コント
ウサギノヴィッチ
コント
巨大な迷路だった。その中に辻本はいた。知らない木々が縦横無尽に生い茂り通路を塞いでいた。「行き止まりだ」と思った。これで何度目だろう。彼は元来た道を引き返す。何時間、何十時間、何日、ここにいるだろうか。でも、自然と空腹や喉の渇きはない。彼は壁に手をやりながら歩いた。彼は歩くことをやめない。やめられないと言った方が正しかった。彼も歩き続けていることに関して疑問を持たないでいる。途中で分かれ道に来ても、自分がやってきたであろう道をなんにも迷いもなく選んで歩いていた。迷路の中心には櫓があって屋根には旗がたっている。そして、四方にはスプレーで雑に書かれた「HELP」の文字があった。中には誰かいるようではなさそうではなかった。戻っているのに、櫓は近づいてくる。行き止まりにぶつかる。彼はまた新しい道を進む。その繰り返しだった。途中に随分日が経っているのか骨だけが残っている死体を見た。近くに小さく輝くものを見たが、それはイヤリングだった。懐かしさがこみ上げた。それは辻本が彼女のさゆみにあげたものだった。初めてまとまった給料が出たときにプレゼントしたものだった。つまり、これはさゆみの死体なのかと思うと悲しくなってしまう。それでも進まなければならない。あの櫓に答えがあるはずだと信じて。辻本はイアリングをズボンのポケットにしまって歩き出した。また歩き出す。下が砂から敷石に変わる、壁に葦が生えている。櫓がどんどん近づいてくる。彼は胸を踊らせる。自然と鼓動が早くなる。これでゴールだと思ったが、通路は櫓の下を通過するだけだった。その先には、カウンターがあった。
「いらっしゃいませー、スターバックスへようこそ」
辻本は唖然とした。自分の想像していたものとは違ったからだ。
「いらっしゃいませー、スターバックスへようこそ」
「スターバックスラテをグランデで」
スターバックスがあることで疲れがどっときたのか喉が渇いて注文をする。注文した後に、席が空いているかどうか確認するように後ろを振り返り確認をする。
「トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノのショートですね」
「いや、スターバックスラテの――」
「トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノショートワン」
とカウンターの方に一回も詰まることなくオーダーを別のスタッフに言った。注文を勝手に変えられた辻本もそれに完全にしたがってしまう。
「お会計、一万円です」
「はっ?」
店員がふっかけてきたことに辻本は驚いてしまう。でも、ここは渋々したがってしまう。カバンの中から財布を取り出し、一万円札を渡す。
「一万円いただきます。九千円のお返しです」
「はい」
なにもなかったかのように九千円を財布に戻す。
「お飲物は赤いランプの下からお出しいたします。ありがとうございました」
辻本は赤いランプの下に移動をする。その前に近くにあったソファに自分の荷物を置いて自分の席を確保した。そのとき、隣の席に座ってMacBook Proでなにやら作業をしてい男から睨まれた。
「トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノのショートサイズを今お作りしております」
ランプの下に行く。すると作っていたのは、さゆみだった。辻本は驚いて言ってしまう。
「さゆみ」
「やぁ」
辻本のことを認識すると軽く挨拶をした。
「なんでここにいるんだよ」
「アイドルだけじゃ食べていけないからここで働いているの。っていう、設定」
「設定?」
辻本はさゆみの言っていることがわからなかった。
「あんたの悪い癖でこっちは大変な目にあっているのわからない? こっちは、たいへんなの。あんたの夢の中でもこんなことに付き合わされるなんてそうとう気が狂ってるわね。はい、できたわよ」
カウンターに出そうとした時に、カップに底に穴が空いていて漏れていた。
「狂っているわね」
さゆみはそう言捨てるとカップを高く掲げて自分の口をその下に持って行き飲み始めた。
そういう夢を辻本は見た。
コント ウサギノヴィッチ @usagisanpyon
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