第15節 縁はまた巡る

またここで会うことを条件に、ウーフ君とは別れた。

去りゆく彼の姿を見送っているとソフィが静かに口を開く。


「良かったの、連絡先とか聞かないで」

「異界の住民のアドレスとか聞いても連絡できるか分からんやん」

「最新のレポートでは異界の住民とメル友になったと言う報告がある」

「そうなの? すげぇ……」


ついに文明の利器は世界を超えるようになったのか。

サービスや電波の規格を同期出来れば実現できるのだろうか。

仕組みはよくわからないが……とは言え。


「一応待ち合わせの時間と場所は決めといたし大丈夫でしょ。来なかったら来なかった時だよ」


結局、これは当人の問題なのだ。

二人はくっつくには接点が薄すぎたし、一年と言う時間は長すぎた。

私がもし旅先でたまたま知り合った人に一目惚れしたとしても、一年も経ったらその気持ちは既に冷めてしまっているだろう。


だけど、二人ともこうしてもう一度出会えた。

そして、はからずもお互いに好意がある。

ただ、立場や種族、生きる世界が違うだけなのだ。

そのしがらみを、片方だけじゃなく、お互いが越えねばならない。

私は、そこに介入したお節介な魔女。


それだけのお話。




次の日、約束の場所に足を運ぶと、再びマリーさんと会うことが出来た。

マリーさんは私を見ると「待ってたわ」と嬉しそうに立ち上がる。


「今日はこの間の子は一緒じゃないの?」

「ああ、ちょっと野暮用で……」


実は今、通りはちょっとした騒ぎになっている。

ソフィの変装が見破られたのだ。

急に出現した世界的有名人に辺りは騒動になり、警察監修の元、臨時の握手会が開催されている。


「実は、今日はマリーさんに二つばかり報告があって」

「彼のこと?」

「うん。驚かないで聞いてほしいんだけど……」


私は、マリーさんに全て話した。

ウーフ君が狼男であり、異界の住民であったということ。そして、彼がマリーさんとの再会を躊躇していること。


するとマリーさんは「よかった」と一言、静かに呟いた。


「彼も私のこと、覚えていてくれたのね」

「驚かないの? 狼男だったって言うこと」

「ええ。実を言うとね、薄々そうじゃないかなって思っていたの。異界祭り中だし、私は彼の顔もまともに見れていなかった。だから、異界の人なんじゃないかって」

「そっか……」


この人は、見た目や状況じゃない。

彼の人間性に触れて、彼に惹かれたのだ。

その恋が、果たして二人にとって良い結果をもたらすのかは分からない。

それでも、何だか私は嬉しかった。


「彼は人間じゃない。それでも会いたい?」

「会いたいわ」


マリーさんは二つ返事でそう言った。


「実を言うとね、狼男には思い出があるの」

「思い出?」

「昔、同じように異界祭りで知り合った狼男の子がいて。道に迷っていたから、一緒に街を歩いてあげた。でも、本物の狼に私が襲われているって勘違いした人がいて、それで大騒ぎになってしまって……」

「へぇ。それはどうなったの?」

「誤解が解けてどうにかなったのだけれど、騒ぎのうちに離されてしまって、その子とはそれきり。だから、別の人とは言え、また出会えたのが狼男さんだなんて縁だなって」

「確かにそうだね」


そこで、私は昨日のウーフ君の話を思い出した。

彼は昔、本物の狼に間違えられた経験があると言っていた。

ソフィさんの言っていた狼男の子とは、ひょっとして……。


私が言うべきかどうか迷っていると、マリーさんは静かに空を見上げた。


「明日で異界祭りも終わりね。今年の異界祭りは素敵な出会いがあったのに、花火が上がらないのだけが残念」

「マリーさんは、やっぱり花火を見たい?」

「そうね……やっぱり彼と会った時の大切な思い出だから。もし出来るならもう一度、花火の上がる夜を彼と過ごしたかった」

「じゃあ、私に任せてよ」

「任せる?」

「明日の夜、花火は上がる。必ずね」


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