第47話『サキュバストバス』
お泊まりをしようと決めてから、綾奈先輩からハンバーグを食べたいと言われていたので、夕ご飯は私の手作りハンバーグ。
綾奈先輩が何度も美味しいと言ってくれて嬉しかったな。もちろん完食してくれた。
「あぁ、美味しかった。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「さすが、急なバイトでもキッチンをこなしただけあるよ」
「小さい頃から料理はやっていますし、大好きですから。ただ、綾奈先輩が美味しく食べてくれると、より料理が好きになりそうです」
「……そっか。近いうちに私の料理を百合に食べてほしいな」
「分かりました。約束ですよ」
私は綾奈先輩にキスする。もうこれで、先輩が家にやってきてから何度目のキスなんだろう。こんなに気持ちいいから、何度目でもいっか。
夕ご飯の後片付けをした後、温かいコーヒーを入れて食休みをすることに。
「コーヒー淹れました」
「ありがとう、百合」
綾奈先輩はさっそくコーヒーを一口飲む。今の姿もそうだけど、綾奈先輩ってどんなことをしてもその姿が美しく思える。それは会長さんにも言えることだ。
「……美味しい」
「良かったです。今もまだ綾奈先輩とこうして一緒にいるのが夢みたいで。しかも、先輩と恋人として付き合っているなんて幸せすぎて」
「あははっ、そっか。でも、百合の言うことも分かるな。幸せすぎると、現実なのかどうか疑っちゃうときがあるよね。でもさ……」
そう言うと、綾奈先輩は私にそっとキスしてくる。
「これでも、夢だって思う?」
「……先輩のおかげで現実だって分かりました」
綾奈先輩の唇の感触と、全身に伝わる激しい鼓動がちゃんと感じたから。2週間前に綾奈先輩が倒れて意識を失ったこともあったからか、本当にこういう時間を過ごすことができて嬉しいよ。というか、夢じゃないことの教え方が素敵すぎる。
「ねえ、百合。百合さえ良ければ、今日こそは一緒にお風呂に入らない?」
綾奈先輩は少し頬を赤くして、私のことを見つめながらそう言ってきた。
この前、綾奈先輩の家に泊まりに行ったときは、恥ずかしくて断っちゃったんだよね。今も恥ずかしい気持ちはあるけど、それよりも一緒に入りたい気持ちの方が強い。
「もちろんいいですよ。一緒に入りましょうか」
「うん!」
先輩、とても嬉しそうにしちゃって可愛い。恋人と一緒にお風呂に入るんだから、それは普通なのかな。
着替えなどの用意をして、さっそく綾奈先輩と一緒に洗面所へと向かう。
綾奈先輩とは恋人になったけど、それでも裸を見せるのは気恥ずかしい。ワイシャツのボタンを外す手がなかなか動かない。
「どうしたの、百合」
「いえ、特に何も……」
綾奈先輩は既に服を脱いで黒い下着姿になっていた。やっぱり、綾奈先輩ってかなりスタイルがいいな。会長さんほどじゃないけど、胸はかなり大きい。あと、この前も思ったけれど、髪を下ろした先輩ってかわいいな。
「百合がしてほしいなら、私が服を脱がせてあげよっか?」
「だ、大丈夫ですって! さすがにそのくらいのことは自分でできます」
それもありかなって正直思ったけど。そういうことまでしてもらってはまずい気がする。
できるだけ無心になって、服や下着を脱いでいく。
「……凄く綺麗だね、百合」
「そ、そんなことないです……って、綾奈先輩! 色々と生えちゃっていますよ!」
「えっ?」
綾奈先輩の瞳が赤くなっていて、角と羽としっぽが生えている。ただ、今までのサキュバスの姿とは何かが違う。
「あぁ。これがお母さんが前に言っていた赤いサキュバスの姿か……」
綾奈先輩は鏡を見ながら落ち着いた様子でそう呟く。
そうか、今までと違うのは角と羽としっぽの色が黒じゃなくて赤いからか。出ているオーラの色も赤い。色の違いに何か意味でもあるのかな。
「先輩、赤いサキュバスの姿ってどういうときになるんですか?」
「ええと、正の感情をとても強く抱いているときかな。例えば、誰かに対する強い恋愛感情とか、性的興奮とか。お母さんも若いときにはたまになっていたんだって。この赤いサキュバスの姿だったら、体の負担になることはないから大丈夫らしい。ただ、強く興奮しているし、甘えやすくなるから相手に迷惑を掛けないように気をつけてって言われた」
「な、なるほど」
つまり、この赤いサキュバスの姿でいるときは、プラスの方にかなり興奮しているということね。体への影響が特にないと分かって一安心。
「こうなったのはきっと、百合の2人きりのお泊まりでワクワクしている中で、百合の一糸纏わぬ姿を初めて見て興奮しているからなんだろうね」
