第5話 王都騎士 クロム・モルドレッド
すごく長い時間寝ていた気がする
いつもとは違う寝床で目を覚ます
「ここは…?」
「あ!起きた! 怪我は大丈夫?痛くない?」
可憐な少女が俺に駆け寄る ミラではない
彼女はどこへ それにこの子は一体誰で そんなことを考えている俺を少女が覗き込む
「こら〜 聞いてるの?」
どうやら心配してくれているようだ
「ちょっと寝ぼけてて…
心配してくれてありがとう ここは?」
「ここはカペラ村! そしてここは私とお姉ちゃんのおばぁちゃんの家!」
「お姉ちゃん……ってまさか君はミラの!?」
「そうだよ 私ミラお姉ちゃんの妹やってますセラでーす! お兄さんは?」
言われてみればとても似ている タイプこそ違うが美人姉妹だ
「驚いたな… 俺はノアだよ この包帯はセラが?」
「じゃあノア君だね〜!うんんそれはおばぁちゃんがやってくれたの お姉ちゃんが傷だらけのノア君連れてきた時はもうびっくりしたんだから!」
落ち着いているミラとは正反対にセラはとても無邪気だこの子を見ていると妹が欲しくなる お兄ちゃんと呼ばれたい
「そっか… みんなには礼を言わなきゃな
ありがとうセラ」
そう言うとセラは全力で首を横に振る
「全然!私なんてほんとなんもしてないから
それにしても あの有名な天人様はこんな顔してるんだね〜 目つき悪いしちょっと怖い…」
「目つきは生まれつきだ!」
「冗談冗談!目つき悪いのはホントだけど
ノア君優しそうだから 仲良くしようね!」
俺を少し馬鹿にしてセラは無邪気に笑う
本当に可愛い奴だ ぜひ俺の妹に
「ったく… それでミラは?」
「今私と話してるのに 他の女の人の話〜?」
少女は頬を膨らまして俺を睨む
「なんだよ… そんな怒るなよ」
「怒ってないよ! お姉ちゃんなら外にいるよ
まだちゃんと治ってないんだから動き回っちゃダメだよ?」
「じゃあちょっと行ってくる そんな心配しなくても大丈夫だよ」
体を起こすがまだ少し体は痛い だが治療のおかげでだいぶマシにはなった
靴を履こうとしていると外から話し声が聞こえる どうやらミラの声だ
外へ出るとミラと見知らぬ男が親しそうに話していた
「ミラ…」
誰だこの男は 俺が寝ている間に何があったのか 2人がこちらに気づき振り向く
「ノア よかった目が覚めたのね」
「あぁ… それよりその人は?」
「この人は王都騎士のクロム 道中魔物の群れに襲われた所を助けてくれたの」
「初めまして クロム・モルドレッドだ ノア君だったね 目が覚めて何よりだ」
王都騎士 祖父から聞いた話を思い出す王都騎士それは王の命令で下界に降りた俺達天人を捕獲してきた存在 俺達の敵だ みんなの仇だ
騎士はダメだ
「…離れろ」
「何を言ってるの…?貴方からもちゃんとお礼を言いなさい」
「どうした?寝ぼけているのか?」
彼女は知らない 騎士の悪質さを
「ミラから離れろって言ってんだ!王の犬!
一体何企んでやがる!?」
「いい加減にしなさい! クロムは私達を助けてくれたの その人に向かってなんて事言うの!」
「ミラ いいんだ 僕はここで失礼するよ」
俺達を助けてくれた それは確かだ クロムは良い奴かもしれない だが何かあってからでは遅いのだ どんな奴であろうと騎士は信用してはならない そう言い聞かせられてきた
「ミラ…… 事情は後でちゃんと話す それより
待てよクロム お前ら騎士はみんなの仇だ
皆が受けてきた苦痛を味あわせてやる」
「皆の仇…まさか君は…」
クロムが口を開いた瞬間 ミラが俺の頬を叩く
先程頭を撫でた優しい手とは違って怒りのこもった手だ
「少し頭を冷やしなさい」
痛い 頬もそうだが何より胸の奥が締め付けられる この場において俺の味方は誰一人としていないそれでも騎士を前に見過ごす訳には行かない クロムが何かを持って戻ってきた
「僕達騎士と君との関係はよく分かった
その事について少し話したいが 今は何を言っても信じてもらえそうにないからね 」
そう言ってクロムは木刀を差し出した
「僕達騎士に喧嘩を売るということはどういうことかわかってもらう必要がありそうだ
話はそれからだノア君」
どうやら向こうもやる気のようだ 王都騎士普通にやっても俺が勝てるはずはない
どんな汚い手を使っても苦痛を味あわせてやる
