第三場 楽園の少女

○主な登場人物

チャスカ

「空の街」一番の歌い手。

好奇心が強く、時々大人も驚くほどの行動力を見せる。


ケミィ

「空の街」戦士の長にして、先代の「暁の乙女」(踊り手)。

戦で散った父の跡を継ぎ、当代最強の戦士として街を守っている。


アマル

ベテランの戦士。攻めるより守る戦いを得意とし、武器は持たない主義。

ケミィの先代のときから戦士として戦っている。


○500年前・「空の街」のはずれ、御山の麓

――「海の民」の船団が大嵐に飲まれた少し後。彼らの行き先であったエル・ドラドこと「空の街」では、戦士たちが平和に見回りをしていた。大きな内戦が終わって長く経ち、牧歌的な雰囲気。過酷な高山に暮らしながら、人々は自立し自由に生きている。


【SE:鳥の声】


 槍を持ち見回りをする戦士たちに隠れて、こっそり少女・チャスカがついてきている。


チャスカ「嵐の後って、いい天気ね!」

アマル「(呆れて)チャスカ! お前さん、また着いてきたのか?」

戦士B「あねさんに見つかったら大目玉だぜ!」

チャスカ「大丈夫よ、見つかるかどうかが勝負なの」

戦士A「(苦笑して)まあいいだろ、ここらは安全だ」

アマル「んじゃ、頑張って見回りといくか!」


♬誇り高き戦士たち

 街を愛する戦士の歌。実力への自信と郷土愛。荒っぽくも楽しげな、見回りの歌。

 アントニの来訪前なので弦楽器を用いず、シクリアーダ風の明るい曲調。


アマル"見ろ 太陽が 今日も輝く"

戦士二人"御山おんやま 空高く 見下ろしている"

戦士たち"この拳で 追い払うのさ どんな敵でも 空の街を 守るために"

チャスカ"誰よりも 素敵な この街の 門番さん"

戦士たち"あたぼうさ 俺たちは 誇り高き 自由の戦士"

全員"恐れるものなど 何もない この街には"

  "友のため 愛するもののため 戦う 戦士がいる!"


 おどけてポーズをとる戦士たちを、誇らしげに見るチャスカ。


チャスカ"いつまでもあたたかな街 守り人に愛される街 "

戦士たち"外敵なんて 恐れない"

全員"戦いに疲れて 夜が更けても いつかくる 朝が必ず"

  "痛みも 悲しみも忘れて 新しく始めよう"


 賑やかな後奏の中、一人の戦士が遠目にケミィが走ってくるのを見つける。チャスカは戦士たちの後ろに隠れ、楽団はケミィの声に驚いて演奏を止める。

ケミィ「おい! ……おい。なんか今、多かったよな。歌ってるやつ」

アマル「(ごまかすように)よぉケミィ。そっちはどうだった?」

ケミィ「……お前ら、今日は随分仲良しだな?」

戦士A「あたぼうよ!」

戦士B「俺たちゃいつだって仲良し……」


 ケミィ、何回かに分けて戦士のバリケードをどかしていく。こりゃかなわんとばかりに、コミカルに倒れる戦士たち。


戦士B「(わざとらしく)うわあー!」

チャスカ「(引きずり出されて)あー! もう、駄目じゃない!」

ケミィ「駄目なのはお前だ! チャスカ、何度言ったらわかる。お前は大切な「乙女」の一人なんだ!」

チャスカ「もう、うるさい! 私だってもう大人よ。外の世界を見たいの!」


 そうだそうだ、と茶々を入れる戦士たちを無視して思案するケミィ。自由にさせてやりたいという気持ちと、チャスカを守らなくては、という使命感との板挟み。


ケミィ「……駄目だ!」

チャスカ「分からず屋っ!」

ケミィ「うわっ……おい、待て!」


 チャスカ、ケミィを振り切り走って退場。戦士たちはその様子を傍観している。


戦士A「おお、足早くなったな」

ケミィ「止めろよ!」

アマル「止まるかよ。見たろあの目を。もう子供じゃないんだ」

ケミィ「けどなあ……ん? あれは……」


 チャスカが走り去っていく先は山の麓。船の残骸や漂流者にいち早く気づいたケミィは、侵略者を追い払うために駆け抜けていく。


ケミィ「おい、チャスカを追うぞ!」

戦士B「な、なんだ、どうしたんだよ!」


 戦士たちがケミィの後に続き、舞台上から去っていく。

 暗転。

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