茉優の失踪 2
「冬春…」
胸が締め付けられる感じ。冬春に片想いしながら過ごした冬によく感じたもの。今すぐに傍にいて欲しい。でも叶わない。
私は結婚させられるから。
急に光に包まれて、かぐやと服を選んでいたはずの私は気付いたら厳つい鎧を身に着けた人といかにも魔術師のいう人に囲まれていた。
その人たちの話によると、帰した瞬間にこちらにもう一度召喚出来るように仕組んでいたみたい。
そして、龍王と結婚することになるから別室で待機するようにというのが、大まかな経緯だ。
「バンッ」
急に私が待たされている部屋の扉が勢いよく開いた。入ってきたのは今絶対に会いたくなかった最悪の男だ。
「お前一人しか召喚出来なかったか。もう一人もなかなか良い女だったんだけどな」
「やっぱりあなたの仕業だったのね…」
「たしか茉優だったか。一人だけとは物足りないが、俺と結婚してもらう。勿論、お前の意思なんて関係ない」
「最悪ね…」
私は今震え上がりたいという気持ちを抑えて冷静に振る舞おうとしている。本心は勿論怖い。
何で私がこんな目に遭わないとなの?
やっとずっと想ってた冬春と一緒になれてこれからなのに、
気を緩めた瞬間、頭を、体中を、同じような言葉が埋め尽くす。
ここは前回来たとき既に、私たちの住む地球とは異なる世界だということが分かっている。
それでもきっと冬春は迎えに来てくれる。そう思って落ち着かないと、下手に慌てたりしたら、龍王が何するか分からないから。
「いくらでも言うんだな。それでも結婚に関する行事は明日の昼から始まる。それまでにあの男への別れでも済ましておくんだな。まぁ、出来ないだろうけど」
扉が閉められ、私は再び一人になった。そして窓から空を見ながら溢れた。
「冬春に会いたいよぉ。早く迎えに来て…」
私の声は虚しく、響くこともしないで消えていった。
空はまだ青い。私の今を笑うかのように雲一つ無いそこから強い光が差してくる。
あんな男に屈しないで待っているからね。
物語のすゝめ 鶯 @yudarium
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