第十六場 母子

○現代・牢獄〜10年前の記憶


 リュイスはケミィを救わんと、闇雲に脱出を試みる。しかしやってきたワマンとの会話に、街の大人にも譲れぬ思いがあることを知る。


 リュイス、足についた鎖を壊そうと暴れる。ワマンはそれを見て、不機嫌そうに舞台へ入る。


ワマン「ちっ……何やってんだ。やめろ」

リュイス「うるせえ」

ワマン「そんなもんで壊せるわけねえだろう!」


 リュイス、黙って鍵を殴り続ける。


ワマン「(座り込んで)まあ聞けよ。頭が冷えたら出してやる。ケミィと会いたいだろ、最後に」

リュイス「最後なんかじゃねえ!」

ワマン「……そしたらどうなる。別の女が死ぬだけだ。いいかよく考えろ。それでケミィが喜ぶか?」

リュイス「てめえこそ考えろ! 儀式をやめりゃいいんだよ!」

ワマン「いつまで夢見てりゃ気が済むんだよ! 俺たちにはこれしかない。他にねえんだ!」

リュイス「今を変えたいから、向き合うんだ」


 ワマン、かつて失った我が子とリュイスを重ねるも、自分にはない真っ直ぐさを直視できず、苛立ちながら退出。入れ替わりに、アントニが姿をあらわす。


アントニ「……落ち込んでるな」

リュイス「……悔しいんだ。悪いことをなくせば、みんな喜ぶと思ってた。わかってなかったのは、俺の方だ」

アントニ「……そうだな。一人じゃ、大変だ」

リュイス「でも俺は諦めない! ケミィがいたからひとりぼっちじゃなかった。今度は俺が、死んでも守ってやるんだ!」


 アントニ、かつてのリュイスの「死んでも守ってやる」との言葉を思い出し、懐かしく笑う。


アントニ「(笑って)悪い。懐かしくてな……死ぬのはな、やめといたほうがいい」

リュイス「誰かが生贄になっちゃうんだろ! 俺なら誰も傷つかない……!」


 アントニ、最後まで言わせまいと、リュイスの両肩を掴む。

 一人遺された痛みを知るアントニ。


アントニ「いいもんじゃないぞ」

リュイス「でもっ!」

アントニ「一人で追いつかなければ、もっと遠くを見ろ……思い出せ。託されたものを。聞こえていただろう……?」


 アントニはリュイスの記憶の補完のように。ケミィはかつての出来事を思い出すように。母の死・その祈りが再演される。

 最後のページのおかげでアントニが取り戻した、10年前の記憶。子どもたちに愛を伝えた、母の思い。かつてそこにあったはずの祈り。


♬一人じゃない


リュイス"夢に見るのは"

ケミィ"思い出の歌"

子供たち"死んだ母の子守唄"

アントニ"込められた言葉 置き手紙 蘇る ぬくもりと願い"


 リュイス・ケミィ照明落として回想。10年前、リュイスの母・キヤは「暁の乙女」として生贄に捧げられることが決まっている。

 深刻に捉えるクラーク・ミカイに対し、死ぬはずのキヤは気丈に振る舞う。


クラーク『こんな儀式は間違ってる。どうにかしないと……!』

ミカイ『でも、どうやって?』

キヤ『昔の人に頼ろう? ほら! (ページを出し)記録を集めるの、禁足地で。』


キヤ"死のさだめ 受け入れたけれど つなげたいの この生命 未来へ"


キヤ『間に合わなかったら……リュイスをお願いね。』


 キヤ、禁足地で書物の破片(ページ)を集める。


クラーク"無念晴らそう 犠牲者たち"

ミカイ"この儀式 終わらせるの"

クラーク『それで、キヤは今どこに……?』


 転落死し、舞台から去るキヤ。

 その様子を傍観してしまったロカは、ショックから「天罰」に違いないと言いふらしてしまう。ロカの言葉に悪意はないが、動揺する街の人々は、キヤが罪を犯したと思い込み始めてしまう。集団ヒステリー。


ロカ"死んだ このページ残し きっと天罰"

ルントゥ"裏切った 役目から逃げたのね"


 「天罰」と聞き動揺する街の人々。ロカは、キヤを救えなかった自分を正当化するために虚言を吐く。ワマン・ルントゥらはこれを信じ込む。

 ミカイは、キヤが逃げたなどとは決して信じず、代わりに自分が死ぬことで街を落ち着かせようと試みる。


ミカイ『恐れないで。『暁の乙女』なら私が務めます。』

ミカイ"信じてる あなたを あの娘を 守って 賭けてみましょう 最後のページに"

   "大丈夫 少し 遠くへ行くだけ 最後は 笑顔で"

クラーク『……ケミィ。笑うんだ!』


 笑って見送る人々。クラークの慟哭。ケミィ、自分が父親の味方にならねばと、心を殺し求められるように振る舞う。


子供たち"悲しみ溢れる 笑顔の奥から この手は 届かず 救えない"

リュイス"諦めたくない"

ケミィ"心殺して"

リュイス"変えなくては"

ケミィ"理想の乙女"

子供たち"ただ一人"

リュイス"生きる意味"   ケミィ"死ぬ意味"


 アントニだけが、この地で死んでいく多くの乙女たちを見送っていた。一方ロドルフォは、苦悩するクラークの心の隙間を付き操る。


クラーク『どうして読めない。これが最後の望みなのに! ……聞こえる。神様……いや、ミカイ……?』


 ロドルフォが、心の隙間に付け込みクラークの心を支配する。


アントニ"こぼれ落ちた言葉 一人 祈るように 確かに届いてる 御山のみもと"

キヤ"祈りが溢れてる"   ミカイ"笑うの心から"

キヤ"恐れずに その手は"   ミカイ"太陽 その目に"

キヤ"勇気に満ちて"   ミカイ"心を 照らして"

母たち"あなたは一人じゃない"


 親のためじゃなく、今を生きてほしいと願う母たちの言葉を、アントニが届け直す。


リュイス"諦めはしない " 母たち"お願い 忘れないで"

ケミィ"心殺して"   母たち"心は 自由よ"

リュイス"救ってみせる"   母たち"届ける この声"

全員"誰だって 一人じゃない"


 回想が終わり、ケミィが一人照らされる。

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