七十年代の東京。異星人の代理戦争であった第二次世界大戦が終了し、空から隅田に「天樹」が調停のために降り立った。ここは異星人の技術でいびつにテクノロジーを発展させた世界。登場する人や物の一つ一つには必ず何かしらの参照元がある。光の巨人、敵陣に単騎突撃する宇宙戦艦、義手義足で軍属の少年少女、危機と共に駆けつけるバイク乗り。そんな祭りのような世界のなかで、異星人とのトラブルを解決する探偵伊瀬新九郎と翻訳者の少女早坂あかりが活躍する。地道で地に足の着いた探偵業と、スーパーロボットを駆使した剣豪アクション、そのどちらも楽しめる非常に贅沢な作品だ。剣豪と言えば、時代小説から抜け出てきたような遊郭の華やかな描写も見逃せないし、現代日本と違った発展を遂げた服飾文化(特に女学校の制服の着こなし)もユニーク。
チャプターごとに何か一つは必ずオリジナルがあるものが登場し、時々どこかで聞いたようなセリフが出てきて、それでいて元ネタから一ひねりも二ひねりもされている。このひねり具合が絶妙で、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのような作品世界に統一感を与えている。折に触れて実在の和菓子屋や東京の地名も地に足のついた感じを与えている。
そして相変わらず総力戦がうまい。つまり登場人物が誰一人欠けても勝てないという状況で敵に立ち向かっていく。また、都市の被害を最小限にし、常に正義のための最善手を諦めない二人は、間違いなく下村智恵理のヒーローの系譜を継いでいる。
これは特撮やアニメの優れたパロディ・パスティーシュ小説だ。言い換えるなら日本のオタクのためのご褒美みたいな作品である。読了して思い出したのはメインカルチャー、サブカルチャーへの無数の言及を含む、東西分割された日本を舞台とした矢作俊彦の「あ・じゃ・ぱん!」で、これと同じくらい読者には元ネタを探る楽しみがある。もちろん元ネタなどわからなくてもまったく構わない。これは痛快なスーパーロボットが活躍する剣豪小説でもあるのだから。