第五場 暗雲
○500年前・海辺
視点は代わり、漂着した海の民。旗印たるアントニを失ってはならぬと奔走するロドルフォとリュイス。しかし、アントニを必要とする理由が大きく異なっていることに、彼らはまだ気づいていない。
【SE:さざなみの音】
クリストファー「(
船員A「(咳き込んで)まったくひでえ海だ。神様に感謝だな」
船員B「けどよ、船はもう駄目だな」
船員たち、寂しそうに船の残骸や散らばった荷物を眺める。
クリストファー「構わん、元より覚悟の上だ。(傷ついた船員たちの様子を見回して)負傷者が居れば手当を。残りは、無事な物資を集めろ!」
船員たち「イェス・サー!」
散り散りになり、無事な武器や弾薬を整理していく船員たち。一人アントニを探し続けていたリュイスは、業を煮やしクリストファーらに食って掛かる。
リュイス「おい、そんなことしてる場合か。早くアントニを探さないと!」
ロドルフォ「無論だ。お前たちの隊には先遣隊を任せる。頼んだぞ」
クリストファー「地図もない異国の地だ。まず夜明けを待って……」
リュイス「(かぶせるように)そんな悠長なことしてられるか! アンリーク、フェラン! すぐ行こう!」
即断即決のリュイスと対象的に、不安そうなフェランと、飽くまで上官の支持を仰ぐアンリーク。クリストファーはアンリークへうなずき、フェランへ食料など簡単な物資を分け与える。船長の許可のもと、船員二人はリュイスを追う。
ロドルフォ「武器弾薬が整ったら、我らもリュイスたちを追う。アントニ殿のもとへ馳せ参じるのだ」
クリストファー「そう、うまく行けば良いがな」
ロドルフォ「アントニ殿は王になられるお方! 神のご加護で、必ずやご無事でおられるだろう」
クリストファー「……アントニ殿、か。ロドルフォ隊長よ。あなたは彼と、どれだけ話をした?」
♪使命
盲目的にアントニの、ひいては海の国の正しさを信じるロドルフォ。神への信仰の名のもとに、一つの道しか選べなくなってしまっている。ロドルフォの決意と狂信の歌。船員たちは舞台から去ってゆく。
ロドルフォ「話など! 彼こそ国家の礎。そして私は愛国者だ。我らの間に、分かち合えぬものなどない!」
ロドルフォ"天を仰ぎ 目を閉じる 浮かぶ景色は
"踏みにじられた大地 異教徒の裏切り"
"この名も捨てて 誓いを胸に 浮かぶ景色は
"迷うことはない たどりついた最果て 繁栄をこの手に すべてをつかむまで"
"神よ救いを与えたまえ 哀れなこの民に"
"これが試練なら乗り越えよう 同胞と手を取り合い"
ロドルフォ「我々は弱かった。だが試練を経た今こそ……我らが奪う側に回るときだ」
ロドルフォの決意に、一歩踏み出すクリストファー。道を見直す最後のチャンスだ、とばかりに、ロドルフォへ問いかける。
クリストファー「その道に迷いはないのだな」
ロドルフォ「無い!」
ロドルフォ"神よ救いを与えたまえ 哀れなこの民に"
"新たな世界を築こう 未来を作るために"
盲信するロドルフォを見て、暗い予感を覚えるクリストファー。それでも彼は、自身を任命した主を見捨てまいと決断する。
クリストファー「なら着いていくさ。どんな道になろうとも」
ロドルフォ「……長い旅だ。祖国の空は、もう見えぬのだな」
クリストファー「少し、休むと良い。宵の番をしよう」
弱音を吐くロドルフォを守るように、クリストファーが野営の準備をする。
二人を舞台に残したまま暗転。
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