2話 職業:無職 住所:魔王城

魔王レグルスは勇者アリシアの話をまとめた。


教会は孤児を育てて戦闘訓練と思想教育を施し、魔族と戦わせている。


その中で特に優秀な子供たちを『勇者』と呼び、その子たちを筆頭に4人組のパーティを組ませ、魔王討伐の旅に出している。


資金は信者の献金と貴族の寄進だが、それで賄えない分は贖宥状(いわゆる免罪符)という名の詐欺商品を各地で売っておぎなっている。


戦闘訓練や魔族との戦いは苛烈で、命を落とす者も多い。また思想教育は徹底的な魔族への憎悪を植え付ける内容である。


孤児は誰も養ってくれず、孤児院はどこも満杯なので子供達は逃げようとしても逃げられない。

成人する頃には立派な教会の犬なので、反旗を翻すという発想自体が浮かばない。


「そういう訳で、私は教会を滅ぼそうと思うのです」


そう呟く勇者の瞳は、暗く澱んでいた。


「なるほど、話の要旨は分かった。こちらとしても魔族を敵視している教会の存在は困っていたところだ」


魔王レグルスがそう言うと、勇者アリシアは目を閉じて「ふぅ・・・」と安堵のため息をつく。表情が全く読めないが、どうやら緊張していたようだ。


「しかし、貴様を信用する要素が無い。教会が送り込んだスパイという可能性が捨てきれないからな」

「そうでしょうね。ですから、これで信頼に足るかはわかりませんが、あるものを持って来ました」


そう言うと勇者アリシアは足元に置いていたずだ袋から、灰色に濁ったこぶし大の鉱物のようなものを取り出した。


「・・・!」

「そう、魔族のコアです。私が今まで討ち取ってきた、魔王軍の幹部のもの全てです。確か魔族はコアさえ残っていれば、蘇らせることができるのでしたよね。これをお渡しします」

「エステル、それを持て。私に見せよ」


魔王は召使いを呼び出して袋ごと受け取らせ、一つひとつ手に握って眺める。


「確かにこれは魔王軍幹部たちのコアだ。ありがたく頂戴する」


魔王は召使いにずだ袋を持って下がらせた。あごに手を当て思案しあんする。

幹部達のコアを返還してでも、この女を内通させるメリットの方が大きいとは考えづらい。しかし教会側が想像以上に馬鹿であるか、または幹部達がコアから蘇る前にこちらを滅ぼす方法や見通しなどがあるのだとしたら、まだ信用はできない。


「・・・2週間だ。2週間、貴様に協力して様子を見る。話はそれからだ」

「十分です。ありがとうございます」


勇者アリシアは魔王に頭を下げた。


「で、どうする。一旦帰るか?」

「帰ったらいずれコアを盗んだことが露見ろけんし、私は処刑されるでしょうね」

「・・・ここに住むとでも?」

「あー、そうしてくださると助かります」


こいつ・・・いけしゃあしゃあと・・・。

今まで無表情だったのにも関わらず、突然にっこりと可愛らしく微笑むアリシア。最初からこういう腹づもりだったのだろう。変な女だが、置いておいて損はないはずだ。コアを返還してくれた礼もあることだし、無下むげにはできない。

寝首をかかれる心配はあるが、その点は武器を取り上げ、魔封じのブレスレットでも着けさせておけば問題ないだろう。


「牢屋にでも勝手に住め・・・とは言わんが、見張りは置かせてもらうぞ」

「ご自由になさってください。ありがとうございます」

こうして元勇者となったアリシアは、魔王城に住み着くこととなった。

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勇者アリシア、魔王城に住む。 無記名 @nishishikimukina

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