綾奈先輩は私のことをぎゅっと抱きしめてくる。
これまで何度も抱きしめられたことはあるけど、お互いに服を着ていないとこんなにも感触が違うんだ。スベスベしていて、それでいて柔らかくて。いつも以上に綾奈先輩の匂いがして。先輩が赤いサキュバスになるのも納得できちゃうかも。
「ここで抱きしめ合うのもいいですけど、服も脱いだんですからお風呂入りましょう」
「そうだね。私、百合の髪と体を洗いたいな。この前、愛花が百合の髪と体を洗ったって聞いてからずっと思っていたんだ」
「もちろんいいですよ。では、お互いの髪と体を洗うってことにしましょうか」
「うん、そうしよう。まずは百合の髪と体を洗うね」
「お願いします」
私は綾奈先輩と一緒に浴室に入り、さっそく先輩に髪を洗ってもらうことに。先輩には香奈ちゃんっていう妹さんもいるし、髪を洗うのは上手そう。
「こんな感じでやっていっていいかな、百合」
「はい。気持ちいいです」
綾奈先輩は髪を洗うのが上手だなぁ。気持ち良くて眠くなってくる。
「先輩って香奈ちゃんにこうやって髪を洗ったりすることはあるんですか?」
「私が小学校を卒業するくらいまでは洗ってあげていたかな」
「そうなんですね。髪を洗うのが凄く上手ですから慣れているのかなって」
「そういうことか。百合にも妹がいるんだよね」
「はい。私も先輩と同じように小学校を卒業するまではよく一緒に入って、髪や体を洗ってあげていました」
「どの家も妹がいると一緒に入る時期ってあるものだよね。愛花もそういう時期があったし」
「確かに、妹のいる友達はみんなそういう話をしてました。それで、決まって髪を洗ってあげると。逆にお姉ちゃんのいる友達は髪を洗ってもらったって」
「ふふっ、どこの姉妹も同じなのかもね。じゃあ、シャワーで泡を落とすから目を瞑って」
「はーい」
綾奈先輩にシャワーで髪の泡を流してもらい、タオルで拭いてもらう。その手つきもとても優しかった。
「さあ、髪は終わったから次は体だね。百合ちゃんって手で体を洗う派?」
「そこのボディータオルを使って洗いますけど……」
「……そっか。いや、百合さえ希望すれば、両手で全身を洗ってあげようかなと思ったんだけど」
「そ、そうですか。その……今日はボディータオルって気分です。ボディータオルで背中を流していただけますか」
「分かった」
綾奈先輩に体を洗ってもらうだけでもドキドキするのに、さすがに素手で洗ってもらうほどの度胸はなかった。
綾奈先輩はボディータオルで私の背中を流し始める。この優しい感じ、お母さんやこの前の会長さんと似ている。きっと、香奈ちゃんの背中も流していたんだろうな。
「太ももや腋と同じで、百合の背中は綺麗だね」
「ふふっ、ありがとうございます」
鏡越しで綾奈先輩のことを見ると、先輩は今も赤いサキュバスの姿のまま楽しそうに背中を洗っている。先輩の体質を知らない人が見たら、綾奈先輩にどんなコスプレをさせているんだって思われるんだろうな。
「はい、背中はこれでいいよ。前の方はどうする?」
「さすがにそれは自分でやりますね。先輩、ありがとうございます」
「どういたしまして。後で百合に洗ってもらうの楽しみだなぁ」
綾奈先輩はどんなことを期待しているのやら。
先輩からボディータオルを受け取って前の方を洗ってゆく。自分の体を見ながら、綾奈先輩に前の方も洗ってもらう妄想をするけど……うん、してもらわなくて良かった。きっと、気持ちいいんだろうけど、恥ずかしさの方が勝りそうだ。
シャワーでボディーソープの泡を落とし、綾奈先輩とポジションを交代する。こうして綾奈先輩の後ろ姿を見てみると、角や羽やしっぽがしっかりと生えてるなぁ。
「先輩、色々と生えている状態でちゃんと髪や体を洗えるでしょうか」
「付け根の部分は触れることはできなくて、本来の肌や髪の部分に触れるようになっているんだ。だから、服を着ている状態でサキュバスの姿になっても服が破れないんだ。でも、それ以外のところは角や羽、しっぽとして触れるよ」
「へえ、なかなか都合がいいといいますか、便利なサキュバスパーツですね。普通に洗って大丈夫なんですね。では、さっそく髪の方から洗いましょうか」
「はい、お願いします」
私は綾奈先輩の髪を洗い始める。会長さんよりも長いけど、サラサラとしている洗い甲斐のある髪だ。
赤い角の根元を触ろうとすると、透き通ったかのような感じで先輩の髪に触れ、その手を角の先端に動かすとしっかりと角に触ることができた。
「変な感覚だけど、もしかして角を触ってる?」
「はい。もしかして嫌でしたか?」
「ううん、そんなことないよ」
