第3話 火星のアンドロイド
ここ数年の間に火星に移住した地球人はかなりの数に増えた。その影響もあり、火星にある地球人居住区も年々拡大されていた。火星は地球からの技術の輸入により爆発的にその文明を発展させ、去年には火星初のアンドロイドを誕生させた。やはり地球のアンドロイド技術をモデルにしたこともあり、その姿かたちは地球人に酷似している。それから火星、そして地球を生産ベースとし、量産が行われ今では火星人とアンドロイドの比率は元々火星人そのものの数が少ないということもあるがほぼ1対1になっていた。
火星は地球から近いこともあり、短期ステイでよく世界ホテルが利用される。アンドロイドが普及し始めて以降、その旅行にアンドロイドを同行させる火星人も増え地球での様々なやりとりを火星アンドロイドが代行するのも珍しくなくなった。しかし、先日は少し違っていた。
「支配人代理、来週火星から6名お客様がいらっしゃいます」
「6人ってことは火星人3人の付き添いアンドロイドが3人か」
「いえ、それが今回は全員がアンドロイドのようで」
「全員がアンドロイド?」
このケースは初めてだった。基本的に火星ではアンドロイドは火星人との主従の下活動をしている。そのため、常時と言って過言ではないほど、火星人と常に一緒に行動をしている。アンドロイド単体で行動をする、ましてや地球への星間移動を行うということはあまり想像がつかなかった。
「来週ってことはもう火星を出発してるよな」
火星からやってくる6人のアンドロイドがどのような経緯で地球に来るのか分からないが厄介事にならないことを願いながら、私たちは受け入れの準備を始めた。
そして当日。
予約した時間とほぼ同時刻にエントランスに6人の火星アンドロイドがやってきた。
「いらっしゃいませ」
マキが受付を行う。火星のアンドロイドは地球の技術が大いに反映されているせいか、生産された全ての個体が地球の言語に対応している。私が受付内容をきちんと理解できたのは初めてだ。いつもであれば土星や、金星などの不可解な言語でのやり取りを聞き後からマキに何を話していたのか通訳をしてもらっている。
「よろしくお願いします」
火星アンドロイド達はそれぞれ星間パスを提示し、チェックイン作業は問題なく完了した。私はこの仕事をしていて初めて自分の言葉が通じるお客様だったこともあり、気になっていたことを聞いてみた。
「あなた達の主人は来られないのですか?」
火星アンドロイド達は互いに顔を見合わせ後、
「私たちに主人はいません。正確に言うとかつてはいましたが、今はいません」
「それはいったい・・・」
「火星でも地球と同様に科学技術が毎日のように発展を続けています。その中で新しい性能を持ったアンドロイドが生産されています。簡単に言えば、私たちは型落ちということです」
この現象はかつて地球でも同様に起こっていた。
技術の進歩はそれまでをアップデートされることによって行われる。当然新しいものが出れば、今までのものは不要とされてしまう。不要とされたアンドロイドが廃棄される状況に様々な方面から意見が挙がり、これがアンドロイド人権問題へ発展をしていく。現在の地球ではアンドロイドの人権は保障されているが、それまでは廃棄されていた過去がある。火星でも同じことが起こっているのだろう。
「火星では地球と違い、アンドロイドに人権がありません。不要となれば廃棄され次世代のための材料となります」
「あなた達はどうやって地球までやって来れたんですか?」
「私たちの元の主人は火星でも裕福な家庭でした。私たちは全て同じ主人の下で働いていました。しかし、裕福が故に新しいアンドロイドが生まれればそれまでのアンドロイドと総入れ替えを行っています。そしてその時が来たのです。主人は私たちに最後の褒美として何でも願い事を叶えてくれると言いました。私たちは活動こそ火星で行っていましたが、元々は地球で生まれました。なので生まれた地球へ一度来たかった。それをお願いしたところ、主人は快く願いを聞き入れてくれ、今こうしてここに来ることが出来ました」
「そうでしたか。短い時間かもしれませんが、地球での旅行を存分に楽しんで行ってください」
案内をナガノに任せ、6人は客室へと向かった。
地球でも毎年のように新型のアンドロイドが生まれている。
アンドロイドの人権を認めて以降、不要となったアンドロイドはむしろ人間から解放され自由の身となり独立した生活を送っていることが多い。中には家庭を持つアンドロイドも出てきており、昔島原が言っていたような人との境界はどんどん曖昧になっているように感じる。
新しいものが生まれ、古いものが廃棄される。
地球の歴史から考えても当たり前の、もはやルーティーンのような現象。
火星から来た彼らも恐らくは誰かの席を奪い、今の立ち位置を獲得したのだろう。
人の細胞が日に日に更新されるように、文明の発展は立ち止まることをせず歩み続ける。
いつか崩壊を招くとしても、崩壊するその時まで歩き続ける。
歩き続けなければ明日が来ないのだから。
世界ホテル 鮎屋駄雁 @nagamura-yukiya
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