俺に操縦をさせてくれ!!

雅 清(Meme11masa)

俺に操縦をさせてくれ!!

 俺は今、憧れの人型巨大ロボットのコックピットに座っている。

高さ15m、振り挙げる拳はビルをウエハースのように粉々に砕き、走る姿は暴風の如き力を持ち何物も追いつけない。両腕に備えられたレールガンはどんな装甲であっても無いようなものだ。


 周囲からの期待は厚い。それもそのはず俺はエリートだ。

扱いの難しいと言われる機体でのマニュアル訓練で成績はいつもトップ、VR模擬戦闘はもちろん実機での模擬戦闘で負け知らず。訓練学校を首席で卒業、怪獣との決戦が迫っているなか現れた希望の星というわけだ。

だが現実は厳しいものだった。今まではあくまでも訓練学校での出来事だ。俺は現場とのあまりのギャップに戸惑いを隠す事が出来なかった。


「最終チェック急げ!怪獣は待ってくれやしないぞ!」リフトに立つ整備班長が叫んでいる。隣に立つこちらの鼓膜が割れてしまいそうなほどの大声だ。

「おい、駆動域に近づくな!死にたいのか!?」

「推進剤、弾薬、バッテリーの充填全て完了しました」

「安全ケーブルは第一から第四まで解除だ」

上昇をするリフトの下では黄色いヘルメットと黄色いつなぎの整備班がせわしなく動き回っている。

「目標の到達予想時刻修正、およそ30分で市街地に到達します」格納庫内に備えられたスピーカーか知らせる。

「移動まで入れたら10分もありゃしねぇ、少しはこっちの事情も考えろってもんだ」班長が愚痴をこぼす。

「お前さんには期待してんだぜ、俺たちの替わりにぶん殴ってきてくれや」

「はい!」右肩を掴む班長の手にはいつになく力がこもっている。そう全ては俺の肩にかかっている。

「なんだ震えてるじゃねぇか!安心しろ後ろには俺達がいるんだからよ、ガハハハ!」

俺は班長の豪快な笑い方が好きだ、聞いていると不安も恐怖もみんな勇気になるような気がするのだ。


リフトがコックピットハッチに到着。中で作業していた整備員がこちらに気づき外に出てきた。

「姿勢制御、関節駆動系、動力系統、FCS全て問題ありません」

「ありがとうございます」

俺はそう言うと薄暗いコックピットへと乗り込み、コックピットのハッチを閉めた。

「コードE0023AG、パイロット名アマギ・リュウ」

「コード承認、パイロット確認、起動兵器バスターパンサー起動します」戦闘補助AIが起動、いよいよだ。

黒い装甲に包まれた人類の切り札にして必殺兵器、起動決戦兵器バスターパンサーが目覚めたのだ。

暗い全天球型コックピットに照明が点灯しモニターが外界を映し出す。

「がんばれよー!」

「クソったれをぶちのめしてやれ!」

安全線まで下がった整備班は一列に並びこちらを見上げ声援を送る。

コックピットでは一人だ。だが皆が付いてくれている!必ず勝って見せる!!


天井から操縦桿が降りてくる。いや待て、これは操縦桿か?

「あの……、だいぶ形が違うようなのですが」オペレーターに声をかける。

「あなた、事前にマニュアルを読んでいないのですか?」

 今までの訓練機とは違うのだ、マニュアルは読んで当たり前だ。……だが正直なところ冗談だと思っていたんだ。訓練時代と形があまりにも違うので緊張している俺を励ますためだと。

「読みました、何度も……」

「では問題ないはず」オペレーターは冷静に答える。

「貴方なら大丈夫です、きっとやれる。前線に一人で立つ恐怖は、ここに居る私たちが思うよりずっと……すごいのでしょう……でも大丈夫!皆待っています」すこし声が震えているようだ。

確かに怖い、相手は怪獣だ。憧れのパイロットになったといっても恐怖がなくなるわけじゃない。でも目の前のことが衝撃的過ぎて麻痺してきている。そういう狙いか?

「確認なのですが、操縦桿とかフットペダルとか、やっぱり無いですよね?」

「ですから……オートマ化が進んだ結果です。本当に読みました?」

分かったぞ!これは俺の感覚がきっと変なのだ!そうだ緊張と恐怖でそうなっているに違いない。……そんなわけあるか!!目の前の操縦桿はクレーンゲームのような簡素な操作ボタンとレバーしか無いんだぞ!これで戦えと言うのか?

「発進ゲートへどうぞ」

脅威が迫っている。選択肢は一つ、このふざけた操縦桿でやるしかないのだ。

俺は“進む”のボタンを押した。少しフニャっとした押し心地だ、バネが弱いんじゃないか?

「チュートリアルを開始するかニャ?」コックピットに謎の電子音声が響く。

「はい?」

「あ、そこはもう一度“進む”のボタンを押してスキップしてください」

「悪いな!俺の趣味でよ、ガハハハ!」班長が豪快に笑う!

趣味を乗せるのは自分の車だけにしてくれ。もしかしてパンサーってそういう感じでつけた名前なのか?


