第十八場 こわれたこころ

●現代・空の街・祭壇


 祭壇に篭もるクラーク。ロドルフォの居る祭壇に祈る。

 誰よりも家族つまを愛し、過去に縛られ続けている男の独唱。


【BGM:気高き魂(piano)】


クラーク「騒がしい日だ……十年前のこの日もそうだったか。

     お前が神に捧げられたあの日も。……ミカイ、我が妻よ。そこにいるんだろう?」


♬気高き魂


クラーク"雪に閉ざされ 朝のこない この街"

    "伝わる歴史さえも 嘘か真か"

    "大地鎮まる 次こそはと"

    "かすかな望みに 『賭けてみよう』と"

    "笑うお前を 今も覚えている"

    "魂だけ 我らが持つのは"

    "せめてまばゆく飾る 何より大切なもの!"


    "気高き 魂 きらめく 生命の灯火"

    "おまえの柔らかな微笑み きらめく瞳も"

    "全てが 山へ還り 眠る……"

    "共に夢見た 最後の奇跡"

    "その日までどうか 安らかな眠りを……"


 不穏なピアノの旋律が響き、クラークが空を仰ぐ。

 ロドルフォはクラークの心の隙に付け入り、己の望むよう誘導する。

 −−さながらアントニが、幼いリュイスを導いたように。


♪死の誘い

クラーク「これは、神の声……」


ロドルフォ"眠れないわ 雪の冷たさ 大地の重さに 胸がきしむ"

クラーク"神の声 確かに聞こえる そこにいるんだね 愛しい人"

ロドルフォ"この痛みは いまだ醒めない"

クラーク"わかるよ 夜のたび 思う"

ロドルフォ"死の苦しみ ひとときも 耐えられない"

クラーク"許して欲しい"

ロドルフォ"終わらせて 今すぐに"

二人 "全てを この日に"


クラーク「お前を失ってから、毎日夢に声を聞いた。

     罪を償えば、死んだ乙女たちは地上へ帰ってくると!

     そうなんだろう、この『魂の日』に!」

ケミィ「……父さん?」

クラーク「……どうした」

ケミィ「着替えてきたの。……一体誰と話していたの?」

クラーク「(かぶせて)愛しい『暁の乙女』よ。心配することはない。今日で悪い夢は全て終わる。私たちは許されるんだ」

ケミィ「父さんあのね、私考えたの……」

クラーク「(さらにかぶせて、ケミィに喋らせないように)『暁の乙女』よ、お前はもう何も考えなくていいんだ。役目を果たすその時まで。わかったね」


ケミィ"神の声? いいえ違うわ そこにいるのは 誰……?"


ケミィ「父さん。ほら見て。これ、母さんの衣装なんだよ。

    もう、名前も……呼んでくれないんだね」


 ケミィ、その場に崩れる。ロドルフォはケミィを憐れみの表情で見下ろしている。


 暗転。

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