第十二場 夢見た楽園の果て

○500年前・山の麓


 チャスカを探し走り回るティッカは、招かれざる客と出会ってしまう。


ティッカ「(激突して)きゃっ!」

ロドルフォ「なんだ、貴様?」

ティッカ「な、何よ……あんたたちこそ誰?」

クリストファー「やはりここで間違いないな。リュイスを追ってみた甲斐があった」

ティッカ「リュイス? ひょっとしてリュイスの知り合い?」

クリストファー「娘さんよ、この装飾はなんだ。一体何をしている?」

ティッカ「これ? お葬式よ」

ロドルフォ「(嘲るように)この馬鹿騒ぎがか?」

ティッカ「死んだ人は、生きてる人が心配でしょ? 元気だよって、教えてあげるの」


  ロドルフォ、「死んだ、生き残った」に反応し狼狽する。間。ティッカはそれに気づかない。アントニと同じことを聞いたはずなのに、違う反応をする騎士。


クリストファー「(決断を迫るように)隊長殿」

ロドルフォ「……案内しろ」

ティッカ「もちろんよ。これも山の神様の思し召しね」


 ロドルフォ、ティッカの持つ書物へ目を向ける。


ロドルフォ「おい、貴様。その本をどこで?」

ティッカ「これ? アントニが置いてったから……」



【SE:銃声】



 突如ロドルフォが銃撃。クリストファーはそれを機に、ここから先が戻れないことを悟る。燃え上がるような赤い照明で舞台が照らされる。

 脚を撃たれたティッカは呆然と地に崩れ落ちる。ロドルフォは書物を奪い取り、リュイスら登場。


♬此方のエル・ドラド


 という言葉に込めた思いが違う者たちのすれ違い。彼方のエル・ドラドを陰鬱にリプライズ。


ティッカ「……え?」

ロドルフォ「盗人め。これは一字一句、我らのものだ。異教徒が持って良いものではない」

リュイス「ティッカ!」

ティッカ「(息も絶え絶えに)あ……リュイス、来てくれた……」

リュイス「ロドルフォ。銃をおろしてくれ!」

ロドルフォ「生きていたとは、実に結構」

リュイス「この街は、あの侵略者とは違うんだよ!」


【SE:銃声】


 リュイスが言い切る前に、見せしめとばかりにロドルフォがティッカを打つ。致命傷。


ロドルフォ「助けられて、情が移ったか? 騎士殿は心の余裕がある」

ティッカ「リュイス……嘘ついちゃった。あなたの槍、本当は英雄みたいで、すごく……」


 リュイスに渡すはずの花がここで落ち、リュイスが手に取る。リュイス、うつむきティッカへ自身のマントを被せる。


ロドルフォ"道を切り開く 我らの使命 軍人の領分"

     「……案外長く息が持ったな。蛮族は生き汚い」

リュイス「……それがテメエらのやり方か」

ロドルフォ「目が覚めたか? さあ、仕事をするぞ。戻ってこい」


 興味が無さそうに、ティッカの遺体から離れるロドルフォ。当然、リュイスはついてくる、というように。立ち尽くすリュイスのもと、ケミィら戦士たちが駆けつける。


ケミィ「ティッカッ!」


 リュイスを押しのけ、ティッカに駆け寄るケミィ。リュイスはショックを立ち尽くすまま。


ケミィ「……この空の、新しい花だったんだ。それを……子供を、手に掛けたな……!」

ロドルフォ「ほお? 驚いたな、リュイス。コレはオマエのモノだと思っていたが……?」


 ティッカの遺体を足蹴にするロドルフォ。それを見てケミィが猛然と向かうが、ロドルフォ隊が銃を構えたのを見て、リュイスが必死に止める。


ケミィ「……私の、妹だっ!」

ロドルフォ「吼えるな、蛮族風情が!」


【SE:激しい銃声】


 ロドルフォ隊、再び銃撃。立ち向かおうとするケミィを死なせまいと、リュイスが止める。倒れ込む戦士たち。リュイス以外、避けきることができない。何人か、重症を負う。


ケミィ「何故止めた、裏切るつもりか!」

アマル「待てケミィ! リュイス……お前はどっちなんだ」


 リュイス、ティッカの髪を撫で立ち上がる。


ロドルフォ「裏切るだと? ソレは元々こちら側の人間だ」

リュイス「……直々の指名だ。この腕が振るうのは英雄の槍。お前ら悪魔とは違う!」


 かつての仲間との決別を叫ぶリュイス。他のものをかばうように立つ。


クリストファー"構わぬさ 悪魔でも 楽園を 作るため"

ロドルフォ"我が意志は 神の裁き 邪魔者は 捨てゆくまで"


ロドルフォ「……私はアントニ殿を探す」


 もはや興味がなさそうに踵を返すロドルフォと、それらを守るように並ぶ船員しんりゃくしゃたち。


侵略者たち"この地に楽園を!"


 だが、侵略者たちもリュイスとケミィを警戒して攻めあぐねる。圧倒的な戦力差に、戦士たちは、ここで命を捨てる覚悟を決める。戦士Bはティッカの遺体を戦場から離れたところへ安置する。


ケミィ「……アマル、子供たちは」

アマル「避難させてる。チャスカはアントニが追ってる」

ケミィ「そうか。……頼んだぞ」

リュイス「ここは任せろ。絶対に通さねえ!」

アマル「……さらばだ、友よ! !」


 アマル、去る。同胞同士が闘う姿に耐えかねたアンリークが、クリストファーを説得しようと前へ出る。だがクリストファーは分かち合えぬ覚悟を決めており、侵略者たちは聞く耳すら持たない。


クリストファー"掛け違えた 歯車の果て"

アンリーク"分かり合える 俺たちは"

侵略者たち"綺麗事 作るのは 我らのエル・ドラド"

クリストファー"我らもまた 烏合の衆だ わかりやすい 敵が必要"


リュイス「! 壊そうってなら……てめえらまとめて沈めてやる!」


 リュイスの言葉が引き金となり、街は戦火に飲まれる。リュイスやケミィが一騎当千の活躍をするが、武器や文明の差がじわじわと戦士たちの命を蝕んでゆく。入れ替わりに戦う中、一人、また一人と戦士が致命傷を負って退場していく。


ケミィ"紅に染まる街が"

リュイス"諦めはしない"

ケミィ・リュイス"守ろう 未来を 託そう 子供へ"

侵略者たち"我々が作るのだ"

ケミィ・リュイス"命捧げよう!"

クリストファー「放て!」


全員"海の民の楽園を!"

  "世界の果て どこまでも 夢を追う 楽園を"

  "しあわせを ただそれだけ 命かけ求めてる"

空の街の人々"さまよっても 弱くても"  侵略者たち "さまよえば 弱くては"

全員 "誰だって"

空の街の人々"笑って 暮らせるさ"  侵略者たち  "笑える場所などない"


 歌の終わりとともに、侵略者はリュイス、ケミィを刺し殺す。リュイス・ケミィは背中合わせに、あっけなく息絶える。


侵略者B「船長。次は」

クリストファー「散るぞ。全て殺せ」

侵略者たち「イェス、サー」


 散り散りになる侵略者。クリストファーは一人立ち尽くす。他の道がありえたか一瞬思案するも、彼はついて行くと決めた主・狼の下へと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る