第3話 東より、英知の来訪

第1節 来訪は突然に

このところニュースが騒がしい。

街は至って平和なのに、テレビをつけると物騒な話ばかりだ。

今までそう言うのはあまり気にしていなかったが、たまには政治経済も気にしろとどこぞのくそばば……お師匠様に言われたので、しぶしぶ見ていた。


「もうすぐ死ぬっつーのにこんなもん見て役に立つんかね」


ミートスパゲティをモグモグしながら画面を眺めていると、不意に気になるニュースが流れてきた。



『二日前終わった七賢人による国際会議にて、最近問題になっている生態系の変化と魔力の状況が議論されました。そこで取り上げられたのは欧米中域に出来た監視区域で、早速現地の調査に賢人が二人赴き――』



「あれ? もう会議終わってるんだ」


お師匠様が海外出張に出て早一週間ほど。

晩飯を使い魔達と食べていた時、私はテレビのニュースに目を丸くした。


お師匠様は二、三日で帰るとか言っていた気がする。

長引いているとは言え今日あたりそろそろ帰ってくるだろうとは思っていたのだが。


私は机に置いていた携帯電話に目を向ける。


私やお師匠様が携帯を持っていると、驚かれることがよくある。

魔女が前時代的な文化で生きていると言う思い込みをしてる人は今も多い。

いつも便利な魔法で連絡を取り合っていると思われているのだ。

そんな面倒くさいこと誰がやんねん。


魔法だと詠唱に数分はかかるが、スマホだと数秒。

今や文明の利器は魔法をも凌駕していることを、人々は知らない。


しかしながら、携帯のロックを解除するも、お師匠様から連絡が来た形跡はなかった。

電波が入らない地域にいるのかもしれない。


「まぁ束の間の休息が延びたと思いますか」


私はそう呟いてスパゲティを頬張った。

使い魔のカーバンクルとシロフクロウが不思議そうに顔を見合わせ、首を傾げる。


私の対面には、ラップをかぶせたミートスパゲティが一皿。

それはどうやら、明日の私の朝食になりそうだ。


「朝食を変えるなんて何年ぶりだろ」


その独り言は、よく響いた。




晴天の霹靂へきれきとはよく言ったもので。

特に代わり映えのしない穏やかな日に事件は訪れるのだ。

ニュースを見たのも、お師匠様が帰って来ないのも。

私の中で、何か予感がしていたのかもしれない。


その来訪は、早朝に訪れた。


私がベッドで眠っていると、物音がしたのだ。

ガタガタと玄関から音がして、ドタン、バタンと何やら騒がしい。

どうせまた小動物が暴れてるのだろうと思っていると、ギィィと音を立てて扉が開いた。

光が射しこみ、私は思わず顔をしかめる。


「起きなさい、命令よ」

「むぅ~ん、ムチャムチャクチャクチャ、まだ寝かせてよぉん」


ヨダレを枕に垂らしながら私が言うと、何かが私の顔の上に乗る。

それは足の裏だった。

足の裏が私の顔に乗っている。


そう認識した瞬間、私の鼻孔に激臭に継ぐ激臭が満ちた。


「くっさ! くっさくっさ! おぇえ! おぐぅええ!」


私が部屋の隅で嘔吐していると「失礼ね! そんなに臭くないわよ!」と誰かが声を上げた。

恐る恐る顔を上げる。


「あんた、どういう神経してんのよ」


そこに立っていたのは、三角帽にホウキを持った、前時代の典型的な魔女の格好をした女性だった。

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