星の声編
第13話 はてしない物語の始まり
第1節 確執と疑念
魔女見習いの朝は早い。
日の出と共に目が覚めるのはもはや習性だ。
「起きちゃった……」
まだ薄暗い中をもそりもそり体を起こす。
すると、使い魔のシロフクロウが「ホゥ」と一声鳴いた。
「おはよ」
「ホゥ」
私がなでてあげると、シロフクロウは嬉しそうに目を細めた。
フクロウ科は基本的に撫でられるのが好きではないらしいが、この子は実際どう思ってるんだろ、とかどうでも良いことを考える。
片隅には、カーバンクルが安らな寝息を立てていた。
「あー、起きなきゃなぁ。嫌だなぁ……」
いつもテンションで乗り切ってる私にしては珍しく、体を動かすのが億劫だった。
その理由は一つだ。
「あっ……」
洗面所で顔を洗って出てきたところで、キッチンにいるお師匠様と遭遇する。
お茶を淹れているようだった。
いつもならこの時間のお茶は、必ず私が淹れている。
「あの……おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「もう少ししたらお待ちしようとしたんですけど」
「必要ないよ。今日は忙しいからね。それより、家のことはキッチリやりな」
「わかりました。えっと、じゃあ、すぐ朝食作りますんで」
「出来たら私の分は部屋に持って来とくれ。星の核制作の最終工程で、しばらくは忙しいからね」
「はい……」
バタン、とドアが閉まり、どっと汗が噴き出す。
朝から心臓に悪い。
お互いがお互いを牽制し合うような、微妙な感覚。
これが、私の最近の悩みの種だった。
ここ最近、お師匠様と気まずい。
魔女エルドラが私の家を訪ねてきてから数日。
自分の出生の真実を知った私は、あれ以降、まともにお師匠様とは会話出来ずにいた。
顔を合わせても、さっきみたいな感じだ。
同じ家に居るのに、お互いに避けるように生活している。
たぶん、お師匠様は私への負い目があり。
私は、お師匠様にモヤついた感情を抱えている。
憎いとか、許せないとか、そんな気持ちがある訳じゃない。
でもずっと、心の中に何か異物が混ざっているような、引っ掛かりを感じていた。
そしてお師匠様は、そんな私の様子を察し、避けるのだ。
だから私は、どうして何も話してくれないのだと、余計にモヤモヤが湧き上がる。
もしかしたら、私がいつもの勢いで乗り込んで尋ねれば話してくれるかもしれない。
エルドラ姉さんやお師匠様の過去について。
エルドラ姉さんがかかっていた呪いについて。
今なら、色々聞き出せるかもしれないのに。
私は、お師匠様になんと声を掛ければ良いか、分からないでいた。
さらにタイミングが悪いことに、星の核の制作も最終工程へと入っている。
それを理由に、食事を一緒にとることも、ここ最近は無くなっていた。
「あぁ……マジでこう言う辛気臭いの苦手なんだよなぁ」
私がテーブルで頭を抱えていると、いつの間にかやってきていたカーバンクルとシロフクロウが不思議そうに顔を見合わせた。
「このままじゃあダメだよね。何とかせんと……」
まさかこの私からこんな重苦しいため息がでるとは。
あの日のことは、今も記憶に新しい。
お師匠様は、エルドラ姉さんの贖罪のつもりで私を引き取ったと言っていた。
じゃあ、そんな風にして引き取られた私って何なんだよ。
これじゃあ、お師匠様とエルドラ姉さんにとっての罪の象徴じゃん。
私はずっと、お師匠様のことを家族だと思っていたのに。
お師匠様はずっと、私を哀れんだり負い目を感じていたって言うのか。
ラピスの人たちや、最悪フィーネやソフィや祈さんがそんな風に私を見ていたとしても、まだ耐えられたと思う。
でも私は……お師匠様がそんな風に私を見ていたかもしれないのが何より嫌だった。
あの人だけは、何があっても変わらず私と接してくれると思っていたから。
エルドラ姉さんは、私の故郷を滅ぼした張本人。街を破壊した時、大規模な魔力災害を起こした。
その災害に巻き込まれた私は、魔力に汚染され、生死の縁をさまよっていたところをお師匠様に助けられる。
お師匠様は私をアクアマリンの病院に連れていき、私は九死に一生を得た。
その後、私は当時のラピス町長経由でお師匠様に弟子として引き取られた。
十数年後、成長した私とエルドラ姉さんを、お師匠様は引き合わせた。
私を、エルドラ姉さんの理解者にするために。
今までの情報を整理するとこんな感じか。
こうして見ると、ただ利用されていると言われてもおかしくない気がするな。
「だんだんムカついて来た……」
そりゃ私だってバカじゃない。
お師匠様がずっと罪の意識だけで私と一緒にいたはずじゃないのは心の中では分かっているつもりだ。
でも、どうしても信じきれずにいるんだ。
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