第1-5話

「サイキッカー……。超能力者、か……」


 無意識に呟いた独り言とともにスプーンで粥をすくうが、カツンと食器同士がぶつかる音が鳴り、いつの間にか食べ終わっていたことに少し驚く。

 最後までしっかりと味わうことができなかったことを後悔しつつも、それより“サイキッカー”についてリンドウは完全に意識を持ってかれていた。


 “サイキッカー”とは、今まで架空とされていた超常能力のこと、即ち“超能力”を扱う人間のことを指す。

 いつ、どのように彼らが能力を得たのかはわからない。けれど未知なる超常を有する彼らを説明するために、学者や政府関係者は彼らを“病気”と一言で表した。

 当然この扱いについて反発は大きかった。特にサイキッカーの多数が十代の若者に見られるため、感情の多感な時期の子供は病気扱いにショックを受けると同時に反発心が強く芽吹いた。

 そしていつしか“サイキッカー”は超能力を操る異能の集団、反社会的組織へと発展していく形になる。

 これが日本で現状最も深刻な社会問題のひとつである。


 サイキッカーについて誰もが知っている一般常識をかろうじてテレビで知ったリンドウだったが、それでも多くのことを彼は知らない。

 決定的なことをリンドウは知らなかった。

 故に、彼は少年のような幼い――抱いてはいけない憧れをそれに対して持ってしまっていた。


(あの力さえあれば……)


 どくり、と心臓が脈打った。

 熱い血潮が全身をくまなく駆け巡り、体中が熱を持ったように火照る。興奮したように頭と視界がくらりと回り、軽い嘔吐感を覚えた。

 どうやら熱が出てきたようだ。頭が痛い、気持ち悪い。

 けれど反比例するように脳の芯が氷のように冷え切っていた。

 抑えていたはずの獣が目を開き、唸り声をあげる。


(力さえあれば、叔母からマリカを守れるのに……)


 ――どうやって守る?

 獣が自問した。


 マリカを傷付けないようにするためには――。

 リンドウは己の問いに答えた。


(叔母を殺す、しかない……)


 少年の内で獣が覚醒したように昏い咆哮をあげた。

 リンドウの瞳が闇色のような底冷えする光を放つ。


「殺すしか……ないんだ……」


 言い聞かせるようにリンドウは悪しき言葉を口すさんだ。

 その瞬間、粥の入っていた陶器の器に亀裂が入る。

 それはまるでリンドウの心を現したかのような、今にも砕けて壊れてしまいそうな傷だった。

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