第七場 生きる意味、死ぬ意味
○五百年前・空の街・アントニ居室
アントニはチャスカのために曲を書くことにした。ケミィは街の一員となったアントニに部屋を提供するが、その持ち主は死んだばかりだった。狼狽するアントニに、ケミィは山の民の死生観を歌う。
ケミィ「入るぞ。……結局引き受けたのか。人が良いな」
アントニ「別に良いだろ。俺にできるのは、これくらいさ……それより悪いな、家まで用意してもらって」
ケミィ「何、昨日家主が死んだからな」
アントニ「……良いのか、それで」
ケミィ「(あっけらかんと)ちょうど良かっただろ?」
アントニ「そうじゃなくて! その人のもの、残したりしないのか?」
ケミィ「身体は山へ還した。あいつはもういない」
アントニ「そうだけど!」
ケミィ、怒るでもなく淡々と語る。少年を諌める年長者のように。
ケミィ「だからこそ、遺されたものを受け継ぐんだ。生きた私達が進み続ける。それが弔いなんだ……受け入れられないか?」
アントニ「皆が大事にしていることは、わかるよ。でも、なんか……寂しいな」
ケミィ「(座り込んで)残したい願いは、子供の名前に込める。次の世代に託せば、『魂の日』に帰る楽しみにもなる」
アントニ、ケミィの話を聞き、楽譜へ歌やメモを残す。譜面をもたない空の民は、それがなんであるかわからない。
ケミィ「……ところで。さっきから何してるんだ?」
アントニ「この国の考えは新鮮だからな。思いついた歌を、楽譜に書いてるんだ」
ケミィ「歌? この蛇みたいな模様が?」
アントニ「……まさかこの国、楽譜がないのか?」
ケミィ「ガクフ?」
アントニ「驚いたな! それでどうやってこんなに音楽を残してたんだ?」
ケミィ「聞いたら覚えるだろ?」
アントニ「それじゃ皆が居なくなったら忘れられちゃうだろ! 俺たちの国では、こうやって形にして残すんだ。音だけじゃない、歌詞に込められた気持ちや、歴史もな。」
「残す」という言葉に反応するように、ケミィは花を一輪取りゆっくりと立ち上がる。ケミィ自身もまた、かつては『暁の乙女』として、今は戦士として、代々の魂を受け継いでいる。
ケミィ「……気持ちか。それなら、よくわかる」
アントニ「綺麗な花だな」
ケミィ「太陽みたいだろう? 山に帰った人は、これを目印に帰ってくる。帰る場所をなくさないために、私達戦士がいるんだ」
♬太陽の花言葉
ケミィ"静かに 時が過ぎる街 空のみもとに 広がる大地に"
"私が ここで戦う理由 つながる誰かの 昔の願い"
"どこから聞こえる泣き声 失われる生命 子供の笑顔"
"この手は 守るための技 かつての乙女も 今は戦士さ"
"生命の 暖かさは 捧げたものの数で決まる"
"そう誓った戦士の思い
"ここにある温もり 荒れ果てた地に"
"咲いてる 確かな 太陽"
"大地に 帰ってゆく魂 太陽を咲かせる 新たな生命"
"戦士たちの気持ちが私の背に"
"怖さも 愛しさも 受け継いでる"
"見えるだろう 温かな この街に咲く"
"魂を 呼ぶ 太陽の花"
アントニ、ケミィの歌を聞き漏らすまいと譜面に残す。
アントニ「そんな弔い方も、あるんだな」
ケミィ「……それで、曲が残るのか?」
アントニ「ああ。ちゃんと作曲者に『ケミィ』って書いといたよ」
ケミィ「はは。名前の残し方も色々だな」
歌を通して意気投合するケミィとアントニ、そこへ、急いでチャスカとアマルたちが入ってくる。
チャスカ「アントニ!」
アマル「うおっ、ケミィもいる。珍しい」
ケミィ「どうした?」
チャスカ「見たこと無い人達がいたの!」
外敵を思わせる言葉に、ケミィがすっくと立ち上がる。
アマル「お前さんとそっくりの格好だ」
アントニ「なんだって!」
アントニもその言葉を聞き立ち上がり、チャスカへ目配せする。
チャスカ「すぐ行こう!」
アマル「待った! チャスカは街の皆に伝えてくれ」
チャスカ「でも……」
アマル「皆も落ち着けなくちゃな。頼んだぜ」
アントニとチャスカ、それぞれ舞台から走り去る。戦士二人は、万一の事態――戦いになる可能性を感じ目を合わせる。
ケミィ「アマル」
アマル「人の良さそうな顔だよ。だが、今度のは強いな」
ケミィ「もしもの時は……」
アマル「なぁに、俺たちだけでも大丈夫さ。姐さんはティッカの側に居てやんな」
戦士たち目配せをし、アントニらと逆側へハケていく。
暗転。
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