第2節 私はダサい
魔女集会……通称『サバト』。
魔女の魔女による魔女のための集まりである。
魔法の世界の男女比は、圧倒的に女性が多い。
それは、女性のほうが生まれつき魔力が強く、魔法を扱うことに長けていたからだ。
魔法を使う男性は魔法使いと呼ばれる。
彼らは大陸や都心部に数人いれば良いほうで、世界的にも人数が少ない。
でも魔女は違う。
人数が多い魔女は、各地方に住み、それぞれの地域を管理しているのだ。
それは私やお師匠様が住む西欧地方も例外ではない。
細かく集合した市町村を管理する魔女が、そこには存在する。
そんな魔女達が集まって情報交換を行うのがサバト。
簡単な話、定期的に行われる魔女の井戸端会議だ。
「サバトのお知らせなんて珍しいですねぇ」
「ここ数年は魔力の流れが安定しなかったり、色々騒がしかったからね。そろそろだろうと思ってたよ」
最後にサバトが開かれたのは一昨年だったか。
その時はお師匠様が参加してくれたが、今は状況が違う。
「それでどうします? 今年の参加はちょっと難しそうですよね。アレだったら連絡入れときますけど」
「ふむ、そうさね。とは言え周辺地域の話も聞いておきたいところだ」
そこでお師匠様はじっと私を見つめる。
「何すか? 私の美しい顔に何かついてます?」
「あんたちょっとは謙虚ってもんを知りな。そうだね……メグ、今回のサバト、あんたが参加するんだ」
「えぇー!? なんで!」
「そりゃあんた、私は忙しいからに決まってるからだろう。明日魔法協会で行われる研究会の準備もしなきゃならない。私の代わりに、ご近所付き合いはお前がやるんだよ」
「しょんなぁ……」
私はげんなりした。
サバトに集まる魔女の中には、底意地が悪いのも居るわけで。
特に七賢人の弟子が参加したとあっては、どのような嫌がらせを受けるのか。
「安心しな、あんたより底意地が悪いのはいないよ」
「ははは、ご冗談を。はははは」
数日後。
私は中央都市ロンドに降り立った。
西欧地方の首都である中央都市ロンド。
そこには魔法協会が提供している魔法会館が存在する。
何かと魔法に関するイベントごとで用いられる施設だ。
サバトは、そこで執り行われるらしい。
私も実際に尋ねるのはこれが初めてだ。
こういう時、自分の田舎者さ加減を実感する。
「それにしても、圧巻だなぁ」
私はふと呟くと、天を仰いだ。
空には多数の箒に乗っている人の姿があった。
いずれも魔女や魔法使いだ。
地方都市ラピスと違い、中央都市ロンドには多数の魔女や魔法使いが住んでいる。
彼らにとって空を移動する事は当たり前。
この光景も特別な事ではなく、日常茶飯事なのだ。
以前にもロンドには来たことがあったが、その時はかなり早朝だった。
今日は日中だし、あまり目立つと怒られるかと思ってわざわざ電車で来たけれど、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「ちぇっ、こんなんだったらシロフクロウに乗ってくるんだったよ。電車代損したじゃん」
「キュイ?」
毒づく私を見て肩に乗っていたカーバンクルが首を傾げる。
適当に撫でていると、会場の受付案内の看板が目に入ってきた。
「あっちだってさ。行こっか」
「キュイ」
歩いていると、集まっておしゃべりしている魔女の姿が目に入ってくる。
見ると魔女が三人、こちらを見てクスクスと笑っていた。
比較的年齢の若そうな、小洒落た格好をした女子たち。
やっぱ都心の魔女は違うな、なんて思ってしまう。
「ぷっ、何あの格好。ダッサ」
不意に飛んできたディスにギョッとして視線をやる。
すると相手はサッと私から視線を外した。
私が地方出身だと気づいて嘲笑しているのだと、すぐに気がつく。
「何ワロとんじゃ……。穴という穴ぶち犯して三日三晩よがり狂わせるぞボケが」
殺意の波動をまといながらゴリゴリに絡もうとして、ふと足を止めた。
薄汚いスニーカー。
ボロボロのデニムスカートにくたびれたレギンス。
古い魔女が使っているような、前時代的な古いローブ。
ダサい。
私は間違いなくダサかった。
若者が本来持つべきオシャレの概念が、私には欠如していた。
いっつも田舎でお師匠様に小間使いされすぎたのだ。
考えてみれば、嬉し涙集めを始めてから、ほとんど遊んでいない。
ここ数ヶ月、同年代の友達と服を買いに行ったりしたか?
いや、していない。
この前時代的なローブも、魔女のシンボルとして目立つから着ていた。
嬉し涙集めの活動がしやすいと思っていたのだ。
そうして私はいつしかすっかりダサさに馴染んでいた。
最新鋭の魔女スタイルは違う。
黒のワンピースに黒いロングコート。
ゴシックを基調としながらも、一般人に混ざっても浮かないコーデニング。
私みたいに、適当な格好にローブを羽織っただけのチグハグさはない。
全体に統一感があり、大人っぽさと可愛さが両立している。
「私はダサかったのか……」
その場にがっくりと膝をついて落ち込む。
向こうから聞こえる魔女達の笑い声が、私の惨めさを加速させた。
まさか都会と田舎にここまで差があったとは。
いや、私がただ単に服装に頓着がなさすぎたのか。
すると、不意にチョイチョイ、とローブを引っ張られた。
顔を上げると、穏やかな顔をした背の小さな老婆が私を見下ろしている。
「ごめんなさいね。とっても素敵なローブだったから、気になってしまってね」
「私のローブが素敵……?」
私の訝しげな視線を気にする様子もなく、老婆は「えぇ」とにっこり頷く。
「とっても大切にされてるのが伝わってくるもの。ほら、小さな穴に当て布して、しっかり修繕してあるじゃない。手先が器用なのねぇ」
「まぁ、家事は昔からやらされてるんで」
このローブはお師匠様に渡されてから着続けている年代物だ。
傷んだら補修してきたし、汚れたら丁寧にクリーニングしてきた。
この老婆の魔女は、そうした私の苦労をすぐに見抜いていた。
「物を大切にする人はね、すぐに分かるの」
そう言う老婆の穏やかな表情は、まるで全てを見透かしているようで。
どこかお師匠様の姿が重なった。
すると「サバト参加者の方はこちらから中に入ってくださーい!」と声が聞こえる。
どうやらまもなく始まるらしい。
「あなたもサバトに参加するのでしょう? 一緒に行きましょうか」
「はい。えっと……私、メグです。メグ・ラズベリー」
「私はローズマリー。中央都市の魔女で、このサバトの責任者だよ」
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