第3節 地方都市ラピスの魔女
少女の名はアンナと言うらしい。
街の中心外にあるお医者さんの家の子だ。
「それで、どんなお花が良いの?」
「んーとね、ママが好きなお花!」
「だからそれ何や」
私が尋ねるとアンナちゃんはきょとんとした顔をした。
「分かんない」
「えっ?」
「全然分かんない」
「花の種類も分からないのにお願いしに来たの?」
「うん。ファウスト様なら大丈夫かなって」
「そんな訳……あるな」
あのクソばば……いや、お師匠様なら千里眼を使って過去視出来たかもしれない。
もちろん私にはそんな芸当できない。
「ごめんねアンナちゃん、お姉ちゃん、まだ未熟だから、お師匠様みたいに一発で見つけ出すのは出来ないんだ」
「そっかぁ、でも良いよ、元気出せよ」
「はい……」
何やら引っかかるものを覚えたが、とにかく今はヒントから答えを導くしかない。
私たちはアンナちゃんの家に向かうことにした。
人口十万人程度の地方都市ラピス。
狭くもなく、不便でもなく、それなりに平和で、暮らしやすい。
その街の外れにあるのが魔女の森であり、私のお師匠様の家だ。
「お、メグ、またお使いか?」
「へへ、そんなもんでごぜえやす」
「メグ姉じゃん、仕事?」
「さよう……」
「メグちゃん、珍しいねこんな時間に。揚げ芋出来たけど、食べるかい?」
「おばちゃんありがと、この子の分ももらえる?」
「あいよ」
この街の人は気さくな人が多い。
よそ者であろうと、魔女であろうと、気軽に接し、受け入れてくれる。
レンガ造りの街は緑と調和しており、自然も河もきれいで、空気もきれいだ。
そんな街に、私は住んでいる。
二人で揚げ芋を口にしながら歩いていると、アンナちゃんが私の顔をマジマジと見つめているのに気づいた。
「どったの?」
「お姉ちゃん、有名人なんだね」
「そりゃそうだよ。何せあの七賢人ファウストの弟子なんだから」
「しちけんじん?」
「世界でトップレベルに賢い七人の人のこと」
この世界には、魔女や魔法使いと言った、『人』を逸脱した存在がいる。
それらを人々は一まとめにして魔導師と呼ぶ。
その中でも、国際魔法協会公認の“賢人”と呼ばれる存在が七人いる。
それが七賢人。
私のお師匠様『永年の魔女ファウスト』は、その中の一人と言うわけだ。
古来、魔女は人のために力を使い、人は魔女に感謝の証として物品を渡してきた。
そうして魔女と人は、今も長い間持ちつ持たれつの関係を保っているのだ。
だから、お師匠様は、たくさんの街の人から慕われている。
色んな人が、お師匠様を頼っている。
「お姉ちゃんも、いつかファウスト様みたいになるの?」
「そりゃあもちろん――」
なる……つもりだった。
死ななければ、きっといつかは、なれたかもしれない。
誰もに慕われる、すごい魔女に。
どうして私は死ぬのだ。
一体誰が、私に呪いをかけたのだ。
全然わからないし、多分何も知らないまま私は死ぬ。
そのことすらも、何の現実味もない。
「あー、畜生が!」
「わっ! ビックリした」
「アンナちゃん、暗い話題はこれくらいにして、さっさと行くよ!」
「暗い話なんていつしたっけ?」
「ああぁ、よくよく考えたら全然してないな! 細かいこと気にすんな!」
「お姉ちゃん変なの」
「生まれつきだよ!」
私は昔から面倒くさかったり辛気臭いことを考えるのが嫌いだった。
悩むのは、苦手である。
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