最終話 ぶつかりあい宇宙 後編
「ふむ、そろそろ艦に戻るか。好きにさせてもらってる分は恩は返さねば」
リッチが、試射を終え艦に戻ろうと思った時白牛の広範囲レーダーが所属不明の艦
を捉えた。
「これは、わが軍の物か? 私の直感では敵の艦だと告げているが、ひとまず連絡は入れておかねばならんか」
独断専行はするが、用心深いリッチが自分の所属する艦へ通信を入れる。
「こちらリッチ・ガリ、所属不明の艦の反応を捉えた。この宙域近辺を我々以外の
艦が航行している情報がないか確認されたし」
「こちらアズキ、ガリ大佐。こちらでも確認したがわが軍の物ではないと思われる。ここは一旦、補給に戻られてはいかがか?」
アズキ艦長が、リッチに意見を言う。
「いや、アズキ艦長。これは実戦で白牛の性能を試すチャンスだ、このまま撃破に向かう!」
アズキの意見を却下し、謎の敵艦へとリッチは向かった。
「艦長、リッチ大佐の白牛が敵艦へと向かって行きます!」
オペレーターの声にアズキ艦長は頭を痛める。
「ああなっては仕方あるまい、我々は待機する。大佐なら撃破も可能だろう」
アズキ艦長があきらめた様子で宣言する、この時彼らがリッチを追っていれば歴史は変わっていただろう。だが、艦長はリッチを切り捨てる決意をした。
一方、ボックス艦内では警報が鳴り響いていた。
「敵の新型が単騎で突っ込んできた? 帝国は馬鹿か?」
マッチャが叫びながら走って、エレベーターに飛び乗り自分の機体へ乗り込む。
「今日は、出撃なんてないと思ってたのに~~っ!」
ストロベリーも自分の機体への搭乗エレベーターへ走る。
「早速スペックを確認する機会が来たか!」
チョコミントが最後に自分の機体に乗り込んだ。
パイロットが全員、自分達のラクトに乗り込むとそれぞれの機体がハンガーから切り離され足元のレーンが動き出し一機ずつカタパルトへと運ばれて行く。
「マッチャ、ディープグリーン発進っ!」
まずはその名の通り深緑色をした、スナイパータイプのディープグリーンが出撃する。
「ストロベリー、サマーレッド行きますっ!」
全身にミサイル発射装置を積んだ、ストロベリーのサマーレッドも宇宙空間へと飛び出す。
「チョコミント、フルアーマークール出るっ!」
そして最後にチョコミントの生まれ変わった青緑の死神、フルアーマークールが出撃した。
チョコミント達の機体が宇宙に出てきたと同時に彼らのラクトの倍はある
四十メートルの白いミノタウロス、白牛が姿を現した。
「はっはっは! 統一政府軍のラクト共、白牛のキルマークとなれ!」
長柄のビームアクスを両手に持ち、迫りくる白牛。
「帝国のラクトは化け物か? 俺は遮蔽を取って狙撃するぞ!」
マッチャは、隕石帯へ向かい遮蔽を取りに行こうとする。
「あの深緑のは狙撃型か? 逃しはせんぞ!」
リッチの白牛が、ディープグリーンへ狙いを定め追いかける。
「マッチャが危ない、させるか~~っ!」
ストロベリーのサマーレッドが、胸のミサイルハッチを開き小型ミサイルの群れを
放出する!
「む! ミサイルかっ? 舐めるなっ!」
白牛が振り返り、ビームアクスを一閃させると同時に爆炎に包まれた。
「着弾? けど反応が消えてないっ!」
ストロベリーの叫びと同時に爆炎のなかから白牛が飛び出した!
「貴様から始末してやろうっ! ぐはっ!」
サマーレッドに矛先を変えた白牛の背後を閃光が襲う!
その一撃は、白牛のバックパックブースターを破壊していた。
「ち、かすり傷か! ストロベリー、無事か?」
レッドサマーを救ったのは、マッチャのディープグリーンの狙撃だった。
「ストロベリー、補給して艦を守れ! 俺が攻める!」
チョコミントも通信を入れ、ビーム砲を撃ちながら白牛に迫る。
「了解、マッチャありがとう!」
レッドサマーが、旗艦であるボックスへと下がる。
フルアーマークールの砲撃を、ビームシールドで耐えながら待ち構える白牛。
「その色、青緑の死神かっ!」
ビームアクスを振るう白牛、それはまさにミノタウロスの大斧の一振り!
