第8節 星の核
異様な空気のまま、魔法協会会長によるスピーチは続く。
誰も話さない、音もしない。
世界から音が奪われたかのような、異質な空気が流れる中、スピーチの声だけが場内に響いた。
「魔法協会では現在、大きなプロジェクトを進めております。本日は皆様に、そのご紹介をさせていただきたく、お時間を頂戴つかまつりました」
会長は場内の空気を知ってか知らずか、何事も無いかのようにスピーチを続ける。
プロジェクトって何だ。
そう思っていると、不意に会場の明かりが落ち、なにもない空間に映像が映し出された。
これも魔法によるものらしい。
「近年、世界の魔力の流れは、大きく変化しつつあります。今年、この聖地には無事に魔力が満ちましたが、次の二十年後にはどうなっているかわかりません。森林伐採、水質汚染、土地の砂漠化。魔力を安定させる大自然は年々減少と破壊の一途を辿っています」
ここ最近、『魔力災害』が増えている。
魔力が気体の塊となって街に溢れ出したり、高密度の魔力が魔法を暴発させたり。
魔力が起因して生じる災害を、総じて『魔力災害』と呼んでいるのだ。
それと共に増えているのが、何らかの形で魔力が動植物や土地を侵食する『魔力汚染』だ。
魔力が原因で体が変異し、心肺機能が正常に動作しなくなって死亡したり。
動植物の性質が変わったために生態系が大きく狂ったり。
そんなニュースを、私もよく目にしていた。
それはどうやら、魔法協会が取り上げるほどに深刻なようだ。
「北国の一帯では、魔力災害によって滅び、今もなお足を踏み入れられぬ死の土地がございます。他の国でも、まだ小規模ではありますが、少しずつ魔力災害の数は増えてきているのです。そう遠くない未来、大型台風や火山の大噴火のように、自然バランスを致命的に乱す規模の魔力災害が生じる可能性があるというのが、魔法協会の見立てです。それは、何千、何万もの人々の命を危険に晒すものかもしれません。我々はそれを未然に防がねばならない。そこで魔法協会は考えました。この星を守り、魔力の流れを安定させ、人間も動物も安心して暮らせる方法を」
そこで、パッと目の前の映像が切り替わり、この星の様な図が表示される。
「そこで思い立ったのが、星の核へのアクセスです。我々の住むこの星の中心には核と呼ばれる物質が存在し、全ての魔力は星の核が生み出していると考えています。その核を人の手で管理する。それが、魔法協会の出した答えです」
とんでもない話へと飛躍を始めた。
私は思わず唾を飲む。
「魔力の流れを人の手で管理すれば、生態系のバランスを保ち、自然開発の推進と魔力供給の安定化を図れます。木々を育て、魔力を浄化し、星をあるべき形に戻していける。それは、人類がより発展するために必要なセンテンスです」
そこで、画面に表示される星の核が二つに分裂した。
星の中心と地上に、核が一つずつ存在している。
「星の核へアクセスする具体的な方法ですが、実際に穴を掘って星の中枢へと赴くわけではありません。リスクも大きいですし、何より時間が掛かります。そこで、我々は魔力鉱石を使う方法を考えました。魔力鉱石は非常に高濃度の魔力の結晶。その魔力鉱石を使い、星の核と共鳴させることで、擬似的に星の核を地上に生み出します」
遠方にある星の核を操るため、魔力鉱石を素材として地上にも星の核を生み出す。
魔法協会の会長が言っているのは、すなわちそう言うことだ。
それが良いことなのか、悪いことなのかはわからない。
ただ、とんでもないスケールの話をされていることだけは理解できた。
魔力鉱石の実物を私は見たことがないが、存在だけは知っている。
高濃度の魔力が集う場所に生まれる、紫色の特殊な鉱石だ。
魔力の密度が高くて安定した魔法の構築が可能な反面、扱いを間違えると、魔力に体を汚染されるリスクもある。
それ故に好んで使う魔導師は少ない。
そんな危険な物質を用いると、魔法協会会長は言うのだ。
異常なことであると、ある程度の魔法の知識があれば誰もが気づく。
それに、誰がそれを扱うんだ?
そもそも、遠隔にある物質への干渉なんて高度な魔術式、一体誰が構築出来るというのか。
何の分野の魔法なのか、想像もつかない。
物質転送に並ぶ高難度の魔法構築だ。
物理魔法、現象魔法を超えた、もっと高度な……。
そう、例えば時魔法とか。
嫌な予感がした。
「もちろん、魔力鉱石を扱うのは素人ではありません。星の核へとアクセスする魔法を構築するのは、魔法界のプロ中のプロ。ここにいる、最高の魔女『エルドラ』と『ファウスト』に託されたのです」
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