第八場 再会

○500年前・山間

 アントニを追い、あたりを闇雲に探し回る船員たち。気力を振り絞るリュイスを心配し、アンリークとフェランは彼を休ませようとする。


【SE:鳥の声】


アンリーク「……リュイス、今日はもう休もう」

リュイス「アントニはきっと生きてる」

フェラン「もちろんだ。先にお前が倒れちゃしょうがないだろ」

リュイス「でも!」

アンリーク「リュイスだって俺達の仲間なんだ、心配くらいさせろ」


 その言葉に言い返せず立ち止まるリュイス。


アンリーク「(なだめるように)な。少し、話でも聞かせてくれよ」

リュイス「アントニは……俺の家族だ。ただ一人の」


♪海辺の町

リュイス「俺たちの国が滅んだ戦争……始めの頃だ。ある日いきなり、家族が全員死んだと聞いた」


リュイス"海辺の町 潮風が吹き寄せる 空っぽの家に一人"

    "子守唄をうたう 母の背中を もう覚えてはいない"


リュイス「親戚も使用人も、一人残らず逃げてた」

フェラン「(義憤にかられるように)そんな、ひでえ!」

リュイス「貧乏貴族の子供なんてそんなもんさ」


 かつて家族の後を追おうとしたリュイスは、間一髪、アントニに救われた。その時のように、お互いの危機には必ず出会えるとリュイスは信じている。

 それゆえ、かつての験を担ぐように、リュイスは崖の淵、身を投げるような体制であるき始める。アンリークとフェランは、はじめ状況がわからず、すぐに飛び出せず戸惑ってしまう。


リュイス"屋根の上に唯一人 身を刺す夜風の下で"

    "天に召された 父にまた会えると"

    "この身を 空に預けた"


 そこへ血相を変えたアントニが飛び出し、落ちそうなリュイスを支える。


リュイス「(アントニを見て)……懐かしいな」

♪鉄の絆

リュイス「あのとき助けてつないでくれたから、俺は強くなれた」

アントニ「リュイス!」

リュイス「言っただろ? 次は俺が助ける。どんな道だろうと……死んでも守ってやるって」

アントニ「生きてて……良かった」

リュイス「そっちこそ。楽園を作るまで死ねない。だろう?」

アントニ「ああ……約束、したからな」


リュイス"この手に感じる 熱い思いが 大地に心つなぎ留めた 大空より 大事なもの"

アントニ"大地の果てで吹き抜けていた 故郷の風は消えそうで 瓦礫の中やっと見つけた"

リュイス"すみか亡くした 鳥のもとに"

アントニ"ただ一人の君 孤独な鳥に"

リュイス"光射す 教えてくれた"

アントニ"空を見上げ"

二人"約束した 生きていこうと誓った"

二人"心を繋いでいるのは 鎖よりも 確かなもの"

  "この絆は 誰にも切れない 鉄よりも固く 離れない"

  "いつか感じる 暖かな風を夢見て 自由になろう"

  "空を越えて 鳥より高く 風を切って 羽ばたこう どこまでも"


リュイス「んで、その子は?」


 歌が終わった舞台。見守るアンリーク、フェランに加えてこっそりチャスカがまざっている。


チャスカ「チャスカよ! アントニ、ずっとリュイスを心配してたの。夢でうなされてるくらいに」

リュイス「(冗談めかして)夢ぇ?」

アントニ「あー、ええと。俺は、彼女に、助けられて……」

チャスカ「私達の村で暮らしてるの! 皆も来るよね? 私、知らせてくる!」


チャスカ、走り去る。

船員たちはアントニを茶化しながらも、「楽園」を見つけた予感に浮足立つ。


【SE:鳥の声】


フェラン「(オーバーに)なるほど、帰って来ねえわけだ」

アントニ「(暗く)……でも、俺達は侵略者だ」

リュイス「……どうしたいんだ?」

アントニ「やさしい村だ。……壊したくない」

リュイス「じゃあ、やめようぜ!」


 こともなさげに、リュイスが手持ちの武器を捨てる。それを見て、フェラン、アンリークも続く。


アントニ「えっ?

リュイス「侵略者は今日で廃業。

アンリーク「ヨーソロー! 行き先変更は操舵士にお任せよ」

フェラン「海の男の働きっぷり、見せてやらねえとな!」

アントニ「皆……」


 船員たち、目配せをする。多くを言わずとも、「争わずに生きたい」という思いが通じ合う。


リュイス「頭、ちょっとは切り替わったか?」

アントニ「ああ。ありがとう」

リュイス「へへっ、それが聞きたかった!」


 チャスカたちを追うように、船員たちは村へと迎えられていく。

 暗転。

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