「それなら良かったです。どんな感じなのか気になって。触られるのが分かるんですね」
「うん。羽は昔、愛花に触られたり、この前は泉宮さんに後ろから体を押さえられたりしたときに触れているから分かるんだけど、角は初めてなんだ」
「根元の方は触れないので、触られる感覚がないと思ってました」
面白い体質をしているな、サキュバスって。
羽はあるけれど、そんなに大きくないので髪を洗うことには特に支障はなかった。触れることができるので角も丁寧に。シャワーでシャンプーの泡を洗い流した。
「髪はこれで終わりですね」
「ありがとう」
「次は背中を流しますね。もちろん、ボディータオルで」
「百合なら素手で洗ってくれても良かったのに。それはまたのお楽しみにしようかな」
「ふふっ、じゃあ洗いますね」
ボディータオルを使って綾奈先輩の背中を流し始める。会長さんに負けないくらいに綺麗だな。触ってみるとスベスベしていて。
角も洗ったから、羽やしっぽも洗った方がいいかな。まずは羽から。
「おっ、羽を洗ってくれているんだ。気持ちいいもんだね」
「良かったです。じゃあ、しっぽの方も……」
「ちょっと待って、しっぽは……んっ」
しっぽの先端を触った瞬間、綾奈先輩は可愛らしい声を漏らした。お風呂の中だからかその声が響き渡って。鏡越しで綾奈先輩のことを見ると、先輩は頬を赤く染めて恥ずかしそうにしていた。
「先輩、ごめんなさい!」
「ううん、いいんだよ。ただ、しっぽは感じやすい場所っていうか。お母さんにもしっぽは触られないように気を付けることって言われているの。その……色々な意味で興奮しやすくなっちゃうから」
「そうだったんですね。じゃあ、触らないように気を付けますね」
また一つ、サキュバス体質のことを知ることができた。触らないように心がけるけれど、さっきの可愛らしい綾奈先輩の反応を見てしまうと触りたい気持ちもあって。
その後も綾奈先輩の背中や羽を洗っていく。先輩がサキュバスの姿になっているし、さっきの可愛らしい反応もあってかなりドキドキするよ。先輩の首筋とかにキスしたい。でも、ここは気持ちを押さえて洗うことに徹しなきゃ。
「あぁ、気持ちいい」
「洗ってもらうのって気持ちいいですよね」
「うん。恋人に洗ってもらうとより気持ちいいよ」
「もう先輩ったら」
こういうことをさらっと言えてしまうところも、さすがは先輩だなと思う。
「百合、もうそのくらいで大丈夫だよ。ありがとう、気持ち良かった」
「それなら良かったです」
「うん! 前の方は私で洗うから。百合は先に湯船に浸かっていていいよ」
「分かりました」
私は手に付いたボディーソープの泡を落として、湯船にゆっくりと浸かる。
横から見る綾奈先輩の姿はとても美しくて艶やかだ。サキュバスの姿になっているからか、神々しくも思えて。私、こういう人と恋人としてお付き合いすることになったんだなぁ。
「どうしたの、百合。うっとりした表情で私のことを見て」
「……今が幸せだなと思いまして」
「ふふっ、私も今が幸せだよ。さてと、私も洗い流して湯船に浸かろうっと」
綾奈先輩はそう言うと、シャワー全開で体に付いている泡を洗い流していく。シャワーのお湯が私の顔にかかる。そんなに早く私と一緒に湯船に浸かりたいのかな。
「よし、これでいいかな」
先輩は私と向かい合うような形で湯船に浸かる。
「さすがに、先輩の家のお風呂よりは狭いですね」
「ゆったりさはあまりないかもしれないけど、百合と一緒ならこのくらいの広さがちょうどいいよ」
「確かにそうですね」
どこかしら綾奈先輩と触れているのが私にとってはいいかな。先輩と一緒に湯船に浸かっているんだってより実感できて。
「でも……」
綾奈先輩は私のことを抱き寄せてくる。
「こうすれば、広さはあまり関係ないんじゃないかな。あぁ、百合の抱き心地って本当にいいな。シャンプーやボディーソープの甘い匂いもして」
「幸せな気持ちになりますね。実はこの前、先輩の家のお風呂で会長さんに今のようなことをされたんです」
「そうなんだ。愛花に先越されちゃったかぁ。愛花とどっちが抱かれて気持ち良かった?」
「会長さんも気持ち良かったですけど、どっちかって言われたら絶対に綾奈先輩です」
「……ほんと?」
「こんなことを嘘ついてどうするんですか」
「……本当なら、キスしてほしい」
「はいはい」
キスをせがんでくる綾奈先輩は普段よりも子供っぽくて可愛らしい。
湯船で抱きしめ合られながら綾奈先輩とのキスはいつもよりも熱く、ドキドキするもので。この感覚がずっと続けばいいなと思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます