第14節 会長の想い

そしてその日は訪れた。

星の核の完成式典。

魔法協会にある大広間に私たちはいた。


会場内には大きなテーブルと、並べられた豪勢な食事たち。

そこには集められたマスコミ関係者や、魔法関係者、各国の要人の姿まである。


まさしく、この星の未来を左右するような一大プロジェクトの発表なのだと実感させられた。


「良いのかなぁ、私まで参加しちゃって」


「キュウ」


「ホウ」


使い魔二匹を肩に載せ、場内のバイキングで確保してきた料理をパクつく。

一応ベネットが会長に話を通してくれたとは言え、居心地は良くない。


良くないが飯はうまい。

今宵、私の胃袋は宇宙になる。


「あんた、両手いっぱいに料理持ってしおらしいこと言っても説得力ないわよ」


バイキングの料理を私がガッツイてると、祈さんが呆れ顔で近づいてきた。

先程までマスコミに囲まれていたからだろう。

服もしわくちゃでヨレていて、疲れているように見えた。


ふぃふぉふぃふぁんさんふぅいずいふぅんぶんふぅへぇふぁ


「口に物入れて喋るな」


「いやぁ、こんなにすごいご馳走食べるの久しぶりなもんで。食える時に食っとかんと」


「ファウスト婆さんが見たら何ていうかしら」


「どつき回されますね。モグモグ」


「とりあえず食べるのをやめなっ!」


私たちが話していると、「見てみぃ! メグ!」とはしゃいだクロエが近づいてきた。

その両手には大きなお皿に山盛りのお肉を載せている。

後ろにはウェンディさんの姿もあった。


「こーんなに沢山のローストビーフが手に入ったぞ! ウヌも一枚食べよ!」


「じゃあいただこっかな」


「何でクロエまでいんのよ……あんたマスコミの前には姿見せない約束でしょ」


「うるさい女じゃのう。わしは今日、言の葉の魔女の身内と言うことになっておるんじゃ」


「あんた明らかに異質な外見してんだからカメラとかに映らないでよ。今ってすぐ話題になんだから」


「大丈夫じゃ。カメラに映らんようウェンディが魔法を掛けておる」


「クロエ様ぁ、今度はこの間の式典の時みたいに、どこか行かないでくださいね……」


「うるさぁい! 子供扱いするでない!」


「ひぃん! ごめんなさぁい!」


「あんたらどっちが保護者なのかはっきりしなさいよ……」


祈さんやクロエたちと話していて、私はふとソフィが居ないことに気がついた。

さっきまで一緒に居たのに。

キョロキョロしていると「探しもんか?」と声を掛けられた。


「あ、ジャック! もうインタビューは大丈夫なの?」


「ああ。まったく、久々で肩が凝ったぜ。んで、お前は何探してんだ?」


「いや、ソフィが居ないなって」


「あいつはあそこだ」


私が二人の姿を探していると、ジャックが部屋の端の方を指差す。

そこだけ異様な人だかりが出来ていた。


「魔法界の姫こと祝福の魔女、相変わらず人気だな」


「うへぇ、あれ全部マスコミ? えげつないね」


「こう言う時、ソフィをテレビに出すと華やかになるからね」


いつの間にかクロエと話していた祈さんがこちらに来ている。


「私はもっとベネットに注目が集まるかと思ってたけどね。普段ほとんど表に出ないんだし」


「確かに、あんまりベネットってテレビで見ないですよね」


「世間的にも謎多き始祖の賢者だからね。って言うか、当の本人はどこにいんのよ? 来てるって聞いてたんだけど」


「僕ならここにいるよ」


人混みに紛れて、若者が姿を見せる。

その人物を見て祈さんは怪訝な顔をした。


「誰よあんた」


「僕だよ祈」


その発言を聞き、怪訝な顔をしていた祈さんの表情が変わる。

信じられないものでも見たかのように、瞳に驚愕の色が宿った。


「え、えぇ!? 嘘、ベネット? ホントに? 何、その姿!」


「祈さん、遅れてますよ。これがベネットのホントの姿なんですから」


「はぁ、どういうことよ? 今までの老人だったじゃない」


「あれは一時的にそうしてただけだよ。でも、もうその必要はないんだ」


ベネットはそう言って私に笑みを向ける。

私は満面の笑みでサムズアップしておいた。

祈さんだけが首を捻っている。


「ふぅん? まぁよくわかんないけど」


そして彼女は値踏みするようにベネットの足先から顔までゆっくりと眺めた。


「ベネットってそうしてると結構良い男じゃん。どう? 今夜一緒にお酒でも」


「はは、考えておくよ」


行く気がないのは見ててわかった。


「ズベリー」


そこでちょうど、ソフィが合流する。

マスコミからどうにか逃げ出してきたらしい。


「ソフィ、お疲れ様。ジュース飲む?」


「サイダーが良い」


「大変だねぇ、七賢人はこういう時。ジャックも祈さんもウェンディさん言の葉の魔女も散々インタビューされてたみたいだし」


「七賢人は魔法界でも最高位に属する。魔法関連のイベントで注目を集めるのは当たり前」


「ふぅん?」


そこでふと周囲の様子に目が行く。

