

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