第二十二場 がらくたの祭壇に歌う

●現代・祭壇


 ロドルフォは一人祭壇で嘆く。

 神と呼ばれる自分の空虚さ。神が呼びかけに応え無いことへの慟哭を歌う。


 こわれたオルゴールのような音色の中、現代「空の民」たちが舞台上へ現れる。


♪瓦礫の王 

〜♪使命 のメロディ〜

空の街の人々"神よ 許しを 与えたまえ 哀れな この街に"


 ロドルフォが手を振るうと、五体投地していた空の民は糸の切れた操り人形のごとく、散り散りになる。意思なき民を嘲笑しながらも、自らにもまた存在価値を見いだせず、ロドルフォは一人さまよう。

 だがそこには、決意を固めたアントニの姿があった。


ロドルフォ 「愚かな奴らだ。許しなど、我々すら叶わなかった。

      海の民はいまだ救われていないのに!」


ロドルフォ"天を仰ぎ 目を閉じても 浮かぶ景色など ない"

     "神と呼ばれ 五百年 異教徒の祈りに"


ロドルフォ「だが……神とは何だ。

      

      神ではない。ミカイなどという女でもない!

      私はなぜ……ここに居るんだ」


ロドルフォ"救いはない 報われない 名前忘れた『狼』"

     "この心 薄れても 歴史が示すだろう"

     "これが私 生きた証 この牙が 私の全て……"


祭壇で嘆くロドルフォを遠くから見つめていたアントニ。ロドルフォ本人すら忘れていた彼女の誇りを胸に、アントニは自らの責務を果たすため立ち上がる。


アントニ「……むかしむかし。国のために、すべてを捨てた気高い女性がいた」


アントニ"時の果てに 残り続ける 背負うその名は 『狼』"

    "運命に 流されて 友は今も迷う"

二人  "道が違えばと 探し続ける"


ロドルフォ"『国が滅ぼされなければ』"

アントニ "『荒波に 呑まれなければ』"

ロドルフォ"『彼とともに 歩めていれば』"

アントニ "『チャスカの手 離さなければ』!"


二人   "二度と手の 届かない 置き去りにした選択"

     "故郷ふるさとも 過ぎた過去も 全て瓦礫の下"

ロドルフォ"なぜ誰も応えない"

アントニ "もう迷うことはない"

ロドルフォ"私の傍"

アントニ "私の選択"

二人   "最果ての空……"


 祭壇から崩れ落ちるロドルフォ。

 空いた狼の座に、アントニが上る。

 「アントニ・カザルス」の名が悪神として残ることこそ、五百年さまよった友へ果たす責任だと信じて。


アントニ「友よ。狼の騎士よ。お前の汚名は、この私が背負おう。

     皆、明日をつかめよ……

     さあ……アントニ=カザルス最後の歌だ」


 後ろ向きに祭壇を見上げていたアントニは、厳かに振り返る。

 そこに居るのは気弱な青年ではない。決意を秘めた《狼》の声が、現代の空の民を射抜く。



〜最果ての地 rep.〜


アントニ"人の子よ 聞こえるか"

    "心揺らす この歌が"

    "恐れるのだ この私 『狼』の声"

    "捧げよ魂を 喰らってくれよう"

    "御山 震わせ 滅ぼしてやろう"


 民衆たちは声を聞き、思い思いの反応。

 怯えるもの、大切な人を守るもの。

 これまでの全てが嘘だったと、絶望するもの。


民衆"聞こえる遠くから 風に乗せて……"


アントニ"『狼』の名は……"


アントニ「アントニ・カザルス!」


 高らかに名を告げるアントニの声が、ロドルフォに届く。


ロドルフォ「おお、アントニ殿……このロドルフォが参ります。

      今こそあなたに王国を!」

アントニ 「ああ……待っているよ。

      


暗転。

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