「ちょっと何をしようとしているの二人共やめなさい! ノア貴方は怪我人でしょう…?傷が開いたらどうするの」
ミラが叫ぶ とても悲しい顔をしていた
だがそんな事は気にして居られない彼女とこれとはまた別の話だ
「黙って見てろ! これは俺達の問題だあんたには関係ない!」
「そういう言い方はあまり良くないな ちゃんと後で仲直りするんだぞ?」
「余計なお世話だよ…… 余裕かましてんじゃねぇぞクソ騎士!」
木刀を手に取り素早く切りかかるが容易く防がれる
「動きが力任せだな そんなんじゃ彼女を守れないぞ? 男の子だろうもっと強くならないとな」
防いだ剣を弾かれ腹を蹴られる 俺はその場に蹲る 今の一瞬で分かった 想像以上にこいつは強い
ミラと同等かそれ以上に
「痛てぇな… 一言二言多い奴だ…んなこといちいちてめぇに言われなくてもわかってんだよ!!」
クロムの言うことは的を得ているだからこそ腹が立つ
「そのやかましい口今から開けなくしてやるよ…」
先程の戦いでのあの動きならなんとか一矢報いてやる事が出来るかもしれない
まずは視界を奪う 俺は立ち上がりクロムの顔面目掛けて土を蹴った目くらましだ
「くっ…」
クロムは目を抑える とりあえず第1段階は成功だ 次は強烈な一撃を叩き込む為大きく振りかぶった
「いい策だ だが甘い!」
強烈なカウンターを受けて俺は吹き飛んだ
「この程度じゃ 彼女は任せられないな
もう立たなくていい彼女は僕が守ろう」
俺の中で何かが切れる音がした
「ふざけんな…ミラは俺が守るって決めたんだてめぇなんかが入る隙間はねぇよ!」
こんないきなり出てきた男にミラを取られる訳にはいかない 何より騎士に負ける訳にはいかない
「こんな弱い君がどうやって守るって言うんだ?あまり理想ばかりを口にしない方がいい」
「うるせぇよ お前だけはここで倒す 俺の誇りにかけて!」
「刃に力を!斬撃強化魔法 "エクスラッシュ"」
まだだ まだこの程度ではこの男には勝てない
「我を守れ!防御強化魔法"エクスプロテクト"」
俺は魔力量がそれほど多い方ではないし属性魔法はあまり得意ではない次で限界だ
「真なる雷よ 刃に力を!雷装帯電魔法"サンダーソード"」
木刀は今や鉄以上の力を持つようになった
これならいける奴を倒せる 卑怯だ そう言われるかもしれない それでも構わない
「いい顔になった… 来い!ノア!」
クロムが剣を構える 飛びこむ俺に剣を振るう
だが魔法で強化している今は木刀など痛くも痒くもない 左手でしっかり受け止め 右で斬る
剣はクロムの頬をかすめ取った もう1発次はちゃんと当てる もう一度振りかぶるその時クロムが囁いた
「俺はこの汚い王都を作り替える 他の種族をさんざん虐げてきたこの王都を その為に俺はのし上がる 民の笑顔の為に これが俺の企みだよ」
突然の言葉に剣を止める こいつは騎士だ 信じない 信じない 信じない
「君達に今まで行ってきた仕打ちは 俺が騎士を代表して謝ろう すまなかった」
こいつは騎士だ 俺達を助けてくれた
「そんなもので済まされると思ってんのか!ふざけんな!」
こいつは騎士だ 自分がやった訳でもないのに俺に頭を下げた
「すまなかった」
「分かったよ…お前は良い奴だ 他の奴とは違う俺も悪かった だけどミラの話は別だ守るのは俺だ!」
こいつは騎士だ 本気でこの国を変えようとしている
こいつは騎士だ この男なら信じてもいいそう思った
「そうか ありがとう 君もそのお陰で本気を出せただろう?君のその本気を彼女に伝えればいい まぁ確かにこれとは話が別だな決着を付けようか」
こいつは騎士だ 先程までの挑発も全部俺の立場をこれ以上悪くしない為に
「余計なお世話ってゆったろ… 余裕かましてんじゃねぇぞクロム!!」
渾身の一撃を叩き込もうと左で抑えた剣を離すその瞬間剣を弾かれ 俺は投げ飛ばされた
俺は夜空を見上げる 爽やか好青年は俺の顔を覗き込む
「僕の勝ちだね ノア」
「俺の完敗だ…ありがとうクロム」
「何 礼を言われるようなことはしていない」
勝負に負けた 人としても負けた
こいつは騎士だ
天地旅人の世界渡り 黒クジラ @Kurokujira
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