第3節 ゾル家の三姉妹
魔女、ローズマリーと共に私はサバトの会場へと赴く。
そこは円卓の会議場となっており、すでにズラリと魔女たちが座っていた。
「すご……何人くらい居るんだろ」
「そうねぇ、五十人くらいじゃないかしら」
「五十……?」
そんな数の魔女が集まっているのか。
でも、各区域の魔女がそれぞれいると考えると、これでも少ないくらいなのだろう。
緊張感のある会議場かと思ったが、随分と賑やかで、その空気は緩い。
よく見ると高齢の魔女が多く、私のような若い魔女はそこまで多くは無かった。
若く見える人もいるが、魔法に関わる人達は年齢不詳の人も多い。
外見で年齢を判断すると、後々驚かされる羽目になる。
場の雰囲気に圧倒されていると「メグ、こっちよ」とローズマリーが手を引いてくれた。
そのまま席が空いている一画へと座らされる。
「驚いたかしら? サバトに初めて参加した魔女は、ついつい緊張しがちだけれどね。実際は町内会みたいなものなの。昔なじみの魔女が多いから」
ローズマリーが穏やかな表情で言うと、「そうそう」と周囲の老魔女達も頷く。
「世代交代もゆっくりだからねぇ。若い子が来るとハリが出るってもんだよ」
「飴いるかい? アタシの特製だよ」
「可愛らしいローブだねぇ。肌もツヤツヤ。モテるんじゃない?」
新しい魔女が物珍しいのか周囲の魔女たちが次々と話しかけてくる。
親戚の集まりとかに行くとこんな感じだろうか。
「あなたみたいに若い子が来た時は、うんと甘やかしてるの。どこからきたの?」
「ラピスです」
「おやおや、じゃあファウスト様のとこの?」
「弟子のメグです。お師匠様の代理で」
「あらあら、エリートじゃないの。お若いようだけど、いくつなのかしら?」
「十七です」
「最年少だわ。まだそんなに若いのに、サバトに参加だなんてすごいわねぇ」
「そうですかね、デュフフ」
サバトに参加する魔女はもっと意地悪いものだと思ってたが、勘違いだったのかもしれない。
最初は戸惑ったが、チヤホヤされるのは正直悪い気はしなかった。
私の鼻が伸びすぎてそろそろ天を貫きそうになった頃、大きな鐘が鳴り響き、室内に満ちていた話し声が止んだ。
いよいよ会議が始まるのか、と思った矢先。
私のちょうど対面で、三人組の魔女が立ちあがった。
「それじゃあ今年のサバトを始めましょ」
「無駄話はやめて私達の言葉に耳を貸すの」
「許可なく発言は認められないわ」
その声にすぐに気づいた。
先程入り口で私をダサいと嘲笑していた魔女達だと。
まさかとは思ったが、やっぱりあの三人もサバト参加者か。
三人とも、私を除けば、この中でもかなり若い部類に入る。
私よりは年上だろうから、二十代前半か、その辺りだろうか。
「あの、向かい側の三人組って誰です?」
私はこっそりと隣のローズマリーに耳うちする。
すると彼女は「あぁ」と声を出した。
「あの子達はゾル家の三姉妹だね。左から長女のアイシャ、次女のアイナ、三女のアウラ」
「全部あ行かよ。ややこしい名前つけやがって……」
そこでうん? と首を捻る。
「ゾル家ってあの名家の?」
「そうだよ」
「マジかよ」
ゾル家と言われれば、西欧地方においては私でも知っている名家の一つだ。
マンチェッタ地方の領主であり、一家の代表は市長でもある。
家族ぐるみで土地を治める一族なのだ。
「そこ! 私達の許可なく話すことは認められていないわよ!」
ビッと指を刺され、ギクッと体が跳ね上がる。
長女のアイシャと目が合い「立ちなさい」と言われる。
逆らうのも何なので、すごすごとその場に立った。
「アイシャ姉さま、この子よく見たらさっきのダサい魔女よ」
「あら本当ねアウラ。あなた、名前は?」
「メグです……」
「こういう時フルネームで答えるのが常識じゃなくて?」
「メグ・ラズベリーですぅ」
「アイシャ姉さん、この子名前までダサいわ」
「本当ねアイナ」
いちいち発言の一つ一つが癇に障る姉妹である。
発言の中にお互いの名前を混ぜ込まんとまともに会話もできんのかコイツは。
暴れてやろうかと思ったが、ここで私が暴れたらお師匠様の顔に泥を塗ることになる。
私が黙っていると、三姉妹のうちの一人が私に近づいて来た。
こいつはアイシャだったかアウラだったか。
見た目似すぎてて判別がつかん。
「あなた、どこから来たの?」
「ラピスです。地方都市ラピスラズリ」
「あぁ、あの郊外にある田舎町。通りで田舎臭いと思ったわ。初顔だから、師匠のお使いってところかしら?」
「アウラ姉さま、ラピスって言ったら『永年の魔女』が統括する場所じゃない?」
「あらホント? じゃあ、あなた魔女ファウスト様の弟子ってこと? 七賢人ってもっと華やかな生活をしていると思っていたけれど、弟子にこんな貧相な格好させているんじゃあ、地味な生活しているのねぇ」
くそっ、くそっ、くそっ。
目茶苦茶腹が立つのに何も言えない。
なぜなら事実だからである!
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