第十三場 愛と使命

○500年前・禁足地


 村から脱出したアントニは、一人墓参りへ行ったチャスカのところへ向かう。だが、先行したロドルフォが先にチャスカと対峙する。

 「神の愛」を体現したチャスカと、神の名の下殺し続けるロドルフォの対決。幸せな時代、愛を信じていたころの自分を突きつけられているようで、ロドルフォは平静さを保てずにいる。


ロドルフォ「生き残りか。墓場に逃げるとは……抵抗しなければ、苦しませず殺してやるぞ」

チャスカ「……あなたも、海の国から来た人ね。彼と同じ目。とても……寂しそうな目」

ロドルフォ「私を憐れむつもりか?」


♬楽園の門


 愛と使命。相容れない2つの道をぶつけ合う曲。アントニの介在する余地はそこにない。


チャスカ「(慈愛をもって)ここは空の街。何も拒まない。誰も傷つかない。貴方も皆と、同じように暮らしましょう」

ロドルフォ「女子供の理屈だ。(回顧するように)夢見れば国は破れる。力無くして楽園は築けない!」

チャスカ「それは本当にあなたの言葉?」

ロドルフォ「知ったような口を!」


 「侵略(コンキスタ)」以外の道を閉ざされたロドルフォに、チャスカの説く愛は眩しく突き刺さる。


チャスカ"悩み苦しみ おし潰されても 人は自由よ 手を取り合える"

    ここに開かれている 楽園の門は 閉ざされているのは あなたの心"

ロドルフォ"喰い合い 道を切り開く"

チャスカ"全て受け止めるの"

ロドルフォ"それこそ 神の使命"

チャスカ"知ってるはずよ"

ロドルフォ"我が身の 苦しみこそが"

チャスカ"愛こそが"

二人"『楽園の門』を開く"


ロドルフォ"祖国の 魂を背負って"

チャスカ"重荷を手放すの"

ロドルフォ"『狼』を名乗ろう"

チャスカ"わかってるはず"

ロドルフォ"血染めの この牙だけが"

チャスカ"愛だけが"

二人"『楽園の門』を開く"


ロドルフォ"おとぎ話にはさせない 散った気高き魂"

チャスカ"愛は抑えられない あなたも 人なのだから"

ロドルフォ"歴史に 刻めば 神は救い給う"

チャスカ"楽園を 阻むのは 悲しき心"


ロドルフォ「貴様に何がわかる!」

チャスカ「わかるよ、イザベラ。アントニの言っていた……もう一人の友達」


【SE:銃声】


ロドルフォ、チャスカを銃撃。アントニ、そのタイミングでようやく墓地へ到着。彼は、雪山を歩くのに慣れていない。


ロドルフォ「私は『狼』! 女の名など、祖国の大地に置いてきた!」

アントニ「もうやめろ、イザベラ!」

ロドルフォ「来てはなりません。貴方は大事な旗印! 剣を取り道を築くのはこのロドルフォの役目。どうか貴方の代わりに血を浴びる栄誉を!」

アントニ「『ロドルフォ』……その名はそんなにも、君を変えてしまったのか」


ロドルフォ"裁きだ 神の意思"

チャスカ"誰にも溶かせない"

ロドルフォ"この牙を 突き立てよう"

チャスカ"悲しき幻想"


ロドルフォ"救いは使命の果てに"

チャスカ"目を背けては駄目よ"

ロドルフォ"選ばれなくては"

チャスカ"あなたの望みは"

ロドルフォ"この身の 苦しみこそが"

チャスカ"愛こそが"

二人 "『楽園の門』を開く"


 チャスカ、傷がたたり膝をついて動けなくなる。


アントニ「チャスカ!」

ロドルフォ「後は……あなたが選ぶだけだ」

アントニ「ダメだ……」

ロドルフォ「さあ命じてください。壊れた祖国を、ここから始めようと! あなたと私たちで、楽園を!」

アントニ「それじゃあの時の繰り返しだ。侵略していい場所なんてどこにも無い! 俺たちの旅はもう終わったんだ!」


 無音。一番の同志であるはずのアントニの拒絶。それを理解できないイザベラ。


ロドルフォ「……なぜあなたが私を拒む? あなたは国家だ。私はだれより国家を愛している。なのに……」

アントニ「何を……言っている。どうしてそんなにも……」

ロドルフォ「ははは! なんだ、そういうことか。やっと気づいたぞ。お前は、偽物だ」

アントニ「イザベラ! 私の目を見ろ!」

ロドルフォ「呪われた土地め! 悪魔になど負けぬ。私は必ず勝つのだ!」


【SE:銃声】


 銃撃。アントニをおしのけるチャスカ。銃撃とともに地鳴り(雪崩)が大きく。

 チャスカ今度こそ、力なく崩れ落ちる。


アントニ「何が悪魔だ……何が国家だ!  呪われてるのは、俺たちの方だ!」


 銃声を聞きつけ、クリストファーが駆けつける。だが度重なる戦いと銃撃で、ついに雪崩が起き始める。


【SE:地響き】


クリストファー「隊長! (二人の決別を察して)アントニ殿、あなたは……!」

ロドルフォ「クリストファー? 見ろ! 私は悪魔に勝ったぞ」

クリストファー「(叱るように)馬鹿野郎、死ぬ気か! 雪崩が来るぞ!」

ロドルフォ「我らの名を歴史に刻むぞ。ここから全てが始まるのだ! ははは……はははは!」


 クリストファーは暗転の間際、ロドルフォを庇うようにして倒れ込む。


【SE:雪崩】

【効果:煙】


暗転。

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