かなりの視線が私たちに、というよりも七賢人に寄せられているのがわかった。


今ここには、永年と災厄以外の七賢人が揃っているのだ。

マスコミがやってこないのも、ソフィがわざわざこっちに逃げてきたのも、同じ理由だろう。

本来一般人にとって、七賢人は近寄り難い存在なのだ。


私にとってこの人たちは、最も信頼できる仲間でもある。

不思議な縁を感じた。

こんなにみんなと関わるなんて、一年前では考えられなかったことだ。


「でもおかしいなぁ。こんなにマスコミが居るのに、お師匠様の弟子の私に取材すらない」


「マスコミにも選ぶ権利はある」


「どういう意味かな?」


ソフィを睨みつけていると、不意に会場の照明が落とされた。

前方にある、壇上に注目が集まる。

ざわめきが広がるなか、一人の老人が壇上に立った。


魔法協会の会長である。



「皆様、本日は魔法協会の式典にお集まりいただきありがとうございます」


会場が静まる。

緊張した空気が流れた。


「魔法協会が成立し早五百年。

現存する魔法組織の中では、最も歴史が長く、最も大規模な組織として。

今日まで運営することが出来ました。


魔法は長い間、軍事用の破壊兵器として殺戮をもたらしてきました。

しかし、現在では魔法は科学と調和しています。

文明を発達させるための重要な学問であり、手段となることが出来ました。

人智を超えた魔法の技術は、本来そうあるべきなのです。

そして、これから魔法はさらなる平和の象徴となることでしょう。


今回、魔法協会は星を救うため、いくつかの大きなプロジェクトを発足しました。


魔法技術と魔法医療を被災国へ派遣するボランティア活動。

魔力汚染によって足を踏み入れることが叶わなった土地の調査。

そして、星の中枢へアクセスし、理のエネルギーを復活させるための星の核の製作です。


私は、魔法の力と可能性を、皆さんに知ってほしかった。

そして本日、偉大なる二人の魔女の手により、ここに星の核は完成を果たしたのです」



その言葉と共に、ワッと大きな拍手が場内に上がる。

何となく情景を眺めていると、「懐かしいね」と声を掛けられる。


いつの間にかベネットがすぐそばに立っていた。


「魔法協会の会長は、一族何代にも渡って魔法の歴史と向き合ってきた人なんだ。彼の一族は昔、僕とファウストに助けられていてね。そこから、彼らはずっと魔法の可能性を信じ、人々に伝えようと頑張っていたんだよ」


「魔法協会が生み出された時って、どんな感じだったの?」


「今ほど優れた術者は少なかったけど、その分影響力があったよ。当時の偉大な魔導師たちと、僕とファウスト、合わせて七人の魔導師が揃ったことが、七賢人の発足だった」


「エルドラ姉さんは初期メンツじゃないんですね」


「エルドラは二百年ほどしてからだね。そこから僕たち三人は変わらず七賢人として属してきた」


「ふぅん、まるでおとぎ話みたいだなぁ」


「魔法協会が出来たのは五百年も前の話だからね。無理もないさ」


そんな話をしていると、不意に会場の入口が照らし出された。

何だろうと目を向ける。

すると入り口から、二人の魔女が姿を見せたのだ。


お師匠様とエルドラ姉さんだった。


「お師匠様……」


思わず声が漏れる。

こうして姿を見るのは、もう何ヶ月ぶりだろう。

少し痩せたようにも見えるのは、それだけ星の核の製作に苦労したからだろうか。


エルドラ姉さんの手には、ちょうど両手で抱えられそうなサイズの水晶が手に持たれている。

街の占い師が使いそうな大きな水晶だ。


その水晶の中に、真っ赤な紅の色彩をした怪しげな鉱石が生み出されていた。


ちょうど、私のこぶしより一回りくらい大きな、美しい石。

仄かに紅い光を解き放ち、美しく輝いている。


一見すると魔力鉱石にも見えるが、少し違う。

超高密度の魔力鉱石の、数十倍――いや、数千倍以上の力が宿っている。


あれこそが、星の核だ。


エルドラ姉さんが歩くと、チリン、と鈴の音がどこからか鳴り響く。

その鈴の音が鳴ると共に、会場から喧騒は消えた。

異様な空間が生まれている。


二人が壇上に登ったのを見届け、会長は話を続けた。


「偉大なる二人の魔女、災厄の魔女エルドラと、永年の魔女ファウストです。

今まで七賢人は代替わりし、何度も入れ替わりを果たしました。


ですが、このお二人と、賢者ベネットは違います。

ファウストとベネットは七賢人発足当初から、エルドラは二百年以上も前より、長い間七賢人を支えてきた柱となる人材です。


この五百年間で、当時は市の一組織だった魔法協会は、国際的組織となりました。

七賢人の質は年々向上し、現在は過去最高のメンバーが揃っています。


エルドラとファウストが作り上げたこの星の核は。

まさしく魔法協会五百年の歴史を飾るにふさわしい、この星を救う代物なのです」



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