第十四場 最果ての地

○500年前〜現代 御山


 轟音ののち、静かな世界。

 空の民でありながら、鳥になるチャスカ。

 対照的にアントニの魂は山に縛られる。


アントニ「……リュイス?」


アントニ「アンリーク、フェラン……」


アントニ「ケミィ、アマル……ティッカ」


アントニ「俺がもっと強ければ。……違う。俺たちなんかが来なければ」



アントニ「俺なんかが生まれてこなければ!」

チャスカ「そんなこと言わないで」

アントニ「チャスカ!(外套をかける)」

チャスカ「暖かい手。「ギター」をつまびく、素敵な手」

アントニ「喋っちゃ駄目だ。今に助けが……」

チャスカ「アントニ。もらったもの、あるよ」


アントニ、チャスカを抱きしめる。下がった体温に、もう助からないことを悟る。


チャスカ「素敵な歌。『楽譜』に残せば、きっとずっと残るね。ずっとずっと先で、誰かが見つけてくれるね……」


 チャスカ、事切れる。


アントニ ……わかったよ。


 愛した人の最後の言葉に、アントニは決意する。何百年後になっても、この楽園に存在した祈りを残し、伝えることを。


 風。


♬最果ての地


 懐かしいケーナの音とともに、アントニの記憶の死者たちが舞台へ入ってゆく。

 この物語は五百年も前に終わっており、結末は決して変わらない。

 今を変えられるのは、生者だけなのだから。




アントニ

夢を見てた あこがれの世界

海の向こう 空の果てに 輝く未来を


誰もがみな 笑える街 辛い記憶を 忘れさせ

旅路の果てに 帰りつく場所 楽園の夢を


 死者海の民たちのコーラス。


恐ろしい声が響く

掛け違えた 歯車の果て

笑う声 その姿 もう居ない


アントニ 友よ聞こえるか 心揺らす鳥の歌

(リュイス:空に翼を広げ 風切りはばたこう)


アントニ 忘れるな 侵略者の 私の過ち

(リュイス隊:理想の国 海の果てに)


アントニ 悲しみの連鎖を 終わらせる

(リュイス隊:辿り着いた 結末 悔いはない)


アントニ 残すんだ 魂かけ 彼らの犠牲を

(リュイス隊:俺達は 自由だ)


アントニ 『気高き魂は 山へ帰り眠る』


船旅に見た 無邪気な夢 苦しみのないエル・ドラド

海も空もみな 雪に溶けて もう誰もいない


 死者空の民たちのコーラス。


恐ろしい声が響く

抜けなかった 剣の重さ

愛する人 その歌も 聞こえない


アントニ 友よ聞かせよう 心揺らす鳥の歌

(ケミィ:生命の暖かさ 捧げた魂)


アントニ 示すんだ 決意なき 私の罪を

(戦士たち:この街を 守るために)


アントニ 消えてゆく祈りを 書き留める

(戦士たち:これでいい いつの日か)

届けいつの日か あの子の願いを

(戦士たち:ああ 太陽のもと 帰ってくる)


『気高き魂は 山へ帰り眠る』



 雪煙の中に死者たちが消えていく中、チャスカ、ロドルフォが背中合わせに祭壇に立つ。

 次いで舞台下、客席側へ現代のケミィとクラーク、そしてリュイスが現れる。

 舞台上こそは虚実・記憶の世界であり、現実を生きる人々は生身の人間の側にいる。

 だが、ただ一人リュイスだけは舞台へと上り、記録を受け止め本を手に取る。


 死者500年前のひとたち、リュイスを見守りながらコーラス。死者のテーマ。


アントニ

友よ聞こえるか 時の果てに 鳥の歌

留まろう この身体 山に朽ちても

真実の祈りを この本に残そう

届けいつの日か 夢を叶えて


彼らに代わり 見届ける 未来へと 響け

この歌よ 時を越えて!

 アントニはすべてを記した書物を現代のリュイスへ託し、自らの罪を精算する決意をする。

 (第一幕 終)

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