第十九場 別れ
●現代・牢獄
アントニ、踏み出せないリュイスの背中を押す。
【Piano(海辺の町)】
リュイス「(本を抱いて)母さん、笑ってた」
アントニ「ああ」
リュイス「みんな、必死に生きようとしてたんだ」
アントニ「そうだな……」
リュイス「なのに、どうして!」
アントニ「……心を凍らせないと、壊れてしまうんだ。
いつか帰れると信じて、温かい夢に沈んでいく」
リュイス「ダメだ、そんなの!」
アントニの言葉にかぶせるように、強く拒むリュイス。
リュイス「だって……貰ったんだから。いのちを。
だから……」
アントニ「だから……どうしたいんだ」
リュイス「どうにかしたい。こんな悲しい儀式、続けさせたくない!」
♪鉄の絆(rep.)
アントニ「……じゃ、やめようぜ。(リュイスの手を取る)」
思いがけない言葉にきょとんとするリュイス。
アントニ「違うと思ったら、一つずつ変えていく。それが生きているやつの特権だろ?
……そう、教えてくれた友の名も。
リュイスというんだ」
アントニ"この手に感じる 熱い思いが"
"大地に心つなぎ留めた どの歌より 大事なもの"
"夜の果てに 吹かせてみせよう"
"海風を 空を呼ぶ風を"
"この魂 翼に変えて"
アントニの手を取るリュイス。アントニは、自分を包んでいた海の国の装束をリュイスへ着せる。継承される決意の証。
リュイス”叶えたい 夢がある 見たい景色が"
"ただ一人でも 死なせない世界"
アントニ"素敵だな 今叶えよう"
リュイス"海見下ろし"
二人 "約束だ 諦めないと 誓うよ"
"心を繋いでいるのは 楔じゃない 確かな願い"
リュイス"この絆は 誰にも切れない"
アントニ"その祈り 確かに届けよう"
"君の夢見る 暖かな街 覚えてる"
二人 "取り戻そう 時を越えて 水平線まで 舵を取って"
"羽ばたこう どこまでも"
アントニ「いい目だ。リュイス。それにきっと、ケミィも。
その二人に、勝てないものなんて無いのさ」
リュイス「やってみるよ」
アントニ「夢、叶えろよ」
リュイス「ああ。俺たちは、俺たちの時代を生きる」
その言葉は、死して尚見守るアントニたち、母たちを振り切る決意でもあった。
アントニは少年の言葉に笑い、本を閉じる。
もう物語は必要ない、というように。
アントニ、書物をリュイスへ手渡す。
【BGM:運命の羅針盤】
アントニ「都合のいいページだけじゃない。
良いことも悪いことも、全部が、ここにある」
リュイス「(手にとって)……重いな。
アントニ「少しずつでいいさ。
そしてたまには……歌を思い出してくれ」
リュイス「覚えてる。書いたやつのことだって、ずっと。
ありがとう、アントニ」
アントニ「……その言葉が、聞きたかった」
かつての親友の言葉を、噛みしめるようにつぶやく。
リュイス「(引き止めるように)アントニ!
お前にも……夢があったのか?」
アントニ「(笑って)あるさ。これから……叶うんだ」
そしてかつての愛する人の言葉を胸に、アントニは自分の存在を賭けてこの街を守ると決める。何百年も先の世界で、彼らの祈りを歌うために。
暗転。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます