人は足元から

 入部勧誘の声が疎らになっていき、次第に声が少なくなっていく頃。勧誘されて部活動の見学を終えた新入生は帰り始める。

 それでも声を張って勧誘している在校生はいた。部活や生徒会などの組織からの掛け持ちは許可されている。その為、こういった在校生は主な場合は新しい部活動を作っているか、廃部の危機にさらされて何とか存続しようと新入生が幽霊部員になってもいいからと勧誘しているかのどちらかだ。

 そんな時間、旧校舎の東の奥にある「第三準備室」では斎とソフィアが佇んでいた。

 今の所白星は斎にあった。

 だが、勝負はまだ決着していなかった。あくまでも斎に白星が入ったという事だけだ。次の出題でソフィアが答えれば取敢えずは引き分け。答えられなければ斎の完全勝利となる。


「さぁ、あなたの番よ」


「そうだな、じゃあ・・・」


 その時ソフィアの後ろから声が掛かった。


「ソフィ~おまたせ~」


 気軽で明るい少女の声。

 ソフィアは後ろを振り向き親し気に声を返す。斎は少し頭を傾けて、ソフィア越しの形で誰だろう、と見る。


「あら、純」


 そこに居たのは女生徒だった。

 平均的な女生徒と比べると小柄で華奢な体格で、黒髪で肩甲骨の所まで伸ばし、健康的な小麦色に日焼けしているがシミ一つない綺麗な肌だった。いたずら好きな小動物の様なクリクリとした可愛らしい目に、思わず年下と勘違いさせる程、幼さがある可愛らしい少女だった。キッチリと制服を着ていたが、どういう訳か素足で上履きのサンダルを履いていた。斎と同じく新入生で同じクラスの環純たまきじゅんだった。


「あなた、裸足じゃない」


 ソフィアの目線は純の足に向けていた。


「うん、の面倒だからここまで来ちゃった」


 小さな溜息を付いたソフィアは呆れた様に返す。


「相変わらずね・・・」


「あはは。でも、プライベートスペースを作ろうとしているソフィも人の事言えないでしょ?」


 純の答えにポーカーフェイスを崩さずに答える。


「あら、これでも一応部活はするつもりよ。活動実態が無いと意味がないじゃない」


「それもそっか。ところでそっちの人って和中斎、君でしょ?」


 徐に視線を斎の方へ向けてそう尋ねる純。


「やっぱり有名か?」


「そうだね。少なくともアタシ達のクラスではかなり有名だね」


 呆れた様に小さな溜息を付いて肯定する純。

 斎の前にはソフィアがいる。その為純とは少し離れている。斎はジッと純の足を見る。


「・・・・・・・」


「どうかした?」


 訝しげそうに純がそう尋ねると斎はある事を訊ねた。


「環さんは・・・」


「純でいい。あと「さん」いらない」


 お前もか。

 そう心の中でツッコむ斎。


「・・・純は水泳部か?」


「そうだよ~・・・ん?」


 小首を傾げる純。


「あれ?いつきんに名前言ったっけ?」


 いつきんて・・・。

 再びそう心の中でツッコみつつ首を横に振る斎。


「いいや言っていない」


「じゃあ何で分かったの?」


 再び首を傾げる純。斎は答えようとするが頭の中で白く光り目を少しだけ大きくなった。


「丁度いい。これを問題にする」


「え?」


「ん?」


 素っ頓狂な声を上げる二人。純はどういう話なのか、何の話で進んでいるのか分からず困惑して再び首を傾げる。


「どうして俺は純を水泳部と分かったのか」


「んん?」


 純は更に逆の方向に小首を傾げる。それに対しソフィアは頷く。


「さっきのウミガメのスープでは俺は十問で答えた。つまり十問以内に正解すれば引き分けで違う形で部長を決める。もし超えればソフィアが部長でどうだ?」


「それに乗るわ」


「んんん?」


 元の位置に戻す様に小首を傾げる。


「あ、純は分かっても答えないで」


「待って、何の話?」


 純の頭の上にはクエスチョンマークが三つも浮いていた。その事に気が付いた斎とソフィアは今までの経緯を説明した。


「ふ~ん誰が部長になるのかねぇ・・・。アタシとしてはソフィがなって欲しいけど」


 純がチラリとソフィアを見てそう答える。


「じゃあ、決まりだな」


「待ちなさい!」


 斎は冗談めかす様に答えるとソフィアは素早いツッコミを入れる形で反論する。


「本当であってほしかったが一応冗談だよ」


「そう言うのを本気と言うのよ」


 そんなやり取りをしていると純はカラカラと笑う。


「それで、問題は何だったかしら?」


「ああ、どうして俺が純が水泳部だと分かったのかを十問以内で答えてほしい」


 目線を上の方へ向けて考えるソフィア。


「純が水泳部と分かったか・・・純から直接聞いていないから、間接的に誰からか聞いた?」


「違うな」


 首を横に振る斎。ソフィアはそれもそうかと少し納得しつつ別の事を考える。


「ん~という事は先生からでも誰かが話しているのを聞いたわけじゃないよね。じゃあ純が水泳部がある方向へ向かったのを見たから分かった?」


「それも違う」


 更に首を横に振る斎。ソフィアは眉間に皺を寄せていく。


「じゃあ・・・」


「あのさ」


 ソフィアが何か喋ろうとすると純が声を挟んできた。そうすると当然純に注目がいく。


「部室に入らないの?ずっと立ったままでいるの?」


 最もだ。中には椅子も机もある。ここでずっと「ウミガメのスープ」をやり続けるのもどうかと考える二人。

 斎とソフィアはお互いの顔を見合わせる。


「取敢えず中に入ろうか」


「そうね」


 斎、ソフィア、純、と言う順番で取敢えず中へ入り、畳んであったパイプ椅子を座れるように展開させる。よく見れば座る箇所には埃が付いておりそのまま払う。すると当然空気中に埃が立ってしまう。それを見たソフィアは窓を開けてから座った。それに続くように純も座る。斎は部屋の中を何があるのかと物色する様に部屋の中を見て回る。

 そんな様子の斎に純が尋ねる。


「座らないの?」


「ああ、ちょっとこの部屋の中を見て回る」


 立ったままでも「ウミガメのスープ」は出来る。だからそのままソフィアは質問を続ける。

 斎は早速金属製の本棚の中を調べる。すると中には何かのファイルと本があった。本はかなり古く、タイトルは「蝸牛」とか「犬に関する伝説」、「塩に関する迷信」等々があった。


「純が地区予選で勝ち抜いていた事を知っていたから?」


「違う・・・って、凄いなそれ」


「でしょ~?」


 ウロウロと部室の中を見て回っていた斎は答えると同時に純の方へ向いて目を大きく開いて見る。それに対して純は胸を張ってドヤ顔をする。

 ソフィアは斎の反応を見て本当に知らなかったようだと判断した。


「じゃあ・・・当てずっぽう?」


「全く違う。確実に水泳部だと判断したからだ」


 斎は呆れた様に答える。まさか当てずっぽうと言う答えで来るとは思っても見ない上にかなりとはいかないものの重要な勝負だ。ソフィアにとって不利になってしまったのは間違いない。


「そうね・・・」


 しかし、ソフィアは斎の言葉に重要なキーワードに気が付いていた。斎は「確実に水泳部だと判断した」と答えた。今まで純とまともに話さず、さっきの廊下でのやり取りがほぼ初対面だったに違いない。つまり、まともに話せたのはさっきが初めてだろう。という事は一目見て純が水泳部だと判断できる何かがあるとソフィアはそう考えた。


「・・・・・」


「?」


 ソフィアはジッと純を見つめる。純はいきなりソフィアが自分を見ている事に気が付き、何だろうと思い首を傾げる。


(純が裸足であったから分かった・・・も違うか)


 白原高校には裸足になって活動する部活は水泳部以外に剣道部、柔道部、空手部等々がある。純が靴下を履くのが面倒がって裸足にサンダルにしたからと言って水泳部である、と言う結論にはなりにくい。

 その為ソフィアはその考えを捨てる様に下げる。


「あ、純からプール特有の塩素の匂いがしたからそう判断した」


 純の身体からプール特有の匂い塩素の香りがしたから分かったと考えたソフィア。これはプールの殺菌のため入れられている、洗濯用の漂白剤の主成分でもある次亜塩素酸ナトリウムのせいだ。


「違うな。もしそれだと俺と純の間にソフィアがいた。あの時風もなければ匂いなんて漂ってこないだろ」


「それにアタシ、プールに入っていないんだけど」


「う・・・」


 その日に水泳していれば塩素の香りがするだろう。だが、今日は入学式だ。水泳させてもらえないだろう。せいぜいプールサイドから見学だろう。当然その程度では体に塩素の香りは付かないから、純から塩素の香りはしない。


 ソフィアは純の身体を隈なく観察する。そんな観察の視線に純は少し照れているのか僅かに顔が赤くなっていく。


「髪の先の色を見て水泳部だと判断した」


「違う」


 次に考えられることは水泳などをしている人間であれば分かるだろうが髪の色が茶色っぽくなる。これは塩素の漂白作用によって髪が色抜けし茶色くなる。

 確かに、純の毛先は少し茶色がかっていた。

 因みにプールの後、すぐに良く水ですすぐ事で、少しは脱色がマシなる。できれば、薄めたお酢など酸性のものですすぐと更に良い。


 だが、そうでは無かった。

 ソフィアは想像を膨らます。プールサイドで純がウロウロするとしたら必ず裸足になる。だが、裸足になったからと言ってそれで水泳部だろうという考えには至らないはず。

 だが、万が一を考えて貴重な一問で質問する。


「ん~…。だったら、純が裸足だったから?」


「それは違うな」


 悔しくなかった。それは当然だ。ダメ元で答えた為それ程ショックは受けてはいなかったからだ。ソフィアは純をジィィィ…と観察するものの何一つとして得る物が無い。

 純はそんな視線のせいなのだろう顔が更に赤くなり、誰から見ても赤面している事が分かる。


「さっきの質問で七問目だ」


 斎から今難問であるかを言う。当然これはプレッシャーを与える目的でもある。

 それを聞いたソフィアは口を一文字にして焦燥感を覚える。

 匂いでもなく、聞いたわけでも無い。見ただけですぐに水泳部だと分かる何か。ソフィアは長い交友関係にあるせいで純の姿が見慣れ過ぎていた。その為どこにそんな要素があるのかが全く分からないでいた。


「・・・純の歩き方で水泳部だと分かった」


「違う。・・・そんな方法俺が知りたいよ」


 よくよく考えてみれば先にこの部室に入ったのは斎で、純は最後。という事はもし歩き方で判断するとしたのなら、純がこちらに来るまでにきた時しか歩いている瞬間が無い。あの時は斎の前にはソフィアが居た為、純が歩いてこっちに来た時は一瞬に近かった。一目見て分かる者であれば分かるのであろうが斎はこれを否定した。


「純の体格で分かった!?」


「違うな。純の体格で水泳部と分かるのは余程スポーツか医療に詳しい人じゃないと分からないじゃないか?」


「う~ん」


 確かに純の体格は小柄で華奢なものだ。体格や骨格で何のスポーツをやっていると分かるのは整体などに詳しい人間であれば決しておかしくない。

 だが、斎は高校生だ。ましてやそう言った知識など全くと言って良いほどない。


「日焼けで純が水泳部だと分かった」


「・・・違うな。もしそうなら純はソフトボール部とか陸上部の可能性もあるだろう?」


「・・・確かに」


 確かにいくら水泳部が日焼けしているからと言ってそれで水泳部だと判断するのは考えにくい。何故なら日焼けする機会が多いスポーツ部は白原高校にはたくさんある。

 しかし、この質問は正解に近かったとソフィアはそう考えていた。斎が反論する前、少し悩んでいたからだ。だが、この答えでソフィアに黒星が付いてしまった。


「今ので十問目だ」


そう、さっきの問いで十問目だ。これが間違っていたという事はこれ以降は十一問目に入る。つまり、ソフィアに黒星が付いたのは間違いなかった。


「むぅ・・・」


 ソフィアはポーカーフェイスではあるが頬を膨らませ、如何に自分が悔しそうにしているかをアピールするかのように斎に見せていた。


「そんな顔しても負けは負けだ。諦めて部活希望書の部長名に書いてくれ」


「・・・分かったわよ」


 そう言って渋々部活希望書の部長名の欄に「上条ソフィア」と自分の名前を記入した。その時ソフィアは副部長名の欄を見た。


「そう言えば、副部長はどうするの?」


「あ~じゃあ、じゅ・・・」


「言っておくけど、純に副部長任せたらこの部は潰れてしまうと考えてね?」


「ひどっ!」


 声を挟んで斎の提案を却下するソフィア。純から短い抗議の声が聞こえる。斎は少し考えてしょうがないと考えてまだ書かれていない副部長名の欄を書くためにソフィアから部活希望書を受け取る。


「・・・分かったよ。俺が副部長になるよ」


 小さな溜息を付いて斎は副部長名の欄を自分の名前で埋める。


「これでいいか?」


 斎は書いた部活希望書をソフィアに見せる。


「そうね、これでいいわ。それを純に渡して」


「え?純はソフィアの様子を見に来たんじゃないのか?」


「私のプライベートスペースの為に部員として欲しかったのよ」


 どうやらプライベートスペースを確保する為の要因だった。部活などの掛け持ち許されているとは言え、少し喉に引っかかりがあるように感じる。


「・・・純はそれでいいのか?」


「別にいいよ」


 即答だった。


「・・・分かった」


 斎は純に部活希望書を手渡す。


「サンキュー」


 そう返事して部活希望書に部員名を書いていく。ソフィアは腕を組み斎に訊ねる。


「それで何で純が水泳部だと分かったの?」


 負けた事に余程悔しいのかポーカーフェイスの顔がどこかむくれている様に見える。斎は冷静に答える。


「ああ、ソフィアが「日焼け」と言っていた時ほぼ答えが出ていたんだけどな」


 ソフィアの目は少し大きくなる。


「どういう事なの?」


「まず、純がここに現れた時どんな格好で来ていたか覚えている?」


「覚えているも何も純の格好は今と変わらないじゃない」


 そう言って純の方へ目をやるソフィア。斎はどうやら言い方が悪かった、と考えて言い方を変える。


「ゴメン、言い方が悪かったな。いつもの純とは違う事をしていただろ?」


 斎がそう言うと純の方へ再び視線を向ける。

 今日は入学式、だからブレザーを着てキッチリとネクタイして、珍しくソックスを履いて・・・。

 ソフィアがそう考えた時いつもと普段の純とは違う点に気が付いた。


「もしかして、裸足?」


「そう、裸足じゃなかったら俺はすぐに水泳部だろうと思わなかった」


「でも、あなたさっき、裸足だけでは分からないって言ってたでしょ?」


 確かに斎は裸足だけでは絞り込む事は出来るがどこの部活なのか分からないと言っていた。

 だが、斎は首を横に振る。


「裸足と日焼けの事を分けて考えていたから気づかなかったんだろうけど、それらを合わせて考えればそんなに難しい事では無かったんだ」


「合わせて?」


 斎は頷いた。ソフィアは純の足を見る。純の足は日焼けした裸足だった。その視線に気が付いた純は少し照れながら思い出した事を口にする。


「そう言えば、いつきんとアタシが初めて会った時、アタシの足見ていたよね?」


「ああ、見ていた。その時に気が付いた」


「へ~」


 キラキラした目で斎の方へ向けて光を浴びせる純。斎は眩しいのか照れているのか顔をそむける。


「それで、日焼けした裸足でどう水泳部だと分かったの?」


 ソフィアは未だに分からず、少し強い口調で斎に訊ねる。


「まず、足まで日焼けしそうな部活と言ったら何を思浮かべる?」


 小さな溜息を付いて答えるソフィア。


「そうね・・・野球部・・・と言うよりもソフトボール部、陸上部・・・あと水泳部?」


 指を負って数えていくソフィア。


「じゃあ今度は裸足になって活動する部活は?」


「剣道部、柔道部、空手部、水泳部・・・あっ!」


 再び指を折って数えるソフィアは大きく目を開いた。斎はそんなソフィアに頷く。


「裸足で部活動する剣道部、柔道部、空手部は屋内で活動する。だから日焼けする機会はない。ソフトボール部や陸上部は裸足で活動するわけじゃない。必ず靴を履く。という事は少なくとも足首より下は日焼けしていない。だが、屋外で裸足で活動する水泳部であれば、足全体にまで日焼けする。他にビーチバレー部とかがあれば同じように日焼けの仕方をするだろうが白原にはそんな部活動はない。という事は水泳部しかないと考えたんだ」


「そっか~」


 純は更にキラキラとした目で斎の方へ向けて光を浴びせる。


「あの時、斎が純の足を見ていた時点で気づくべきだったわね・・・」


 そう呟き大きく溜息を付くソフィア。


「ここの部活の名前も考えないといけない・・・」


 そう呟き再び大きな溜息を付こうとするが、斎は声を挟んだ。


「大丈夫だ。相応しい部活動名を思いついた。」


「どんなの?」


 純がそう尋ねると斎は本棚にある数冊の本を机の上に置いた。


「この本は?」


 そう尋ねるソフィアに純はそのうちの一冊を手に取ってタイトルを見た。


「えーと・・・「ムシウシコウ」?」


 純が手に取ったのは「蝸牛考カギュウコウ」だった。虫偏と牛を単にそのまま読み上げただけだった。


「それはカギュウコウって言うんだ。カギュウって言うのはカタツムリの事」


「カタツムリ・・・」


 オウム返しする純にソフィアは何かに気が付いた。


「もしかしてこれって柳田 國男やなぎた くにおの本?」


 斎は頷いた。


「正解。こっちの本は南方 熊楠みなかた くまぐすの本だしな」


 斎がそう言うとそれぞれの本に目を向けるソフィアはまた更に何かに気が付いた。


「え、これらって・・・」


 ソフィアが何か答える前に斎は頷いた。


「そうだ。民俗学の本ばかりがあったんだ」


 柳田 國男やなぎた くにおとは日本の民俗学者の父。「日本人とは何か」その答えを求め、日本列島各地や当時の日本領の外地を調査旅行し、初期は山の生活に着目してかの有名な「遠野物語」を記した。

 また、南方 熊楠みなかた くまぐすとは日本の博物学者でもあり生物学者でもあり、民俗学者でもある多才な人物として知られている。民俗学に関する書物で主著として挙げられるのは「十二支考』や「南方随筆」などがメジャーだろう。

 そんな著名人の本がいくつかあったのだ。


「だからここを「民族部」と言う名前でどうだろう」


 斎の提案はなかなか良い提案だろう。ここにある民俗学に関する本を元に白原に関する事を調べるという名目で「民族部」として活動すれば、生徒会からも教師からもあまり文句は来ないだろう。調査の頻度も自由にできる為、それなりの合間で出来るだろうから、部活の掛け持ちの生徒にとっては良いとこ尽くしだ。そればかりか上手くいけばそれなりの部費も降りる。


「アタシも良いと思う」


「名案ね、それにしましょう」


 斎の提案に乗った純とソフィア。ソフィアは早速、椅子に座って部活動名に記入した。


「これで出来たわ」


 そう言って斎と純に見せる。

「民族部」と。

 今この瞬間、白原高校に「民族部」が誕生した。


「後はこれを提出するだけね」


 ソフィアはそう言ってカバンを持ってこの部室から出る。それに続いて本を片付けた斎と純も部室から出た。


「ねぇねぇ、お祝いに帰りにどこか寄って行こうよ!」


「あら、いいわね。どこがいいかしら」


 負けて部長になったというのに帰りにどこか寄る事になるとさっきまでの悔しそうな雰囲気はどこへ行ったのか。

 斎は現金だな、と呆れて部室の戸を閉めて鍵を掛ける。


「ねぇ、いつきんも一緒に行こう!」


「いかがかしら?」


 二人からそう誘われた斎。入学と自分のプライベートルームを手に入れた事に関して喜んでもいいかと考え、頭を縦に振った斎。

 三人はそのまま部室を後にした。


 「民族部」の創設。

 それが今までの日常に更に新しい虹色が入る静かな幕開けだった。

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民俗部の日常 折田要 @oredayou

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