第1-4話

 重い気持ちのまま、リンドウは粥を持って居間へと移動する。

 自分達の部屋で食べるべきなのだろうが、あの黴臭い部屋では食欲が涌かない。それに叔母のいない時間だけは居間に置いてある唯一の娯楽、テレビをこっそり見ることができるのだ。

 リンドウは粥を一口口に含みながらテレビの電源を入れる。

 やはりマリカの作る料理は美味しい。味付けもさることながら、食べると暖かい気持ちになれる。

 粥を啜りながら、横目でテレビを見る。何気なくつけた昼のワイドショーが一転し、【臨時速報】という字幕と共に二人のキャスターに切り替わった。


―――


『臨時速報です。今日未明、○○県××市の繁華街でサイキッカーによる爆破テロが確認されました。これによる負傷者は二十八名。そのうち十一名が意識不明の重体で緊急搬送されています』


 大げさな手ぶりを交えてキャスターはことのあらましを視聴者に訴える。

 専門家らしき老年の男性が深い皺を眉間に刻んで、咎める口調で事件を語っていた。


『大変嘆かわしい事件ですね。十代の若者に見られる“突発性超感覚的知覚症候群”が現代において大変な社会問題までに発展しております。そもそもこの病状は、今まで空想の存在に過ぎなかったPSI――わかりやすく言えば超能力と言われる能力のことです。この人知を超える力に目覚めた若者の一部が己の力を誇示するためだけに反社会行動を繰り返しており――』


 長々と誰もが知っている解説を繰り返す専門家にキャスターは事件の流れに沿うような質問を投げかけた。


『しかしPSI集団、確か“サイキッカー”と呼称されますが、今回の事件どのような能力が使われたのでしょうか?』


『はい、繁華街における大規模な爆破テロですから、かなり攻撃的な能力とみて間違いないでしょう。私の予想では火を操る“パイロキネシス”の能力者だと考えますね。それもかなりの力を持った者でしょう』


『なるほど。するとやはり――』


 キャスターの言葉を遮って、画面に【速報】のテロップが点滅する。

 画面内でスタッフから口早に情報が伝えられ、血相を変えたキャスターが慌ただしく口を開く。


『えー、たった今入った速報です。今日未明に起きた繁華街爆破テロ事件ですが、容疑者と見られる若者から警察に向けて、さらなる犯行予告が届いたそうです! 予告書には“茨を纏った黒百合の紋様”が描かれていたそうですが、これは……』


 その言葉を口にした瞬間、会場内の空気が底冷えするのが感じられた。

 その場にいたもの全員が「やはり」と確信めいた思いを胸に秘めるも、決定打を口にするものはいなかった。

 会場の息が詰まるなか、場を持たせるためにキャスターが口を開きかけたが。


 リンドウはそれを聞く前にテレビを消した。

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