第3-10話

 不思議とそこだけは壊されていなかった。

 遠回りしてやっと辿り着いた公園は、懐かしさと共に廃れ切った物悲しさを感じさせる。

 遊具も少なく、ブランコに滑り台、シーソーにベンチといった公園にあるであろう最低限のものと、やや大きめの、子供が二人ばかり入れそうな土管が二つほど雑に置かれていた。

 手入れなどされていなく、好き放題に伸びる雑草はマリカの膝丈まであり、雨水を纏ってぴんと瑞々しく濡れている。


 雲に覆い隠されている空から、あと少しで陽が落ちるであろう黄昏時。

 マリカは公園に足を踏み入れた時、奇妙な感覚に襲われた。

 なんの変哲もない廃れた公園なのにどこか空気……いや、公園を取り巻く気配というものが重く、悲しく感じられた。まるで泣いているかのような。それと同時に自分の一部がそこにあるような安堵感が――片割れを見つけたような感覚がマリカの中にすうっと息を吸うように入ってくる。

 ここにいる。マリカは自らの直感を信じ、乾いた喉から張り裂けんばかりの大声で名を呼んだ。


「リンドウッ!!」


 しん、と静まり返った公園から声が抜けていく。誰の反応もない。

 けれど、彼はきっとここにいるはずなのだ。


「リンドウッ! どこにいるの、返事をしてっ! リンドウ!!」


 薄墨を引いた夜の気配がひっそりと歩いてくる。

 マリカは薄暗さに心細さを感じつつも、それを押し殺して膝丈まで伸びる雑草を踏み潰して駆け出した。

 雨水が纏わりつくのも気にせず、夜色の黒い瞳は、順々に公園を細かく見渡す。


 滑り台、ブランコ、ベンチ。目につく場所にはいない。

 なら、やはり。


 確信めいた思いに呼応するように、ざりっと擦るような音と人の気配がマリカの耳に届いた。

 そちらを振り向く。まん丸の瞳の中に、確かに人の影が映し出された。


「リンドウ……?」


 弱った体を引きずるように影はのっそりと土管から這い出てきた。


「……お、姉ちゃん……? マリカお姉ちゃん……だよね?」


 声は酷く弱弱しくて。

 体は酷く汚れていて。

 けれどその人こそ、マリカの一番大切な人で。


 目は泣き腫らしていて。

 鼻から鼻水も垂らしていて。

 とても酷い顔だったけど、――きっと自分も今同じような顔をしているに違いないから。


 マリカの双子の弟、リンドウがそこにいた。


「リンドウ……!!」


 彼の前では見せたことのない涙が、マリカの頬を濡らしていた。


 

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