第二十一場 戦うは、明日のために

●現代・牢獄

 囚われたリュイスをケミィが助ける。ケミィは生に未練があることを吐露する。

 一人ぼっちの子どもたちは、自分たちに込められた願いを受け止め、立ち上がる。


【Piano(一人じゃない)】


リュイス「ケミィ!? 来てくれたのか!」

ケミィ「最後に確かめたいことがあったの」

リュイス「最後だなんて言うなよ! 何度だって伝えてやる」

ケミィ「……私もいつも夢見るの。母さんのこと」

リュイス「……子守唄」


 「ひとりじゃない」のシーンを思い出しつぶやくリュイス。

 アントニが雪山から届けていた子守唄は、子どもたち皆に届いていた。


ケミィ「その夢の中で、いつも父さんの背中が寂しそうで。

    だから代わりに私が母さんにならなきゃって。ずっと、思ってたの」

リュイス「……代わりなんかじゃない。ケミィは、ケミィだ……」


 リュイスの言葉を待たず、ケミィは堰を切ったように内心を叫ぶ。


ケミィ「私、儀式なんて本当はどうでもよかった。父さん一人に笑ってほしかった!

    でも父さんは……母さんのこと忘れちゃった。

    頑張りすぎて、悪い何かに、取り憑かれちゃったの。

    これじゃ私……馬鹿みたいね」

リュイス「馬鹿なもんか! 馬鹿なもんかよ……ケミィ。

     俺ずっと正しい道を探すばっかだった。

     助け方なんて知らなくて、優しい言葉の一つもかけられなかった」

ケミィ「ずっと『これしかない』って思ってた。

    でも……どんなに心を殺しても、私じゃ届かなかった。

    リュイス。なんで諦めずにいられたの?」

リュイス「教えてもらったんだ。俺たちは一人じゃない。

     いつだって、道は変えられるんだって」

ケミィ「その本は……?」

リュイス「友達が託してくれた、古い歌だ。ほら!」


 アントニの書物を取り出すリュイす。

 そこにはアントニの記した、五百年前の戦いが記されている。

 『英雄の名』−−と。


♪英雄の名

リュイス「願いなんだ。……俺達の名前は」

ケミィ「……名前が?」

リュイス「『生きて欲しい』って。

     むかしむかし……街を守った、英雄のように」


壇上に、黒衣の英雄たち《リュイスとケミィ》がやってくる。


リュイス"いつか来る 夜明けを待つ"

    "この生命 今ここにある"

    "誰の許しも いらない"

    "俺たちは 今を生きる"


リュイス"この名前 踏み出す足"

    "友のため生きた やさしい戦士の名が"

    "生きる力をくれる"


 門番の一人、外套を脱ぎ捨てる。

 現れるのは過去の英雄・戦士リュイス。槍を振るい、現代リュイスと思いを通わせる。

 決して少年リュイスにはっきり見えているわけではない。だが、名を同じくする二人の勇敢な男の動きが、徐々にシンクロしていく。


リュイス"海を越え 風を切る 山濡らし 花咲かす"

    "生きる道を選び 舵取って

    "さあ 叶えよう願いを 誰も 知らない道"

    "この身に宿るのは 英雄の名"


 リュイス、立ち上がりケミィの手を取る。

 五百年前に、リュイスがティッカを踊りに誘ったのと同じ動き。


リュイス"誓おう 君のため"

    "霧が深く 街を覆っても"

    "こじ開ける この手で 夜の扉"

    "確かな太陽 明日につかむ"


 戦士リュイス、少年リュイスに思いを託すように支える。

 少年はアントニから受け取ったマントを翻し、少女と立ち並ぶ。


リュイス"踏み出そう 二人で 夜明け見よう"

ケミィ"感じたの 祈りを この胸に"

リュイス"いつか来る 未来じゃなくて"

ケミィ"この生命は ここにあるから"

リュイス"できるさ 二人でなら"

    "この名前 誰かの願い"


 ケミィ、意を決したようにリュイスの手を引き、牢獄を二人で出る。


リュイス"捧げられた魂は この街を守る"

(ケミィ "Ah...")

リュイス"愛しさや 恐れさえ"

二人"生きるため 力くれる"


 もう一人の亡霊、外套を脱ぐ。現れるのは五百年前の英雄ケミィ。

 二人の英雄が槍を振るい、街を覆い隠していた霧を打ち払う。


二人"空に舞い 風を切る

  "り人の 槍振るう

  "舞う 踊り 力も 守る技"

  "さあ 受け継ごう 祈りを"

  "今ここに 示そう

リュイス"俺たちが背負った"

 (ケミィ "捧げる")

二人"英雄の名"


二人"祈ろう 君のため 闇が深く 心 隠しても"

  "戦おう この手で 夜明けを 確かな太陽 明日につかむ"


 立ち上がる子どもたちを誇り、英雄たちは未来を切り開く力を託す。

 名前に願いを込めた母たちのまぼろしが現れ、子どもたちの心を守る。


黒衣のリュイス"時を越え 力託す"

黒衣のケミィ"未来の子を 守ろう"

"誓いは"

《(ケミィ》》"この思いは"

全員"明日のひかり ともすため!


全員"誓おう この手に 君のため

  "闇が深く 心 隠しても

  "忘れないで その身を 愛する"

  "誰かの思いを 明日に繋げ……"

 もはや子どもたちに勝てないものはない。後は死者たちの思いを清算するだけである。


 暗転。

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