一章 十七話 力を求めて

【力を求めて】

 彼が戦う力を求めていることは知っている。

 でも私は何も助けない。

 もう彼に命を奪わせたくなかったから。



ハクの言ったとおり、あれから何度も獣たちと遭遇し戦闘になった。

そのたびにハクは不思議な力の詠唱に入り、ぼくは詠唱中のハクを守るためにナイフを振るった。

今もまた、ぼくのすぐ目の前にいつか見た太陽の絵のように表面がゆらゆらと揺れた赤い玉が落ちていく。


ゴォォ。

赤い玉が獣に落ちた瞬間、炎は大きく燃え上がり周囲の獣たちもまとめて焼き尽くす。

ぼくのすぐ目の前にいた獣も燃やされるが爆風は軽く、やけどするほどの熱を感じることもなければ煙で息が詰まることもない。


きっと、ハクがぼくに力を使ってくれているのだろう。

詠唱時の時間稼ぎ以外で役立てない自分に歯痒さを感じるが、現状それしかできないものは仕方ない。

片手は拳を固く握りしめながらも、いつでも戦えるようにナイフを構え煙の先を睨む。


晴れていく煙の隙間から見えた白い柱と沢山の本に、「自分も戦えるようになるのかもしれない」と淡い期待を寄せながら。

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-SIKI- Rau @clown_teller

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