最終話
「じゃあねー!」
みんなが口々に言って帰っていく。
しばしの沈黙。
「じゃ、始めようか。私、この席にいるからわからなかったらいつでも聞いて。」
ついに恐怖の勉強会が始まってしまった。君島は私に気を使って遠い席に座ってくれた。
数学を始める。…わからない。でも、聞きたくない。…いや、話したくない。
キョロキョロと周りを見回す。君島がこっちを向く。
「…わからないの?」
「…うん。」
短いやり取り。私は早く帰りたい気持ちで正直に述べる。
「どこ?」
私に問う。
「ここ」
答える。
ああ。ここか。そんな独り言をつぶやき、君島は私に解説を始める。
教え方がうまいのだろうか。どんどん進んでいく。
「私ね。」
唐突に話し始めた。
「私ね。パパが離婚しているの。小さい頃に。寂しかった。ママは精神が不安定になって私を殴るようになったの。身体も心もボロボロ私は夢見がちになってありもしない『魔法』に頼るようになった。近くの書店で買った黒魔法の入門書は本物だった。そして、私は魔法にのめり込むようになった。そんな時、一人の女の子に出会ったの。彼女の名は『大森絵美里』」
…私?最初は何を突然。どうでもいい。そう思っていた話にいつのまにか私はのめり込んでいた。
「私が、黒魔法に1番はまっている時だった。まだ、舌足らずの言葉で聴いてくれた。『なにしちぇるの?』この子に嫌われるんじゃないか。そう思っても私の口は正直だった。『黒魔法……覚えてるの。』瞬間顔が変わった。やっぱり嫌われるんだ。そう、幼いながらも悟った。けど、『しゅごい!しゅごい!絵美里にも教えて!』そう言ってくれた。きっと彼女は『魔法』という言葉に反応したんだと思う。それから私と絵美は、一緒にいるようになった。いつでも。どこでも。」
っ!頭がズキズキする。何か思い出してはいけないという感じがするけれど。…そういえば昔「かおりん」って子いた気がする。君島の顔が笑っいる。よほど嬉しかったのだろう。
「でも、事件は起きた。1つ何かの魔法を試そうって思って2人でやってしまった。
私だけ、成功した。コントロールできなかったから、絵美に当たってしまった。絵美は倒れて救急車で運ばれた。あっという間のことでポカンとした。『何があったの?』沢山の大人に聞かれた。けれど、私はずっと泣きじゃくっていた。とんでもないことをしてしまった。そう思いながら。でも、事態は変わることなんてなかった。いや、それよりもひどかった。…絵美の記憶が消えてしまっていた。絵美と絵美の家族は静かにどこかへ引っ越してしまった。」
涙目の君島。頭痛はさらに酷くなる。
「でも、前に、絵美は私に言ってくれた。
『もし、私たちが離れても、お互いにお互いのこと忘れても友達だよ!かおりんのしゅきなこときょーかんしてくれる人ぜーったいに現れるよ!』って。その言葉を信じて、私は今日まで生きている。…何言ってるんだろうね。私。大森さんに。」
君島はへにゃっと笑い、涙を拭いた。
スッと頭の痛みが引いていく。それと同時に数々の思い出がありありと浮かび上がる。好きな男の子に二人で告って一緒に振られて一緒に泣いた。笑いあった。
沢山の共有した思い出が溢れてくる。
「…かおりん…なの?」
「えっ。絵美ー?…そ、そんな、わけ、ない、よ…。大森さんが絵美…なんて…。」
私は確信した。
「かおりん!晃くんを好きだったかおりんでしょ!一緒に告って振られたよねー。
ねー知ってる?アイツ今、フリーらしいよ。自慢が女子二人から告られたっていう。wwいつの話してんだろーね。ハハ、バカらしいね。」
乾ききった喉から掠れる声が出る。涙声。視界が次々と生まれてくる水でいっぱいになっては落ち、溜まっては落ち。繰り返している。私もへにゃ、と笑う。
「…ふふ、懐かしいね。そっかー晃くん今そんなこと言ってるんだ。ほんとバカだね。」
ねえ、ごめんね。今まで『悪魔』扱いしててごめんね。
流れてくる涙がそう言っている気がする。
「いいの。絵美は悪くないよ。」
言葉に出していないのに、かおりんはそういう。少し調子がよすぎるかもしれない。急にかおりんだから和解するのは。でも、仕方がない。今は今。私たちは今14歳。これからもっと大きの道を歩むことになる私たちは今からでも仲良くなるのは遅くないんじゃない?言葉だけの気持ちのない関係なんて無意味。友達になるなら、最後まで信頼できる人がいい。私は、嫌われても、いい。また、かおりんと一緒に居られるなら。今の友達を捨てても、いい。私はあのひのかおりんの言葉が胸に刺さって、取れない。
『たとえ、お互いに『親友』ができたとしても、私たちはずっと「真友」だよ。ううん。ただの「友達」でもいい。だって友達には優劣なんてつけられないもん。』
その通りだ。友達に優劣なんて。「親友」だね。なんて言葉で順位を決めるべきではない。友達は全員横並び。みんなと手を繋いで生きていけばいいじゃないか。
私たちは日が暮れるまでお互いを抱きしめ合いながら泣き続けた。お互いに過ごせなかった時を埋めるようにー。
忘れ去られた記憶 花里桃音 @2-1saikou
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