だが、その一撃は死神の鎌に刈り取られた。
「は! お前の攻撃は大振りなんだよ、三振バッター!」
双肩のビーム砲を取り外し、長柄のビームサイズにさせたフルアーマークールが
回避と同時に白牛のビームアクスを両断したのだ。
「やるな、死神よ♪」
武装の一つを破壊されたにも関わらず、リッチは喜んでいた。
手強い相手と戦って勝ち、武功を立てたいリッチにとってチョコミント
はこの場での最高の相手だった。
「……くそ、寒気がしてきた! あれのパイロット、楽しんでるのか?」
白牛との戦いで、相手から何かを感じたチョコミント。
「戦いに呑まれるな、一人で戦うんじゃない!」
マッチャからの通信で、正気に戻ったチョコミントはディープグリーンが潜む隕石帯へと白牛を誘い込む事にした。
「逃がさんぞ、死神~~~っ♪」
闘争に酔ったリッチは、逃げるフルアーマークールを追いかける。
互いにビーム兵器による砲撃に切り替えて撃ち合いながら追跡劇を演じる二人。
「化け物との追いかけっこなんざ、ごめんだ!」
フルアーマークールが、ガンベルト状のエネルギーパックを引きちぎり白牛へ放り投げる。
それを射抜いたのは、ディープグリーン。
爆発と閃光の目くらましが白牛を襲う。
「くそ! 見えん!」
スクリーンが閃光に包まれて目を覆うリッチ、それが命取りになった。
「今だ、滅びろっ!」
フルアーマークールのビームサイズが一閃し、白牛を両断する。
爆発っ! 白牛に乗っていたリッチは断末魔の叫びを上げる間もなく光の玉となって消えた。
白牛が爆発した余波で、フルアーマークールとディープグリーンは弾き飛ばされるも旗艦であるボックスに回収された。
そして、リッチが所属していた帝国艦のブリッジでは淡々と仕事が行われていた。
「アズキ艦長、白牛の反応がロストしました! リッチ・ガリ大佐、戦死です!」
オペレーターの叫びにアズキは動じなかった。
「わかった、上には事実のみ報告しよう。リッチ大佐は、自由に生き、そして死んだと。我々も帰還する!」
帝国艦は、現場の宙域から姿を消した。
ボックスに帰還したチョコミント達、彼らには一週間の休暇が与えられた。
「あれだけ頑張ったのに、休暇が一週間ってショボイなどこかの星におりるわけでもないしさ!」
ストロベリーが不満を垂れる。
「いや、お前が一番被害がなかっただろ! 贅沢を言うな」
マッチャが壜ビールをラッパ飲みしつつ怒る。
「狭いんだから叫ぶな、俺の個室で飲み会とか勘弁してくれ」
チョコミントがぼやく。
「仕方ないよ、食堂で宴会するの駄目って追い出されたんだし」
怒られたストロベリーもぼやく。
「俺達は、ビールとつまみだけで十分だってか? ボーナスよこせ!」
タバコの様にゲソを咥えて酔ったマッチャが吠える、彼は酒癖が悪かった。
「良いじゃねえか、生きてたんだから」
チョコミントもビーフジャーキーを噛む。
「だよね、あのデカいの強かったし」
ストロベリーもビールをグラスに注ぐ。
「まったくだ、あれはきっと大物だぞ? それを撃破した我々にはだな……」
白牛の話が出たので、また愚痴を言い出すマッチャ。
「いいから、いいから、今日は飲んで休もうぜ」
マッチャをなだめるチョコミント。
敵機を撃破しても戦争は終わらず、彼らに与えられたのは一時の安息。
仲間と酒を酌み交わし、命ある事を喜び愚痴を交わす。
これは未来で、ロボット兵器を駆り戦争をした兵達の物語。
その戦いと青春の一幕である。
機動兵装チョコミント ムネミツ @yukinosita
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