第11節 失われた祭典の花

「メグ」

「あ、はっ、ひゃい」

「魔法に失敗したね」

「んごっ」


夕方。

お師匠様の書斎で、私とお師匠様は向き合っていた。

家に帰った瞬間に書斎に呼ばれたのだ。


「門の結界構築をしくじったそうじゃないか」

「はい……すいませんでした。どうか、一つだけお願いがあります。殺すなら、遺体は人肉シチューにして使い魔二匹に食べさせてください」


使い魔二匹がギョッとするも、お師匠様は至極冷静に「落ち着きな」と言った。


「別に咎めようってわけじゃない。ソフィを守るためだろ」


まっすぐ見つめてくるお師匠様を見て、私はすべてを知られていることを悟った。

千里眼を持つ“永年の魔女”に嘘や誤魔化しは通じない。

もちろん完璧じゃないだろうけれど、少なくとも私は今までその目を誤魔化せたことはない。


「とは言っても、このままじゃ魔女の名折れさね。お前が舐められっぱなしでも構わないって言うなら、それでも構わないが」

「このうら若き乙女の柔肌を舐めようなんざ、一億万年早いぜ旦那」

「余命十ヶ月程度なのに何言ってんだい。まぁ、そう言うわけで、このままだと信頼にも関わるからね。あんたに一つ、仕事を渡そうと思ってね」

「仕事?」

「パレードに出な」

「パレード?」

「異界祭りのパレードさね。実は今回ソフィをこの街に招待するにあたって、市長から事前に依頼を受けていてね。是非パレードをしてもらうよう頼んでくれって。そこで、あんたにはもう一度、ソフィの助手として仕事をしてもらう」


確かに、あの世界的パレードの名手がこの街にいるのに、祭りのパレードをしてもらわない手はない。市長がわざわざお師匠様に頼むのも当然だ。

しかし、私には懸念点もあった。


「名誉挽回出来るならやりたいですけど……良いんですか? ミスしたばかりの魔女を起用するなんて、市長も不安でしょ」

「私が頼んだってことにする」


いつの間にか、ドアのところにソフィが立っていた。


「ズベリーと一緒じゃないと、私はやらない」

「ソフィ……」

「そう言うことさね。それに実際問題、ソフィの滞在期間はまだしばらくあるが、七賢人として他の仕事もある。私も私で忙しいし、人手はあったほうが良いんだよ。あんたの薬布のおかげで私の腰もすっかり完治したからね。何かあれば、今度は私が責任持ってフォローすると言っておこう」

「お師匠様、めっちゃ根回ししてくれますやん」

「あんたの名に傷がつくと、私の名にも傷がつくんだよ」

「大人はすぐそういうこと言う」


そこで私はふと思い出したことがあった。


「あ、でも確か毎年、異界祭りには花火大会があったでしょ? 私達が魔法パレードなんてしたら、せっかくの花火のイベントがかすんじゃうんじゃあ……?」

「それがね、今年は花火が上がらないらしい」

「何でですか?」

「街一番の花火職人が亡くなったそうだよ。病気でね」

「え……」


亡くなったのか、花火職人さん。

直接会ったことはないが、異界祭りの花火は毎年私も楽しみにしていた。

だからその訃報を耳にすると、やはり多少なりともショックだ。


「だから今年は、あんたとソフィで街を盛り上げるんだ」

「ソフィはそれで良いの?」

「こうなったのは私の責任。借りはすぐ返す。このままでは済まさない。必ず殺す」

「最後おかしくない?」

「そんな訳だ、しっかりおやり」


お師匠様は、私を見ていつものニヤッとした含みある笑みを浮かべる。

その顔を見て、私は「はいっ!」と威勢よく答えた。

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