第3-5話

「やぁやぁやぁ、君がαだねぇ~。本当に良かったよぉ。死んでるって聞かされたからがっかりしちゃったんだけど、さすが怪物の子供だねぇ。あの状態から生き返るなんて! んー、ふむふむ。傷口もないし、動作に異常もなさそうだね。さしずめ君の能力はぁ~」


「……博士、博士。 曼珠(マンジュ)博士!」


 強い語調が気に障ったようで、白い人は視線だけを男に向ける。


「ああ! もう何だい君はぁ! 人がせっかく観察しているというのにぃ~。短気な男はモテないゾ、金雀枝 環(エニシダ タマキ)君?」


「それは今関係ないでしょうよ。それよりαがびびっています。放してやってください」


 タマキ、と呼ばれた灰色の男がマリカと白い少年あるいは少女――マンジュの間に割り込み、言葉を挟んだ。

 とってつけたような笑みを崩さず、マンジュは子供の仕草そのもので小首を傾げる。ただあまりにも不自然めいたそれはまるで首が折れた人形を連想させ、マリカは思わずタマキの背にしがみついた。

 マンジュはその様を繁々と観察し、小さな口を尖らせる。


「あれれ、警戒心が強いって聞いてたのに君には早速懐いたのかなぁ? タマキ君もなんだか優しいし~?」


 落ち着きのある若葉色の瞳だが、今にしてみれば絵具を乱雑に塗り固めた無機質な眼に見えた。

 細い顎に指を押し当て、数秒考える素振りをしたマンジュは「なるほどぉ~」と間の長い声で納得を独り言ちる。

 華奢な腕が音もなくタマキの胸ぐらを掴み上げると、子供らしからぬ嘲笑めいた声でぽそりと白い人は言った。


「もしかしてぇ、αと自分を重ねてたり? 人の心が読めるっていうのも気苦労が絶えないねぇ?」


「――っ! テメェ……」


 沸き立つような怒りの声はしかし別の音に遮られることになる。

 空気を焦がすような緊張を断ち切るように、なんとも快活なメロディがその場に流れたのだ。

 場の状況に置き去りにされているマリカだが、突然の音に記憶の一部が反応する。


「戦隊ものの、曲……?」


 マリカの呟きをタマキは気にしたように一瞥だけをくれると、再び目の前の白い人を睨みつけた。

 だが当の本人は気にした風もなく、ポッケから電話を取り出し着信音を止めて口を開く。


「もしもぉーし? 今取り込み中なんだけどぉ。……ん? ……ええ?」


 この時初めてマンジュは年相応ともいえる驚きを口にしたのかもしれない。

 タマキに庇われるように背に隠れたマリカは、そんな彼、あるいは彼女を目にして、薄ら寒い何かを感じていた。


(……あの人、何か嫌だ……)


 好き嫌いという枠から大きく逸脱した生理的嫌悪。近づきたくない、喋りたくない、関わりたくない。初対面の相手だというのに深層意識にこびり付いた本能がその人を拒絶している。

 無意識に背を握っていた手に力が籠る。当然、というべきか、マリカの反応に気付いたタマキは本当に小さな声でマリカに囁いた。

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