発進ゲートに到達しカタパルトに足を嵌めるバスターパンサー。ここまでボタン一つだ。もうあのふざけたマニュアルを信じるしかない。

「バスターパンサー発進!」“進む”ボタンを連打する。

カタパルトで発進の姿勢をとるパンサーが両腕を前に出している姿がどことなく猫っぽいがきっと気のせいだ。

ブースターが点火、瞬時にその炎は鮮やかなオレンジから青へと変わる。加速が衝撃となって体に襲い来る。重力軽減装置とこの特性パイロットスーツ、パイトッロシートが無ければ凄まじいGによる気絶は免れないだろう。目の前でガタガタとゆれる操縦桿のようなものがなければ雰囲気は抜群にカッコイイのだが。


「凄い、本来のスペックを凌駕している」オペレーターの驚く声がヘルメットを通し聞こえてくる。

「彼と戦闘補助AIエイリスとの適合率があってこそです」指令室で白衣を着た長髪の開発主任がわざとらしく眼鏡をかけなおしながら言う。

適合率?そんなもの聞いていないぞ、血液検査も何もやっていないしマニュアルにもそんな記載は無かった。

「リュウは軟骨の唐揚げが大好物ニャんだよねぇ、私も大好きー!」AIエイリスが答えた。

さっきのふざけた音声がエイリスだったのか。しかし何で俺の好物を知って……昨日のアンケートか?

「他にもいろんな事がたくさん共通してるんだニャー、例えば……」無邪気に共通点を並べるエイリス。確実に昨日のアンケートである。

適合率とは見合いのプロフィール記入欄とかそんな感じなのか?むしろこの場合メイド喫茶のお客様個別アンケートか?AIにここまで感情豊かに話させるのは流石である。これは戦闘AIでなければ素直に驚き褒めていたところだ。

そして分かったことが一つ、班長だけじゃなくて主任の趣味も入っている。あまり考えたくはないがエイリスという名前は二人のお気に入りのメイドの名前ではないだろうか?



 バスターパンサーは高速で市街地上空を抜け、街へと迫る怪獣を海上で待ち受けることに成功した。

一歩も退くわけにはいかな。

バスターパンサーのメインカメラが海上を進む目標の姿と捉えた。沈む太陽を背にこちらに向かって歩く怪獣だ。

「コードネーム“ハンマーヘッド”名前の通りシュモクザメみたいな見た目ね」オペレーターは手元の操作盤を操作し怪獣の解析を行っている。こちらの操作盤はちゃんとした形をしている。

ハンマーヘッドもこちらに気づいたのだろう、空を裂く咆哮がコックピット越しであっても地割れのように響いてくる。

「攻撃開始!」司令官が勢いよく立ち上がり指令を下した。大型モニターに向かって指など差している。

「行くよ!リュウニャ!」人の名前の語尾をつけるんじゃない。

バスターパンサーは豪快に波を蹴散らしながら走り出す。これまで操作はいまだにボタン一つで済んでいる。

「目標まで距離……80……70……」オペレーターのカウントダウンが始まった。

皆固唾を飲んで見守っている。

「20……10……接敵!!」

「うおぉぉ!!」緊張した空気に辛うじて飲まれることに成功した俺は先制攻撃を繰り出す。

バスターパンサーの剛腕がハンマーヘッドの腹部にめり込む。こちらに振り下ろされる右腕の反撃を掻い潜りその勢いのまま回し蹴りさらに喰らわせる。さらに流れる連携攻撃、殴る!蹴る!この動作全て2ボタン。

ハンマーヘッドはイラついているのだろう攻撃が大振りだ。後方へ距離をとる。そして距離を詰め、周り込む。

さっきまで使っていた“進む”ボタンは一切使っていない。戦闘中の移動は左側にあるレバーで行う。戦闘と移動で操作方法が違う謎仕様である。オートマ化を突き詰めたのになんでここだけポンコツなのか。

高性能な戦闘AIエイリスの補助によりレバーを前に傾けて前進、相手の動きに合わせて後ろに倒せば防御すること出来る。どこかで見たことのある動きだ。


 コクピット周りはどうであれ人類の命運を賭けた死闘であることに変わりはない。特殊複合装甲はひしゃげ、剥がされ。駆動系は軋みパワーの低下が伺える。

時間と共に増えていく赤い警告表示、機体の限界が近づいているのだ。海は機体の破片とオイル、そして怪獣の血に染まっていく。


 苛烈を極める死闘のなかここで俺は怪獣のあるクセに気づいた。前後に小刻みに動いているのだ。相手の出方を伺い、そしてフェイントする。攻撃が来てもすぐに後ろに下がり防御できる姿勢。なんだかゲームみたいな動きだ。

「ゲージが溜まった!いけるぞ!」班長が叫ぶ。

モニターに表示されたメーターが仰々しく光る。

「必殺技ニャ、リュウ!」エイリスの声に反応し目の前に『必殺技』と書かれたボタンが出現した。

「サンダァァァーブラストォォ!!」俺は叫んだ。もしかしたら泣いていたかもしれない。

今までの苦労、訓練学校と現場のギャップ、ふざけた操縦桿と変なAIとその他もろもろ……そして叫ばないと発動しないわりにボタン連打という滑稽な操作方法を要求してくる必殺技に怒り全てをぶち込んだ。


 怒りの必殺技の直撃を受け怪獣ハンマーヘッドは爆散した。海上の燃え上がる炎に照らされる人類の希望、起動兵器バスターパンサー。人類の平和は守られた。

 戦いが終わりリュウはコックピットで脱力していた。あと何体の怪獣を倒すのか?

あと何回こんな戦いをしなければならないのか?

「止めたい……」気づかぬうちに心の声が漏れていたが歓びに沸き立つ指令室とハンガーの人々には届かないのであった。


おわり

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